33話 兄さん
兄と出会ったのは神々の黄昏というMMORPGだった。
母達がやっていたそのゲームをリルもやりたいといった事から彼と出会ったのだ。
「冬乃、名前を付けるのよ」
母にそう言われ彼女は当時好きだったゲームからフェンリルというお気に入りのペットの名前を入れようとした。
しかし、既に使われているという表示の元名前が付けれなかったのだ。
「ふぇんちゃん……」
彼女にとってフェンリルとはもこもこの灰色の犬……本人は狼だというのがお決まりのマスコットキャラクターだ。
当時は可愛いモンスターを育てるゲームが流行っていた。
中にはそういうのが嫌いと言ってやらない子もいたが、リルは例外に無くはまっていたのだ。
とはいえ、両親がゲーム好きという事もあり、世間ではやっている者とは違ったが……。
そこで出会ったのがフェンリルだった。
お気に入りであるキャラの名前が使えない。
がっかりする少女に母はこういったのだ……。
「フェンとかリルならどうかしら?」
それを聞き、彼女はフェンと名付けようとし、少し考える。
フェンリルという名前が使われている、そして彼女の狭い世界の中でフェンリルとはそのゲームのキャラクターだ。
愛称であるフェンも使われていると考え――。
そうしてリルというキャラクターは誕生した。
初めてログインした世界は目を疑うような世界だった。
画面ではチャットが行きかい、皆楽しそうに話している。
フィールドに移動をすればモンスターを倒す人もいる。
そんな中、街の入り口で座っている女性を見つけた。
彼女はどうやら街に入る人に呼び掛けているようだった……。
「あら? 初心者さん?」
名前はカナリアというらしかった。
彼女は立ち止まってるリルの近くに来ると話しかけてきたのだ。
リルは慌てて母の方を見る。
すると――。
「こんにちはって挨拶してみなさい?」
いう通りすると相手もこんにちはと返してくれた。
生きている人がそこに居る。
リルにとって感動する物だった。
話を聞いてくれた彼女は初心者はサポートするものだと言ってある人を紹介してくれた。
連れていかれたのは不思議な町だ。
中央都市らしき最初の町とは違う。
大きな塔が町の北にあるのが印象的だった。
ところどころに魔法陣があるのもだ。
「魔法の町ルーンね」
不思議な町の中を先に歩くカナリアの後をリルはついて行くと塔の中へと入っていく。
その塔の最上階に彼はいた。
「私達のギルド……チームのリーダーの兄さんよ」
「兄さん?」
リルはモニターの前で彼を見つめる。
すると――彼はチャットで話し始めたのだ。
兄さん:ようこそ世界樹の騎士に初心者さん!
彼の名前は”兄さん”だった……。
比喩でも何でもない、まぎれもない”兄さん”だ。
名前の通りと言ったほうが良いのだろうか? 兄さんは優しく、兄のような人だった。
彼は確かにその名の通りだったのだ。
世界樹の騎士というギルドの中で育ったリルはやがて、MMORPGというものにのめりこみ……そして、現在に至ったのだった。




