瑠美架の芯
支度を整えて瑠美架の部屋に戻ってみると、俺を待ちわびていた瑠美架が控えめに抱きついてきた。自然に口角が上がってしまう俺は、着替えが入っているバッグを投げ出し、華奢な瑠美架の体を優しく抱きしめ返す。すると瑠美架の腕に力が入り、少し強めに俺の体を抱きしめ直した。瑠美架としては結構な力を入れているみたいだが、俺にはとてもか弱いものにかんじられた。
「お帰りなさい……」
小さい、とても小さい声で、瑠美架は俺にそう言った。
「ただいま」
答えた俺の声は、とても優しい響きをしていて、俺は我ながら少し驚いてしまう。
「亜希子やナギサに向けて、こんな声になったことはないな」
つい口をついて出てしまった、女たちの名前。しまったと俺が思った瞬間、瑠美架が顔を上げ、俺を見上げてきた。その顔は少しムッとしていて、瑠美架なりに怒気がこもっている。とはいえ、すぐに不安そうな目の色になってゆく。俺は愛しさが胸に溢れて、瑠美架を強く抱きしめた。
「ごめん、どっちも終わった女だから。 心配ないから。 俺は瑠美架だけだよ」
「はい……。 でも、私が出会う前の雪匡さんを知っている人たちがいると思うと、少し、嫉妬してしまいます……!」
嬉しい。とてつもなく嬉しい。瑠美架がどうでもいい女に嫉妬してくれる。俺への気持ちを相変わらず全く隠そうとしない。だから俺も包み隠さず話す。
「大した仲の女じゃないよ。 瑠美架との方が深い。 それに、瑠美架と出会ってからの俺は、瑠美架以外の女を女と思ってないよ……!」
これが俺の本当の気持ちだ。瑠美架以外に興味なんてない。俺の言葉にこもった本気を、瑠美架もかんじ取ってくれた様で、心から安堵した顔になってくれた。瑠美架が俺の胸元に頬を寄せ、背中を柔らかく抱く。
「嬉しい……! 雪匡さん、大好きです……!」
「あぁ、俺も大好きだよ……! 瑠美架……!」
そう言って、俺は瑠美架を抱きしめ直す。すると亜希子とナギサの家から持ってきた着替えが入ってるバッグが視界に入った。俺にはそれが、亜希子とナギサの様に思えた。ナギサが下着を、自分の存在の延長の様に言っていたこともあって、これらを使うのは瑠美架への裏切りの様に俺には思えた。
「服、買わなきゃな。 前の女たちと関係がない服を着たい。 瑠美架を一切不安にさせたくない。 俺は瑠美架だけが大事だから」
「そんな風に言ってくれるんですね。 信じられます。 私、他の人のこと、気にしないです。 だから、雪匡さんももう、過去は気にしないで下さい。 はぁ、幸せ……!」
線が細くて壊れそうなほど脆弱に見える瑠美架だが、意外と芯はしっかりしているのかもしれない。得体の知れない俺をここまで信じられるのは若さ故の浅はかさだとも思うが、しかしそれだけではない様な気もする。ある意味で俺たちはお互いを必要とする何かがあるのか。もしそうなら、この年端も行かない少女に惹かれた俺は何をかんじたのか。どこか胸がときめく様な、しかし何かがざわめく様な気がした俺だが、かきたてられる情欲のまま瑠美架をベッドに押し倒した。どこまでもしょうもない男だと自分でつくづく思う。俺を信じ、思いやってくれて、かつ、芯の強さをかんじさせてくれた瑠美架とは、全くもって釣り合いが取れていない。




