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61話 ご機嫌取り

「…………」

「ほ、ほら……食べていいよ」


 結局、口頭で弟の機嫌を取る事が出来なかったリルはその場で美味しい店を検索し、ここまで来たのだ。

 高い出費であったが、現実の食事には変えられない。


「で……なんで急にあんなことを言ったんだよ」

「いや、だって周り見えてなかった?」


 リルはポリポリと頬を描きながら秋也のアバターを見て、指を差すとパクパクと口を動かす。

 そう言えばアバターの名前を聞いていなかったのだ。


「……フィンだよ」

「あー! フィンちゃん!」

「ちゃんづけで呼ぶな……」


 その名前にはリルにも覚えがあった。

 彼女の名前にもなったフェンリル。

 そして、そのライバルであり、心強い仲間であるグリフォン。

 フォンちゃんというのが相性ではあったが、アニメに登場する小さな子がフォンちゃんというのが難しいらしくフィンちゃんと呼んでいたのだ。

 そして、弟の秋也もそれに影響されフィンと呼ぶようになった。

 確かに彼がつけそうな名前だ。


「で……フィン? あのね……見るからにストーカーだったし、そのアバターがあんただって知らなかったら私に忠告出てておかしくないからね」

「……は!?」


 心外だ! そう言うかのように巨体を揺らしガタっと立ち上がるフィン。

 それもそうだろう。


「く……そうか、隠密スキルは高くなかった……」

「いや、隠密出来ても変わらないでしょ……」


 そもそも隠密とかはシーフのスキルだろう……。

 そう予測したのだが、すぐにジョブを変えれることを思い出し、それを言わずにおくと……。


「で……そんなに心配だった?」


 リルは少し顔を赤らめながらそう言う。

 複雑ではあったが、弟に心配されるのは嬉しくはあったのだ。

 だが、そんな姉の気持ちを知ってか、知らずかフィンは大きな肉を頬張ると少し呆れたような表情を浮かべ。


「あーあーそうですよ、一応は姉だからな」

「なんか、凄く引っかかる言い方……可愛くないなー」


 もう少し、素直に心配してくれてもいいのでは? と彼女は思ったが、それ以上は何も言わず。

 メニューを操作すると――。


「ほかにも食べる?」

「なんだそれ……偉く気前が良いな……」


 何かあるんじゃないか? と警戒する弟ではあったが、リルには勿論そんな気はなかった。

 単純に気分がよくなったのだ。

 素直ではない。

 だが、ちゃんと心配してくれていることを知った彼女は少しニヤけると……。


「…………」


 弟は訝しげな表情を浮かべる。


「……まぁ、おごってもらえるならこれも頼む」


 そう言って指を差してきたのは同じ量のステーキにチーズソースのようなものがかかっているようだった。

 それを見てリルは目を丸め――。


「これって、確か……」

「ああ、提携して味をそっくりにしてあるみたいなんだよ……」

「へぇー、じゃぁ私も頼もうかな?」


 現実で知っているなじみ店の味が楽しめる。

 それを知ったリルもまた同じものを頼む。

 暫く待つと美味しそうに焼ける音ともに出されたのはなじみの店の看板メニューだ。

 ナイフを入れ、一口フォークにとって口へと運ぶと濃厚なチーズソースとあう肉のうまみが口いっぱいに広がる。


「本当にあの味だ! 凄い!」


 リルは驚きつつも得をした気持ちになった。

 何せここでならカロリー0だ。


「ゲーム内通貨、ではあるけど実際の店にも支払われるらしいんだよな」

「へー」


 それなら、心置きなく食べれる。

 そう思いつつリルはステーキをもう一切れ口へと頬張る。

 口いっぱいに広がるその味を堪能していた時だ……。


「……っ!?」


 目に移ったのはあの剣士だった……。

 明らかにこちらを見ているのは丸わかりだ。

 ゾクリとしたものを感じたリルの目の前にはアラームと共に忠告が現れる。

 同時にだらだらと汗がながれ、心臓がバクバクとし始めた。

 今まで感じたことのない感覚に戸惑っていると一歩、また一歩と近づいてくる音が聞こえ――。


「おい、人の姉に近づくなよ……それ以上近づくなら、通報を押すからな」


 いつの間にか立っていた弟に腕を掴まれていたことにようやく気がついたリルは顔を上げる。

 すると彼はリルへと目を向け――。


「ったく、らしくないな」

「……う、うるさい!」


 自分が被害に遭うのは初めてなのだ。

 だからこうなっても仕方がない、リルはそう言いたかったが、この場にフィンがいたことに安堵をするのだった。

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