小布施で秋刀魚を売るような小説を書いています
こんにちは。雨日です。
早朝から連載を四話ぶっ続けで書いた。
筆を置いた瞬間、頭はぼんやり、その世界観に浸ってしまう。
物語の中では登場人物たちが余裕なく戦っているのに、
現実の雨日は現実の戦い(=週末の食事会の準備)がある。
正直、自宅は“人を招く城”どころか、“籠城戦の末に荒れた砦”みたいな状態だ。
なのに食事会は迫ってくる。
連載の軍議をしている暇があったら、掃除に着手したほうがいい。
・・・頭ではわかっているのに、現実逃避のために、このエッセイを書いている。
そんな今朝のことだ。
家族に、ふいにこう言われた。
「小布施で秋刀魚を売るな」
◇ それはあの観光地ですか
え?
小布施って、あの小布施だよね?
長野県に 小布施 という町がある。
栗の名産地で、栗菓子や栗おこわがとても有名だ。
観光地としても人気があり、食べ歩きや北斎館などで賑わう “小さな旅の町”。
秋になると、栗が出回る時期に合わせて人がどっと増える。
今日は、家族から言われた
「小布施で秋刀魚を売るな」
について書く。
◇ それってどういう意味?
『小布施で秋刀魚を売る』
家族の発言の意図が全くわからなかった。
秋刀魚・・・売らん。
そもそも雨日は飲食業をしていない。
ーーいったい何を?
ふと見ると、家族の手にはスマホ。
どうやら、雨日の小説を読んでいたらしい。
名探偵なら、
小布施 ✕ 秋刀魚 ✕ 小説
この三つで謎が解けるのだろう。
だが残念ながら、雨日はクイズが苦手である。
なので何も考えず、素直にこう聞いた。
「どういうこと?」
家族は言った。
「雨日の小説だよ」
「小布施ではモンブランを売るべきだ」
「・・・ああ、うん」
当然だ。
小布施といえば栗の名産地。
栗おこわ、栗羊羹、モンブランーーそれらが観光客のお目当てだ。
家族は続ける。
「雨日の小説は、小布施で秋刀魚を売っているようなもんだ」
・・・え?
そこに小説を持ってくるの?
びっくりだ。
「想像しろ。小布施の街中で『新鮮な北海道産の秋刀魚だよ! 美味しいよ!』って売ってみろ」
「・・・売れないだろうね」
雨日は即答した。
なんで、長野の山の中で北海道産の秋刀魚を買うんだ。
しかも観光に来て、生物は買いたくない。
家族はスマホを見せながら、淡々と言う。
「雨日の小説は、小説家になろうにおいて、ちょうどその立ち位置なんだよ」
ーーえ!
そうなの?
小布施における
栗おこわ・モンブラン・栗羊羹
これこそが “王道のお楽しみ”“売れ筋”。
なろうにおける
ざまぁ・悪役令嬢・異世界転生
これが “テンプレ”であり、みんなが喜ぶ“栗スイーツ枠”なのだ。
雨日は思わず固まった。
「・・・じゃあ、雨日は秋刀魚を売ってたの?」
「そう。しかも北海道産を」
雨日の小説は、
シリアス × 非テンプレ × 長文 × 群像劇
という、“なろうで読まれにくい四大要素”を見事にコンプリートしている。
つまり、
「栗の名産地・小布施で、北海道産の秋刀魚を売る」
それくらい市場に合わせていないのだ。
◇ モンブランに加工できる?
「もう読まれるテンプレにしろ。モンブラン売れ」
家族はさらっと言う。
「そんなのできないよ! 秋刀魚をモンブランに加工できる知恵はないの?」
雨日は、家庭内の名探偵に頼った。
「あぁ、できる。すぐにできる」
えっ・・・そんな簡単に?
あまりにもあっさり言うから、拍子抜けした。
「まずは・・・ウロウロしている爺さんを、主人公が顎で使うんだ」
は?
爺さん?
いや待て。雨日が書いている主人公の天敵は47歳。
作中世界では平均寿命が50歳だから、
「爺さん」という表現が間違っているわけでは・・・ない、のかもしれない。
ーーいけない。
こんな小さなことに引っかかっている場合じゃない。
今から聞くのは、
秋刀魚をモンブランに替える秘技である。
姿勢を正さねば。
◇ 秘技(テンプレ化)の実演
家族は腕を組み、まるで講義でも始めるように言った。
「後はな・・・真面目な幼馴染と、むっつり家臣。
それからタイプの違うイケメンを数人投入して、主人公をウハウハさせろ。
逆ハーレムを作れば、女性読者はいただきだ」
ーーなんて下品なんだろう。
『ウハウハ』『いただきだ』
年齢がバレる。
そんな単語、本気で言う大人がこの家にはいた。
「そんなのできないよ」
思わず唾を吐き捨てて言いそうになった。
(これもまた年齢がバレる言い方だ)
家族は鼻で笑った。
「じゃあ一生、小布施で秋刀魚だな」
違う、そうじゃない。
「そういうことじゃなくて!
今の文体を変えずにモンブランに加工してほしいのだよ!」
雨日の悲痛な叫びに、名探偵の眉がぴくりと動いた。
そして烈火のごとく言う。
「無理だ!!
悪徳令嬢を出せ!
ザマァをやれ!
やることやらずに『秋刀魚が売れない』だと!?
さっさとモンブランを作れ!!」
◇ 日本一の秋刀魚店になる。小布施でね
無理。
雨日は、あっという間にモンブラン化を諦めた。
ーーもう、いいよ。秋刀魚で。
小布施で、新鮮で美味しい秋刀魚を売ってみせる。
そのうち、
「あそこに行けば、絶品の秋刀魚が買える」
と評判になるかもしれない。
人生とは、案外そういうものだ。
だって雨日自身、一年二ヶ月前までは、
自分が小説を書いているなんて想像もしなかったのだから。
何が起こるかわからない。
それは確率の悪いことだけど。
小説家になろうには、面白いお客さん(読者)がいる。
人で混雑している栗おこわのお店を横目に、
ふらりと秋刀魚の店に立ち寄るような、
ちょっと奇特で、ちょっと変わった思考の持ち主たち。
でもーーそういう人たちが、雨日を支えてくれている。
そして、このエッセイを読んでくれているあなたも。
なろうでエッセイだよ?
なんで読んでいるの?
そんな方達がいるから。
いつか、
「小布施でいちばん人気の秋刀魚店」
になれるかもしれない。
そんな日を夢見て、雨日は今日も筆を取るのだ。
小布施でね。




