表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/69

小布施で秋刀魚を売るような小説を書いています

こんにちは。雨日です。


早朝から連載を四話ぶっ続けで書いた。


筆を置いた瞬間、頭はぼんやり、その世界観に浸ってしまう。


物語の中では登場人物たちが余裕なく戦っているのに、

現実の雨日は現実の戦い(=週末の食事会の準備)がある。


正直、自宅は“人を招く城”どころか、“籠城戦の末に荒れた砦”みたいな状態だ。


なのに食事会は迫ってくる。


連載の軍議をしている暇があったら、掃除に着手したほうがいい。


・・・頭ではわかっているのに、現実逃避のために、このエッセイを書いている。


そんな今朝のことだ。


家族に、ふいにこう言われた。


「小布施で秋刀魚を売るな」



◇ それはあの観光地ですか


え?


小布施って、あの小布施だよね?


長野県に 小布施おぶせ という町がある。


栗の名産地で、栗菓子や栗おこわがとても有名だ。


観光地としても人気があり、食べ歩きや北斎館などで賑わう “小さな旅の町”。


秋になると、栗が出回る時期に合わせて人がどっと増える。


今日は、家族から言われた


「小布施で秋刀魚を売るな」


について書く。




◇ それってどういう意味?


『小布施で秋刀魚を売る』


家族の発言の意図が全くわからなかった。


秋刀魚・・・売らん。


そもそも雨日は飲食業をしていない。


ーーいったい何を?


ふと見ると、家族の手にはスマホ。


どうやら、雨日の小説を読んでいたらしい。


名探偵なら、


小布施 ✕ 秋刀魚 ✕ 小説


この三つで謎が解けるのだろう。



だが残念ながら、雨日はクイズが苦手である。


なので何も考えず、素直にこう聞いた。


「どういうこと?」


家族は言った。


「雨日の小説だよ」

「小布施ではモンブランを売るべきだ」


「・・・ああ、うん」


当然だ。

小布施といえば栗の名産地。

栗おこわ、栗羊羹、モンブランーーそれらが観光客のお目当てだ。


家族は続ける。


「雨日の小説は、小布施で秋刀魚を売っているようなもんだ」


・・・え?


そこに小説を持ってくるの?


びっくりだ。


「想像しろ。小布施の街中で『新鮮な北海道産の秋刀魚だよ! 美味しいよ!』って売ってみろ」


「・・・売れないだろうね」

雨日は即答した。


なんで、長野の山の中で北海道産の秋刀魚を買うんだ。


しかも観光に来て、生物は買いたくない。


家族はスマホを見せながら、淡々と言う。


「雨日の小説は、小説家になろうにおいて、ちょうどその立ち位置なんだよ」


ーーえ!


そうなの?


小布施における

栗おこわ・モンブラン・栗羊羹

これこそが “王道のお楽しみ”“売れ筋”。


なろうにおける

ざまぁ・悪役令嬢・異世界転生


これが “テンプレ”であり、みんなが喜ぶ“栗スイーツ枠”なのだ。


雨日は思わず固まった。


「・・・じゃあ、雨日は秋刀魚を売ってたの?」


「そう。しかも北海道産を」


雨日の小説は、


シリアス × 非テンプレ × 長文 × 群像劇


という、“なろうで読まれにくい四大要素”を見事にコンプリートしている。


つまり、


「栗の名産地・小布施で、北海道産の秋刀魚を売る」


それくらい市場に合わせていないのだ。



◇ モンブランに加工できる?


「もう読まれるテンプレにしろ。モンブラン売れ」


家族はさらっと言う。


「そんなのできないよ! 秋刀魚をモンブランに加工できる知恵はないの?」


雨日は、家庭内の名探偵に頼った。


「あぁ、できる。すぐにできる」


えっ・・・そんな簡単に?


あまりにもあっさり言うから、拍子抜けした。


「まずは・・・ウロウロしている爺さんを、主人公が顎で使うんだ」


は?


爺さん?


いや待て。雨日が書いている主人公の天敵は47歳。


作中世界では平均寿命が50歳だから、

「爺さん」という表現が間違っているわけでは・・・ない、のかもしれない。


ーーいけない。


こんな小さなことに引っかかっている場合じゃない。


今から聞くのは、


秋刀魚をモンブランに替える秘技である。


姿勢を正さねば。



◇ 秘技(テンプレ化)の実演


家族は腕を組み、まるで講義でも始めるように言った。


「後はな・・・真面目な幼馴染と、むっつり家臣。

それからタイプの違うイケメンを数人投入して、主人公をウハウハさせろ。

逆ハーレムを作れば、女性読者はいただきだ」


ーーなんて下品なんだろう。


『ウハウハ』『いただきだ』


年齢がバレる。


そんな単語、本気で言う大人がこの家にはいた。


「そんなのできないよ」


思わず唾を吐き捨てて言いそうになった。


(これもまた年齢がバレる言い方だ)


家族は鼻で笑った。


「じゃあ一生、小布施で秋刀魚だな」


違う、そうじゃない。


「そういうことじゃなくて!

今の文体を変えずにモンブランに加工してほしいのだよ!」


雨日の悲痛な叫びに、名探偵の眉がぴくりと動いた。


そして烈火のごとく言う。


「無理だ!!

 悪徳令嬢を出せ!

 ザマァをやれ!

 やることやらずに『秋刀魚が売れない』だと!?

 さっさとモンブランを作れ!!」




◇ 日本一の秋刀魚店になる。小布施でね


無理。


雨日は、あっという間にモンブラン化を諦めた。


ーーもう、いいよ。秋刀魚で。


小布施で、新鮮で美味しい秋刀魚を売ってみせる。


そのうち、


「あそこに行けば、絶品の秋刀魚が買える」


と評判になるかもしれない。


人生とは、案外そういうものだ。


だって雨日自身、一年二ヶ月前までは、

自分が小説を書いているなんて想像もしなかったのだから。


何が起こるかわからない。


それは確率の悪いことだけど。


小説家になろうには、面白いお客さん(読者)がいる。


人で混雑している栗おこわのお店を横目に、

ふらりと秋刀魚の店に立ち寄るような、

ちょっと奇特で、ちょっと変わった思考の持ち主たち。


でもーーそういう人たちが、雨日を支えてくれている。


そして、このエッセイを読んでくれているあなたも。


なろうでエッセイだよ?


なんで読んでいるの?


そんな方達がいるから。


いつか、


「小布施でいちばん人気の秋刀魚店」


になれるかもしれない。


そんな日を夢見て、雨日は今日も筆を取るのだ。


小布施でね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ