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第52話 望まぬ贈り物

 

 1人街道に残された栄治は、必死に優奈の名を呼びながら彼女の姿を探す。

 そんな彼の耳に聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「こぉらぁーーっ!!!! 規則違反ですよーー!!」


 若い女性の様な声に栄治が振り返ると、そこにはセーラー服の様な服を着ている少女がいた。


「ロジーナ?」


 栄治の目の前に突如現れたその人物は、この世界の案内人を称する少女、ロジーナであった。


「あれ? ここにいるのは栄治さんだけですか? ぐぬぬ……逃げられちゃいましたか」


 ロジーナは悔しそうに奥歯を噛み締める。


「あの人は何回規則を違反すれば気が済むんですか! 次に規則違反を起こしたら絶対に取り締まってやりますからね」


 そう言いながらロジーナは腕を組み、両頬をプクッと膨らませて怒っている。

 栄治はそんな彼女を数秒見詰めた後、ガバッと勢いよく彼女に詰め寄った。


「ロジーナ助けてくれ! 優奈がクウィンとか言う男に攫われたんだ!!」


 ロジーナの両肩を掴んで揺さぶりながら栄治が訴える。


「あわ、あわわ、ちょ、栄治さん落ち着いて、そんなに揺らさないで下さい〜」


 ガクガクと揺らされ、ロジーナが目を回しながらも栄治を落ち着かせようとする。


「落ち着いてなんかいられるか! 今こうしている間にも、優奈は危険に晒されているかもしれないんだ!」


「む、無理ですよぉ。わたしには優奈さんは助けられません〜」


 ロジーナのその言葉を聞いて、栄治はさらに激しく彼女を揺らす。


「無理な訳ないだろ! 君はこの世界の案内人なんだろ!? この世界の神か何かに仕えてるような存在じゃないのか!? 不可能な事なんて無いだろっ!!」


 必死の形相で栄治が訴えかけるも、ロジーナは「無理ですぅ〜」と言うばかりだった。


「優奈さんは連れ去られる直前に栄治さんに自分のグンタマを渡してしまっています。なので簡単に言うと今の優奈さんはグンタマーじゃ無いんです。グンタマー以外の人に干渉する事は、わたしにはできません」


 栄治は彼女の説明を聞いても諦めずに言葉を重ねる。


「じゃあクウィンに干渉して、そこから間接的に優奈を救い出せばいいだろ!!」


「それもダメなんですぅ、て、ちょちょ、栄治さん! それ以上激しくしないでぇ〜! は、吐くぅ〜、吐いちゃいますよ〜」


 ロジーナが無理だと言うたびに、栄治の揺さぶりが激しくなり、限界が近づいてきたロジーナが「うぅ……うぇ……」と嗚咽を漏らし出したところで、やっと栄治はロジーナから両肩を離した。

 栄治から解放されたロジーナは「口からキラキラが出るところでした」と言いながら、揺さぶりが収まったことにほっと一安心する。


「どうして無理なんだ。説明してくれ」


 先程よりも幾分か冷静さを取り戻した栄治が、ロジーナに詰め寄る。


「先程も言いました様に優奈さんは今、グンタマーとして認識されない状況なんです」


 ロジーナは真剣な表情で栄治に説明をする。


「確かにグンタマー同士ではランクが一つ以上離れていると、戦っちゃダメというルールがあります」


「じゃあ優奈に危害を加えているクウィンとか言う男は規則違反を犯してるだろ! 助けられるじゃないか!」


 再び語気に熱を帯び始める栄治から、ロジーナは再び肩を掴まれぬよう警戒しながら話す。


「それが、今の優奈さんはグンタマーとして認識されていないので、そのルールが適用されないんですよ。今のクウィンさんは何もルール違反を犯していないことになっているんです」


 その説明を聞いても、栄治は到底納得ができそうにない。


「そんなのおかしいだろ!! あいつが襲ってきた時は優奈はグンタマーだったんだぞ!!」


 もはや叫び声になっている栄治。だがロジーナはただ無言で首を横に振った。

 そんな彼女を栄治は拳を握り締め暫く睨んでいたが、やがてどんなに言葉を重ねようとも、ロジーナが助けてくれる事は無いと悟り視線を落とす。


「わかった…………もういい。もうロジーナには頼まない」


 小さく震える声で言う栄治の言葉を聞いて、ロジーナが申し訳なさそうに言う。


「すみません栄治さん。わたしがもう少し早く違反に気がついて来れれば良かったんですけど」


「いや、過ぎた事はもういい。それよりもクウィンが今どこにいるのか、それは分かるのか?」


 栄治は下げていた視線を再び上げ、ロジーナに聞く。


「はい、それなら分かりますよ。えぇっと、ちょっと待って下さいね……」


 ロジーナは目を閉じるとそのまま空を見上げ、右を見たり左を見たりとキョロキョロ辺りを見渡すような仕草をする。程なくして彼女は目を開き、栄治にクウィンの居場所を教える。


「クウィンさんは今、中央大陸の方にいるみたいですね」


「中央大陸……それはどの方角だ?」


 初めて聞く名称に、栄治は目を細める。


「中央大陸はですね、う〜んとここからだと、東の方ですね」


 ロジーナが東の方を指差しながら言う。


「そうか……」


 一言だけ言うと、栄治はロジーが指差した方へと歩き出した。そんな彼の行動を見て、ロジーナが慌てて栄治の前に立ち、腕をバタバタと動かして彼を制止する。


「ちょちょ! 栄治さんどこに行くつもりです!?」


「どこって、中央大陸だが?」


「待ってください! 中央大陸がどれだけ遠いか知ってるんですか!? 海も越えないといけないんですよ!?」


 栄治の返事にロジーナはギョッとした表情で言う。それに対し、栄治は抑揚のない口調で答える。


「距離なんて関係ない。俺は優奈を助けに行く」


 そう言って栄治はロジーナの制止を無視して再び歩き出す。そんな彼を引き止めようとロジーナは、栄治の腕を掴んで引っ張る。


「ダメですよ〜!」


「離せ! 俺は中央大陸に行く!!」


 ロジーナに腕を引っ張られながらも、栄治は彼女を引きずりながら強引に歩みを進める。

 一向に止まる気配のない栄治に、ロジーナは必死に訴えかける。


「中央大陸はめちゃ遠いんですよ!? 無理ですって!」


「距離なんて関係ないって言っただろ! 俺は行く!」


「仮に中央大陸に無事着いて、どうやってクウィンさんから優奈さんを救い出すんですか!?」


 その言葉を聞いて、栄治はピタッと動きを止めた。

 歩みが止まったのを見て、ロジーナは今がチャンスと見て更に言葉を重ねる。


「今の栄治さんじゃあ、優奈さんのところにたどり着いても、また返り討ちにあっちゃいますよ!?」


 ロジーナがそう言うと、栄治は悔しそうに拳を握り締め「うぅ」と唸って俯く。


「それじゃあ、ロジーナ。君が優奈を救い出してくれるのか?」


 下を向いたまま唸るように言う栄治に、ロジーナは首を振る。


「いいえ……それは出来ません」

「じゃあ俺が行くしかないだろッ!!!」


 栄治は叫ぶのと同時に掴まれていた腕を強く振るってロジーナを振り解く。


「選択肢がないんだ!! たとえ返り討ちにあおうとも、俺は行くしかないんだよッ!!」


 悲痛な叫びを上げる栄治に、ロジーナは悲しそうに表情を歪めながら、静かな声で栄治に言う。


「栄治さん、クウィン・アズナベルがどういう人物か知ってますか?」


「知らん。俺が知ってるわけないだろ」


 ぶっきらぼうな返事をする栄治に、ロジーナは「そうですよね」と小さく呟く。


「クウィンという男はですね。そこらへんのグンタマーとは訳が違うんですよ。彼はですね…………このサーグヴェルドで唯一のSランクグンタマーなんです」


 ロジーナの言葉に栄治は目を見開く。


「Sランク……」


「そうです。栄治さんは今、この世界の頂点に立っている最強のグンタマーに戦いを挑もうとしてるんですよ!?」


 そう言われた瞬間、栄治は全身から力が抜けてドサっとその場に膝をついてしまった。


「じゃあ……俺はどうすれば……」


 絶望に染まる栄治の目には涙が溜まり始める。そんな彼の隣に寄り添うようにロジーナがしゃがみ込むと、静かで優しい口調で栄治に尋ねる。


「栄治さん、クウィンさんは栄治さん達に何か言ってませんでしたか?」


 ロジーナに聞かれた栄治は、必死に涙を堪えながら彼女の質問に答える。


「俺と一緒に来いって言っていた。それを断ると、今度はグンタマをよこせって……『大いなる器』を持つのにふさわしくないと言っていた」


 ロジーナは栄治の言う事を聞いて「ふ〜む」と考え込む。


「クウィンさんはきっと更なる力を求めて、栄治さんと優奈さんのギフトの力を狙ったんでしょうけど、なんで最後はグンタマを取らずに優奈さんを連れ去ったのでしょうか?」


 顎に手を当てて首を傾げるロジーナ。

 彼女は暫く考え込んでいたが、やがて栄治を励ますように、彼の肩にポンと手を置いて話し出す。


「栄治さん。クウィンさんの行動の全てが理解出来たわけじゃないですけど、彼の目的が栄治さん達のギフトなのは間違いないようです。なのでギフトが彼の目的である限り、優奈さんが危険な目に合う可能性は低いと思いますよ?」


 ロジーナのその言葉に、栄治は顔を上げて彼女見る。


「それは、どうして……?」


「優奈さんに変な事をして、優奈さんのギフトが消えたら大変じゃないですか」


 「それに」とロジーナは、栄治の右の拳を指差しながら、言葉を続ける。


「優奈さんのグンタマは今、栄治さんが持っているのでギフトを奪われる心配もないですからね」


 そう言われて栄治は自身の右拳をゆっくりと開き、そこにある優奈のグンタマを見る。


「なぁロジーナ。優奈のグンタマを俺が持っていて、それが原因で優奈の体調が悪くなるとか、最悪死んでしまったりとか、そんな事は起こらないのか?」


 不安そうな声音で栄治が聞く。それに対してロジーナは若干考えてから答える。


「そうですねぇ〜、自分のグンタマを他人に預けるといった前例が今までにないので確信を持っては言えませんが、恐らくは特に問題はないと思いますよ? 栄治さんが優奈さんのグンタマを傷付けたりしなければ」


 グンタマはグンタマーの魂そのものではあるが、肉体とグンタマが離れていても、生命活動には特に問題はないはずだとロジーナは説明する。


「まぁ強いて問題を上げるなら、優奈さんは今軍団の展開ができないって事でしょうかね? 軍団の展開はグンタマに『軍団展開!!』と魂の叫びを伝えないといけないですからね。今の優奈さんではどんなに大きな声で叫んでもここまで声が届きませんからね」


 そんなロジーナの説明を聞いて、栄治の中に少しの安心感が広がる。

 優奈を救い出すのにはまだ時間の猶予はありそうだ。

 栄治がそんな事を思っていると、ロジーナが「むむむっ」と栄治の右手にある優奈のグンタマをじっと見つめる。


「ロジーナ? どうしたんだ?」


 怪訝に思って栄治が尋ねると、ロジーナはグイッと優奈のグンタマに顔を近づけて言う。


「栄治さん、あなたの軍団メニューからギフトをちょっと確認して貰ってもいいですか?」


 彼女の頼みに栄治は「分かった」と言って軍団メニューを開き、自身のステータス画面からギフトを確認しようとして、驚きの声を上げた。


「え!? どう言う事だ!?」


 その栄治の反応を見て、ロジーナは「やっぱり」と呟く。


「ロジーナ! これは一体どういう事なんだ!?」


 驚きの表情のまま、栄治はロジーナに説明を求める。


「わたしもこんな事は初めてですが……どうやら優奈さんの魂の一部が栄治さんの魂と結びついたみたいです」


「優奈の魂が……俺に……」


 ロジーナの説明に、栄治はもう一度自分のステータス画面を見る。

 そこに書いてあるギフト。

 1つは『大いなる器:全てを率いる者』

 これは栄治がこの世界に来た時にロジーナから授かったギフトである。

 そして今、彼のステータス画面にはもう1つのギフトの名が示されていた。


『大いなる器:全てを打ち砕く者』


 今まで栄治には無かったギフト。

 彼は呆然と自身のステータス画面を見つめる。


「全てを打ち砕く者……」


 栄治は誰にいうでもなく呟きを漏らす。


「そのギフトは優奈さんが所持していたものです」


 ロジーナの言葉が栄治の耳に響き渡った。

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