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第21話 どんなものでも極めたら芸術になる


 圧倒的な強さを見せるシャルロット。

 彼女の強さはさることながら、その部下達もかなり優秀な様である。


 シャルロット率いる騎兵隊を前にして、ホルヘス兵達はまるで溶けるかの様にみるみると数を減らしていく。


「すげぇ……えげつないくらいの強さだ」


 ここまで強いのならば、それはホルヘス軍も罠に嵌めてまでして彼女を葬りたいと思うだろう。


 圧巻の武を目の当たりにして、栄治は只々呆然とするばかりであった。

 このままいけば、栄治軍は無事にラスコ軍と合流できそうだ。


 そう思った矢先。


 栄治の頭上で何やら風の唸る音がした。

 彼はその音に対して反射的に視線を上に向け、そして目を見開き絶句する。


 なんと巨大な石がシャルロット目掛け一直線に向かっていた。


「――殿下ッ!!」


 そこからの出来事はまるでスローモーションの様にゆっくりとした時間の中で、栄治ただ一人だけが素早く動いている様なそんな状況だった。


 栄治は馬上から蹴り出す様に飛び降りると、地面に着地すると同時に全力でダッシュしてシャルロットに向かう。

 周りの景色が後方に流れていく中で、栄治は自身の頭上を飛翔する岩石と、それに気付かず目の前の敵と戦い続けるシャルロットを素早く見比べる。 


「このままじゃ間に合わない!」


 投石機から放たれた岩石は、寸分の狂い無くシャルロット目掛けて飛んでいる。


 栄治は更に力を足に込め目一杯の速度で彼女に向かって走る。


 今の栄治は優奈から譲り受けたギフトの力によって、超人的とも言える身体能力を手にしている。

 その力を持ってして全力で地を蹴れば、そこには盛大な土埃と共に地面は大きく抉れ、彼自身はまるで放たれた弾丸の如く凄まじいスピードで戦場を駆け抜けた。


「殿下ッー!!」


「――エイジど…きゃっ!」


 叫び声にシャルロットが顔を向けると、そこには尋常では無い速度で自身につっこんでくる栄治の姿が映る。


 彼は走ってきた勢いそのままに馬上のシャルロットに飛び掛かる様に抱き付く。

 栄治が抱きしめた瞬間、彼女から思いのほか可愛らしい悲鳴が上がる。

 しかし、今の彼にはそんなものに反応する余裕はなく、抱きしめた勢いで馬上から引き摺り下ろす形になってしまったシャルロットを自身に強く引き寄せながら空中で体勢を整えて、両足でしっかりと地に着地する。

 そして、間髪入れずに再び地面を蹴り出し、身を投げ出す様に前方に飛び込む。


 ギフトの力で強化された栄治の脚力は、彼と甲冑を着込んだシャルロット2人の重量をものともせずに、ゆうに数メートル前方まで跳躍し、ドシャッと2人で肩から倒れ込む様な形で着地した。


 それとほぼ同時に、巨大な岩石が先程までシャルロットのいた場所に盛大な土埃をあげ落下してきた。


「なっ!!」


 岩石の接近に全く気が付いていなかったシャルロットはこれでもかと言うほどに目を見開き、岩石の落下地点に視線を向けた後、自分を抱き締めている栄治へと視線を移し彼をジッと見つめる。


 栄治は自分の腕の中でおどろきの表情を向けてくるシャルロットから一旦目を逸らし、飛んできた岩石を見る。

 どうやら先程壊滅させた投石部隊が戻ってきて、無傷で残っていた投石機から射撃してきたようだ。


 自分の足元のすぐ側にある巨大な岩石を見て、もしこれの下敷きになっていたらと、最悪のシナリオを想像して栄治は身を震わせた。


「殿下、ご無事ですか?」


 栄治は彼女の背中に回していた腕をほどいて立ち上がる。


「あ、あぁ……うむ」


 対するシャルロットは、いまだ混乱の中なのか栄治の顔をジッと見つめたまま立ち上がらずに横たわっている。


 そんな彼女の様子に、どこか怪我でも負わせてしまったかと不安になった栄治の耳に、けたたましい怒声が入ってくる。


「やばい! 囲まれている!!」


 慌てて周りの様子を確認すると、どうやら栄治が飛び込んだ先は敵の真っ只中だったようで、シャルロットの首を打ち取らんと大勢の敵が押し寄せてきていた。


「エイジ殿! 私の後ろに――うぐっ……」


 呆然としていたシャルロットも周りの状況にハッと我に帰り、急いで立ち上がってすぐ近くに落ちていた自分の剣を拾い上げようとする。

 しかし剣へ右腕を伸ばした瞬間、呻き声を上げると共に表情を歪ませながら左手で右肩を抑える。


「殿下大丈夫ですか!?」


「肩を……脱臼したようだ」


 ダラリと力なく垂れている自分の右腕を見て、シャルロットは苦々しく言う。


 どうやら先程地面に倒れ込んだ時に肩が外れてしまったらしい。


 敵は目前に迫っていて、脱臼した肩を元に戻す時間などない。

 シャルロットは痛みに歯を食いしばりながら左手で剣を握ろうとする。


 が、彼女が拾うよりも早く栄治が剣を手に持って彼女の前に立つ。


「殿下は下がって俺の後ろに! 側を離れないでくださいッ!!」


「う、うん……」


 シャルロットを背中に庇うように栄治は前に出る。

 

 背後からは先程の悲鳴と同様に年頃の女の子のような反応を見せるシャルロット。


 だが、敵中真っ只中の状況で彼女の様子を伺う余裕など栄治には無く、己の剣を正眼に構えて迫り来る敵を迎え討とうとする。


「くそ、こんな事になるんなら前世で剣道でもやっておけばよかった」


 目の前に差し迫る困難に栄治は堪らずボヤく。


「俺に力を貸してくれ、優奈」


 そう言うのと同時に、栄治は大上段から振り下ろされてくる敵の斬撃を己の剣で受け止める。


 剣術については全くの素人である栄治。

 そんな彼の頼みの綱は、身体能力強化のギフトによる腕力と反射神経だけである。


「どりゃあっ!!」


 栄治は頭上で受け止めた敵の剣を大きな動作で振り払うと、左右から迫ってきていた敵を牽制するように、両手で剣を握り横にブンブン振り回す。


 ギフトの力で強化された栄治の腕力はかなりのもので、彼が振り回す剣は風を切る音を響き渡らせている。


「素人だからって舐めんじゃねぇぞ!」


 怒鳴り声を上げながら栄治は敵を近づけまいと必死に剣を振り回す。


 敵もメチャクチャな剣筋ではあるが、刀身が霞むほどの速度で剣を振り回されては、迂闊に近づくことが出来ない。


「ハァ……どうした! ハァ……かかって来いヤァー!」


 精一杯の虚勢を張って敵を威嚇する栄治だったが、効率や力配分を度外視して、全力で出鱈目に剣を振り続けていることで次第に疲労で息が上がってきていた。


 そこを敵は見逃さず、疲労で少し剣速が落ちてきたところで、1人の敵が鋭く栄治に斬りかかる。

 

「くたばれグンタマー!!」


「ぐぅ!」


 脇腹を狙ってきた敵の斬撃を栄治はギフトの力で強化された反射神経で反応して、間一髪のところで防ぐ。


 しかし、その攻撃を皮切りに栄治を囲んでいた敵は一斉に斬りかかる。


 栄治は知らないが、この世界においてグンタマーを討ち取るというのは敵の総大将を討ち取るのと同等か、場合によってはそれ以上の手柄となる。


 そんな大手柄を手にする絶好の好機を目の前にして、ホルヘス軍の兵士たちは目を血走らせ栄治の首を取ろうと躍起になる。


「ッ……くそっ……」


 いくらギフトの力で強化されているとはいえ、それにも限界がある。

 ましてや、剣術の訓練など一切受けていない栄治は、単純に筋力や反射神経に頼らざるを得ず、幾つもの斬撃を連続で防ぎ続けるには、技術が圧倒的に不足していた。


「いけるぞっ!! 一気に畳み掛けろ!!」


 劣勢に追いやったと判断したホルヘス兵達は、更に激しく栄治に斬りかかってくる。


 そんな敵の攻撃に反応しきれなくなり、敵の斬撃の一つが栄治の左腕に直撃する。


「うぐぁッ!!」


 鋭い痛みに栄治が苦悶の声を上げる。

 幸いにもホルヘス兵の斬撃は腕の防具に当たった為、腕を切り落とされる事にはならなかったが、斬撃の衝撃は彼の骨にまで響く。


 左手に力が入らなくなった栄治は、なおも右手一本で剣を構えて振り回し、ホルヘス兵が近づいてこれないようにする。


 しかし、先程まで両手で持っていたものが片手になり、更に疲労の蓄積もあって栄治の振る剣は速度が落ち元から出鱈目だった太刀筋も更に滅茶苦茶になってしまう。


 そんな彼の剣をホルヘス兵の1人が鋭く剣を振い弾き飛ばす。

 栄治の剣は彼の手から離れ、クルクルと回転しながら数メートル先まで飛ばされてしまった。


「あぁ……」


 思わず力無い声が漏れてしまう栄治。

 ホルヘス兵達は勝利を確信したのか、それぞれが口元に獰猛な笑みを浮かべる。


「仕留めるぞ」


 ホルヘス兵達が栄治の首を獲るため距離を詰めようとした。

 その時、栄治の背後から声が響く。


「風よッ!! 吹き荒れろ!!」


 その声が聞こえた瞬間、まるで栄治を守るかのように彼の周りに突風が吹き荒れ、近付こうとしていたホルヘス兵達を数歩後退りさせた。


「栄治殿ありがとう。あとは私に任せてくれ」


 そう言いながら今までから背後で庇われていたシャルロットが、今度は栄治を守るように前に出てくる。


 自分で肩をはめたのだろう。彼女は己の剣を右手でしっかりと握りしめていた。


「はぁ……助かった……」


 自分の前に立つシャルロットの背中を見て、栄治は思わず安堵の言葉を漏らす。


 金糸のような髪を戦場の風に靡かせ、蒼い瞳は鋭い眼差しで敵を睨む。

 その出立は堂々としていて怒りと恐怖で満ち満ちた戦場の中で不釣り合いなほどに美しい彼女は、まるで北欧神話に出てくるヴァルキリーの様であった。


「死にたい者からかかってくるが良い」


 決して大きくはないが、なぜか耳の奥まで届く声で敵を挑発するシャルロット。


「――うッ……どりゃぁーー!!」


 ホルヘス兵達も彼女の発する強者としての威圧感に圧倒されて攻撃を躊躇していたが、その挑発に1人の兵士が意を決して叫びながら斬りかかる。


 しかし、その斬撃をシャルロットは造作もなく受け流すと、カウンターを繰り出し一太刀のもとに斬り掛かってきた敵を地に伏せる。


 その後も次々とホルヘス兵は彼女へ斬りかかるが、その全てをことごとく受け流されるか止められて、返す剣で斬り伏せられている。


 あまりの強さにホルヘス兵達も次第に後退りをしはじめる。


 退がり始めた敵をシャルロットはさらに追い詰めるかのように攻勢に出る。

 彼女が剣を振るたびに1人2人とホルヘス兵が葬られていく。


「すげぇ……()()に通ずるって本当なんだ……」


 舞を披露するかのように華麗な剣術で敵を圧倒するシャルロットに、栄治は現世のどこかで聞いたことのある言葉を思い出す。


 極限にまで極められた武というものは、見るものを引き込み魅了する、さながら舞の様である。


 栄治は殺伐とした戦場に現れた、美しき戦乙女の舞に呼吸するのすら忘れて只々見入ってしまっていた。

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