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越冬  作者: 社 やすみ
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背を向ける亜希子

 雪匡が私のところに帰って来たのは二日後のことだった。出勤準備でバタバタして忙しい時間帯。夜の気配と一緒に雪匡は帰って来た。


「お帰り」


「ああ」


 会話は続かない。雪匡は普段通りの様に見えるけど、いつもよりそっけないとも思う。雪匡はあの日のままの黒づくめの格好で、雪匡とあの娘の抱擁がよぎる。そしてその後のキスを思い出してしまうと、私の頭の中が熱くなった。


「二日も、どこで何してたの? 誰と一緒にいたの?」


 平静を装ってはいたが、そう()いた私の声は震えた。こんなこと、初めて聞いたのだが、雪匡は私を気にする様子がない。何かを想う様にふっと笑うだけだった。あの少女のことを思い出していることがどうしようもなく分かってしまう。雪匡は私にこんな顔をしたことがない。そんなことを考えると、息がどんどん荒くなって、胸が苦しい。見ていると雪匡はしゃがみこんで、タンスの引き出しから下着を出し始めた。押し潰されそうなほどの巨大な怒りと嫉妬の感情に襲われながら、私は雪匡を見下ろす。雪匡とナギサの仲が続いてることなら知っていたし、それを黙認してきた私。雪匡はバレていないつもりだけど私は全部知っているし、ナギサは私をただ友だちだと思ってるはず。私は今までナギサのことはどこかで見下していたけど、雪匡のことも見下していたんだなと今さらながらに思う。何も知らない二人の行動を把握して、掌の上で踊らせていた気持ちになっていたんだなと思う。だけど雪匡は、私の知らないところで知らない少女と知り合って、既にただならぬ仲になっていた。だから私は、あの少女についても同じスタンスでいたいと思う。全てを把握して、雪匡を自分の手元から離さない為に。その為にあの少女とどうにかしてこっそり知り合おうと思う。なのに、私の口をついて出たのは全く違う気持ちが溶け込んだ、探りを入れる言葉だったのだから、冷静ではいられなくなっている自分をかんじた私の頭の中はさらに熱くなる。呼吸も更に荒くなる様な気がした。意識すると息にもより震えが混じった。


「ねぇ、聞いてるの?」


 雪匡は私の方を見もせず、どんどん服を出して行く。普段なら「何してるの~、ね~え~」とか何とか声をかけてしなだれかかるところだが、あの娘と熱く抱擁を交わしているところを見た記憶が邪魔をして、そんな気持ちにはなれない。あの娘を抱きしめたままの服に抱きつきたくない。悔しいし腹が立つ。私は、雪匡がナギサを抱いていると知っても嘲笑えていたのに、今の私の頭の中は泡立つように煮えたぎり、その熱は胸にも来てしまった。雪匡を見るというか、凝視し続けている私の目は、きっと汚いものを見る様な目になっていたのではないだろうか。眼圧で目がしばしばとして痛い。そんな私の様子なんて知る由もない雪匡は、何でもないという雰囲気を出しながら言った。


「俺、ちょっと働きに出るから、着替え持ってくわ」


 この言葉に、私の熱は背中まで広がる。いや、背中のみならず全身に広がって行く気さえした。


(あの()のところに行くの?)


 そう思うと何かに押し潰された気持ちになり、涙が出て来た。私の口からは溜め息が出たけどそれは「はぁー」というよりは「ふぅー」といった風で、こもった熱を排出している機械の様だと自分で思った。全身がこれ以上なく熱い。私は涙を拭いながら雪匡に背を向けた。心も機械の様に冷えればいいのに、と思いながら。

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