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最後の侍、異世界で幼女になる  作者: 井戸正善/ido
第一章:辺境の小さな侍
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22.平騎士、捜査する

よろしくお願いします。

 結果から言えば、オディロンに接触を願い出た人物は一般の平民であった。

「お呼び立てして、申し訳ありません」

 騎士が来たと店の人間に言われて商店の奥から出てきたのは、二十代の若い女性だった。

 彼女に促されてオディロンとブリジットは店の奥にある休憩室のような場所へと案内され、そこで話を聞くことになった。


「……私の名前は、オレリと申します」

 平民の女性で、この店は彼女の両親が経営しているという。

「ワシがオディロンだ。手紙を頂戴したので、話を窺いに来たのだが……こちらは、あー……」

「わたしは彼の助手です。何か深い事情がありそうですね」


 ブリジットをどう紹介するべきか迷ったオディロンだが、彼女の方からフォローが入り、ホッとする。

「深い……そうですね。私自身が、というよりは、彼がそうだったと言うべきですが」

 過去形だった。

 彼女が話を続けると、オディロンよりもブリジットの方がすぐに状況を理解できた。コレットから聞き取りをしていたことと繋がったからだ。


「私の彼……ブリスは、お金を稼ごうとして良くない人たちと付き合うようになっていました。最初は、何かの連絡係とか荷物運びとかだけだったんですけれど、変に真面目なせいか、気に入られたらしくて……」

 いくつか重要な仕事を任せられるようになり、本業よりもそちらにのめりこむようになったという。

「やめるようにと何度か注意をしたんですが、結婚するのにお金が必要だから、と……」


 涙を流すオレリの肩を、ブリジットがそっと抱いた。

「辛かったですね……」

 ある日、ブリスという青年は彼女に相談してきたらしい。

 酷く焦った様子で、自分が関わっていた組織が思っていた以上に大きくて危険なものであったこと。そして、そこで行われていることを知り、耐えられなくなったことを。


「彼は、数日前の夜に私を訪ねてきて、この地図を渡してきました。自分に何かあったら、これをオディロンという騎士に渡す様に、と。そして、翌日の朝に、彼が殺されているのが見つかったんです……」

「その件は知っている。たしか捜査を担当する騎士は……テランスであったな」

 牢で毒殺されていた騎士だ。


「道理で。被害者が何者なのか、ここに住んでいる人なのだから調べればすぐにわかることでしょうし、彼女にもいきつくはず」

「そうなんです。彼の噂は広まっているのに、誰も来なくて……」

 自分から申し出る勇気もなく、家を出て詰所で話したらブリスを殺した誰かに見られると思って、騎士か兵士が訪ねてきた時にオディロンについて聞こうと思っていたらしい。


「怠慢であるな……オレリさん。まずは謝る。申し訳なかった」

「そんな、あなたのせいでは……」

「いや、ワシも騎士の一人であるし、余人から見ればワシも捜査を担当していた者も同じ騎士。組織とは、そういうものなのだよ」

 深く頭を下げたオディロンは、オレリが差し出した地図を受け取り、中身を確認した。


「……間違いないわ」

 反応したのは、ブリジットの方だ。

「コレットさんから聞いていた場所と一致する。ブリスさんが関わっていたという組織と彼女を狙った連中は同一か、少なくとも繋がりがあるのはわかるわね」

「なるほどなぁ。オレリさん、この場所に行ったことは?」

「ありません。彼が殺されたと聞いてから、まだ一度も家を出ていないので」


 オディロンはブリジットと視線を合わせ、互いに頷いた。

「この地図をお借りしても?」

「もちろんです。……その、場所を確認しに行かれるのですか?」

「そうですな。何があるにせよ、確認だけはしておかねば」

 それでは、と立ち上がったオディロンは、信用できる兵士を護衛に付けると言って店を後にしようとした。


「待ってください。私も連れて行ってもらえませんか?」

 オレリは立ち上がり、震える声で申し出る。

「彼が何を残したのか、私の目で確かめたいんです」

「しかし、危険が……」

「もちろん、大丈夫ですよ。彼があなたに何を伝えようとしたのか、あなたには最初に知る権利がありますから」


 渋るオディロンを押さえて、ブリジットがにこやかに応じる。

 オレリはホッとしたような顔をして、すぐに出かける準備をすると言って奥へと入っていった。

「……大丈夫なのですかな?」

「ブリスが遺したものが暗号のようなものだった場合、彼女の協力が必要になるわ。記号や地図だけならまだしも、隠し場所そのものが何かのキーワードになる可能性もある。現地に来てもらうのが手っ取り早いわ」


 危険なのは承知の上だと言って、ブリジットはオディロンの肩を叩いた。

「いざというときには、彼女を守って離脱しなさい。頼りにされているんだから、頑張って」

「……承知しました」

 茶化しているようにも聞こえるが、つまるところ「危険が迫ったら自分を置いて逃げろ」と彼女は言っているのだ。


 近衛というのは高飛車なお飾り騎士だというイメージを多少なり持っていたオディロンだったが、この数日ですっかり考えを改めていた。

 騎士として誇りを持って戦っている者は、確かに存在するのだ。

ちょっと短くなってしまいました。

次回もよろしくお願いします。

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