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第1話 目指すはラベリテ王国

 揺れる馬車の荷台後方から、足をぶらぶらと垂らす栄治。彼の視線は空に浮かぶ雲の方を向いているが、物想いに耽っているのか、どこか表情が(うつろ)である。


『栄治さんはこれから数多の戦場を駆け巡り、敵を倒し副将を集め、優奈さんを救えるような強力な軍団を作り上げないといけません!』


 栄治の頭の中ではロジーナから言われた言葉が、何度も繰り返し響き渡っていた。


「副将かぁ……」


 呟く栄治の脳裏に浮かぶのは、最強のグンタマーであるクウィン・アズナベルの副将達。そのうちの1人であるギャレットと呼ばれていた男に、栄治は手も足も出ず完敗した。おそらく他の副将達も皆、ギャレット並の実力を備えているだろう。

 そう思うと、栄治の気持ちは一段と重くなる。


「この世界の住民全てが副将の候補だもんなぁ」


 ロジーナは言っていた。この世界には数多の人が存在すると。それこそファンタジー世界ではお馴染みの勇者や魔王、エルフにドワーフなどなど。


「確かに勇者とか魔王を副将に引き入れられたら心強いけどな。問題は副将の誘いに乗るかどうかだよな」


 魔王というのは魔族の王である。そんな頂点に立つ存在が、果たして副将などという誰かの下につく立場を受け入れるのかどうかかなり疑問である。

 『副将になってくれませんか?』と言った瞬間に激昂して消し炭にされる可能性もゼロでは無い。

 勇者の場合も引き抜きはかなり厳しい。勇者は魔王に対抗する人類の希望である。そんな重大な使命を背負っている人が、グンタマーの副将になってくれるものなのだろうか。


「まぁ、実際はどんな感じなのか本物を見ないと判断はできないか……」


 今栄治が想像している魔王や勇者は、彼が今までに読んだ小説やゲーム等の知識が元になっている。この世界の魔王や勇者が、栄治の想像通りかは今の段階では判断できない。


「あとはエルフとかドワーフとかか……うーん……」


 エルフとドワーフについて栄治はほとんど知識がない。エルフは森に住んでいて耳が長くて長寿。ドワーフは坑道とかに住んでいて、背が低く髭が濃い。その程度のことしか知らない。また、これも小説やゲームが基の知識なので正直あてにはできない。


「やっぱりまずは、普通に人間の騎士や魔道士を副将に引き入れるのが無難かな」


 サーグヴェルド最強の軍団を相手にする以上、弱い副将を多く引き入れても意味がないが、いきなり魔王とかの副将勧誘に手こずって、時間を浪費するのも得策とは思えない。

 栄治としては、王国などの騎士団から有力な人を引き抜くのがとりあえず最初の目標である。これも簡単ではないが、魔王や勇者に比べたら、まだいけそうな気がする。

 現在、栄治にとって理想の副将像は先の盗賊達との戦いで共に戦ったクレシオン騎士団長のギムレットである。


「ギムレットさんみたいな人が副将だと心強いよな」


 そんな事を呟きながら、思考に耽る栄治。そんな彼に馬車の前方、御者台の方から声が掛かる。


「エイジ様〜、ちょいと相談したい事があんですけど、こっちば来てくんねぇですか?」


「ん? わかった今行く」


 強い訛り口調で言われた栄治は、荷台から降ろしていた足を上げて、揺れる馬車で体制を崩さないように腰を低くしながら馬車前方へと移動する。馬車の荷台の前に移動した栄治は、そこから御者台へと顔を出す。

 御者台には1人の青年が座っている。


「相談したい事ってなんだいアスベル?」


 御者に声を掛ける栄治。

 今栄治が乗っている荷馬車。これは、かつて優奈と一緒にゴブリン退治を行った時に、ウィルボーの森で出会った青年、アスベルの荷馬車であった。


「エイジ様、相談てのは目的地についてなんですけんど」


 そう言いながらアスベルは懐から地図を取り出して、それを栄治にも見えるように広げる。


「いんまオラ達が進んでる街道は、こんの地図のこれなんですけんど、こんのまま行くとロンゴ王国の王都に辿り着きます」


 アスベルは地図上を指でなぞったり、トントンと指したりしながら栄治に説明する。


「ふむふむ、そのロンゴ王国の王都までは、まだだいぶ距離がありそうだね」


 アスベルが持っている地図の縮尺はわからないが、見た感じでは王都まではまだまだ距離がありそうに見える。


「んだべ。このままロンゴの王都目指すと、1週間以上かかってしまうだでさ」


 現在、栄治はクレシオンから南東の方角へと進んでいた。

 クレシオンで出会った情報屋によると、南の国々は小競り合いが多いとの事だ。戦争が多いという事は、実践経験豊富な人材が揃っていると判断して栄治は紛争地帯であるエスピアン地方南部を目指す事にしたのだ。

 クレシオンの郊外でロジーナから副将を仲間に引き入れろと言われた栄治は、当初1人で黙々と街道を歩いていた。そこにちょうど運良くアスベルが通りかかり、彼も南部を目指しているとの事だったので、馬車の荷台に乗せてもらう事にした。

 アスベルはウィルボーの森で手に入れた大量の薬草を売り捌き、その資金をもとに今度は鎧を仕入れ、それを南部の国々に売ろうとしていた。

 最初アスベルは優奈がいない事を不思議がっていたが、栄治が『訳あって今彼女は中央大陸にいて、自分もこれから中央大陸に向かおうとしている』と簡単な説明をしたら、アスベルは「ほへぇ〜中央大陸だべか? ユウナ様はまた、えれぇ遠い所に行っちまっただなぁ」と言って、それ以上の詮索をしてこなかったので、栄治としてはとても助かった。


「でもこの街道はしばらく別れ道がないようだし、素直にロンゴの王都を目指すしかないんじゃ?」


 栄治がアスベルの広げている地図を覗き込みながら言う。そんな彼の言葉に、アスベルはニヤッと不敵に口角を上げた。


「じつはエイジ様。オラは秘密の抜け道を知ってるだで」


「秘密の抜け道?」


 アスベルの言葉に若干首を傾げて聞き返す栄治。


「んだんだ、この先もんすこし進んだら、左の方にでっけぇ森さ出てくるんだべさ」


 アスベルは広げている地図の一点を指差しながら言う。確かに彼が地図で指差す先には、プロフォンと呼ばれる森があった。


「こんの森を東へ突き抜けると他の街道に出られるでさ、それを進むとラベリテ王国の王都さ着くだで」


 アスベルはプロフォンの森の東側にある街道を指差しながら言う。


「これだと4日もあれば王都までいけるんよ。どうだべかなエイジ様?」


 説明を終えてたアスベルは、視線を地図から上げ同意を求めるように栄治を見る。対する栄治は、地図に示されているプロフォンの森の大きさに若干眉を顰める。


「俺はアスベルの馬車に居候させてもらってる立場だから、アスベルの案には従うよ。でも、このプロフォンの森って結構深そうだけど、馬車で通れる?」


「それは問題ないべさ。ちょっと分かり辛いんだけども、馬車一台分が通れる道さあるんだで。この街道に比べると整備が悪くて揺れが大きくなっちまうんだけれんども」


 その言葉を聞いて、栄治は笑みを浮かべてアスベルの案には同意する。


「んだば、そのルートで行くだべさ」


「了解」


 栄治は再び馬車の後方に行こうとして、ふと荷台に沢山積まれた鎧に目を向ける。


「なぁアスベル。この鎧を売るのはロンゴ王国でもラベリテ王国でも、どっちでもいいのかい?」


 そんな栄治の質問に、アスベルはニカッと屈託のない笑みを浮かべる。


「安全に売るならロンゴだべ、んでも高く売るならラベリテだと思うんだべさ」


「ん? ラベリテ王国は危険なのかい?」


「ラベリテ王国の北にはホルヘス皇国さあるだで、いまラベリテはそのホルヘスから侵攻さ受けてんば、戦うための武器や防具は喉から手出るほど欲しがっているはずだでさ。多少は吹っかけても売れるかもしんねぇでさ。逆に強引に取り上げられる可能性もあるんだけどもな」


 アスベルはそう言いながら「ここでリスク犯して大儲けすんのが一流商人だべさ!」と目を爛々と輝かせる。


「わかった。それじゃあラベリテ王国を目指そう」


 栄治は鼻息荒く気合を入れているアスベルの様子に苦笑を浮かべながら、馬車の後方へと戻り腰を下ろす。


「ラベリテ王国か……いい副将候補がいるといいな」


 誰に言うでもなく小さく呟きを漏らす栄治。

 彼は先程アスベルが言って事について考える。

 アスベルが言うには、今ラベリテ王国はホルヘス皇国から侵攻されているらしい。確かホルヘス皇国は北の方にある超大国で、その隣にあるガルベーザ帝国と並ぶ強国だというのをクレシオンの情報屋は言っていた気がする。


「ここで恩を売れれば、少しは副将勧誘が有利になるかな」


 エスピアン地方屈指の強国に攻め入られているのなら、きっとラベリテ王国は苦戦を強いられているはずだ。そこに栄治が颯爽と現れて、グンタマーの力でホルヘス皇国軍を押し返す事ができればかなり印象が良くなり、副将の引き抜きがやりやすくなるかもしれない。

 そんな事を考えながら栄治は、自身の軍団メニューを開いて今の自分の軍団の状況を再確認する。


「軍団も結構強くなったし、戦力としては魅力的なはずだ」


 今の栄治の軍団状況は


 レベル8

 軍団コスト2400


 属性値

 人 5・亜 5・獣 1・魔 3・技 5・知 3 ・聖 0・邪 0


 軍編成


 ・鎖帷子騎兵 ――――60名

 ・軽騎兵 ――――――30名

 ・エルフ弓兵 ――――100名

 ・ドワーフ戦斧兵 ――100名

 ・魔術士 ――――――50名

 ・槍兵 ―――――――200名

 ・長弓兵 ――――――60名

 ・剣士 ―――――――30名

 ・コボルド重歩兵 ――60名

 ・重装歩兵 ―――――50名

 ・パイク兵 ―――――50名


 ・総勢  ――――――790名


 とかなり強化されていた。

 これは優奈のグンタマーを栄治が受け取ったとき、彼女のレベルが栄治のレベルに上乗せされた為である。

 優奈のグンタマを受け取る前は、栄治のレベルは4であったが、今は倍の8まで一気に上がっている。

 さらに、栄治はロジーナから属性値についての情報を聞き出していた。始めは渋っていたロジーナだったが、栄治が『ロジーナがもっと早く来ていれば、優奈が攫われる事はなかった』と言ったところ、後ろめたさを感じていたのか渋々と情報をいくつか教えてくれた。

 そのお陰で、重騎兵である鎖帷子騎兵やエルフ弓兵、ドワーフ戦斧兵などの兵種を解放する事ができた。


「ここまでの戦力を保有していたら、無下な扱いは受けないだろ」


 栄治はこれから向かうラベリテ王国でどんな風に副将をスカウトしようか、馬車に揺られながら思考を巡らすのだった。

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