ドアに向かうナギサ
インターホンが鳴った。誰だろ?なーんてアタシが思うより早く、ゴンゴンと音がする。ユキグニが来たんだってすぐわかる。爪先でドアを蹴ってるんだってすぐわかる。だからアタシは笑顔になりながら、眉は八の字になる。
「もう、しょうがない人だよ」
コロコロをかけてフローリングのお掃除をしてたけど、お掃除は一旦中断。まっ、キリがいいところだったしね。
「はいはーい」
背すじをぴんと伸ばして顎を上げて、いかにも自信ありますってかんじで肩で風をきって歩くアタシ。ユキグニからは見えてないのに、ドアの向こうにいるとなると完全にいい女モードに入っちゃう。もう32歳だよ?やめなきゃなー、ちょっと隙があるとこも見せなきゃなー、なんて思いつつ、これがアタシだって思いもあるし。
「あはっ」
一応覗き穴でドアの向こうを見てみると、そこにはやっぱりユキグニがいた。ゴンゴンとまたドアを蹴る音。もう、蹴らないでって言ったはずなのになー。
「今開けるね、待って」
アタシはそう言って、ドアのロックを解除する。ユキグニは一緒にここに帰って来た時、アタシが鍵を開けるまでの時間すら待てない。早く開けろってかんじでドアをゴンゴン蹴る。そしてうちに入ると、大抵すぐにアタシのことを抱く。だから私は逆に、ゆっくりドアを開けちゃう。
「もう、蹴っちゃダメって言ってるのになー」
ドアを開けながらぼやくアタシ。いつも通りのアタシを演出する。ユキグニは勢いよく入って来て、アタシの唇を奪いながら、体をまさぐってくる……はずなんだけど、いつもなら。
「開けるの遅ぇよ」
そう言って入ってきたユキグニは、大きなバッグを持ってる。着替え持ってきたのかな?しばらくうちに泊まるつもり?着替えならちゃんと用意してるよ?
「あはっ、ごめんね? どうしたの? 何か忘れ物~?」
ユキグニ何か急いでるかんじ。じゃあ今日はお酒飲んだりって雰囲気じゃないか。
「ゆっくり出来る?」
「……」
返事はない。ユキグニ昔っからこういうとこある。喋らないで、行動で思ってることを伝えてくるとこ。でもいいよ、アタシはわかってあげられるから。




