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第49話 沢山のお金を見ると人は自然と笑みになる

 広さ約8畳ほどの部屋。右の壁一面には本棚。そして左の壁には窓が複数取り付けられていて、1番高いところまで登った太陽の光が燦々と差し込んでいる。そんな部屋の真ん中に置いてある木製の机と、その椅子に座る老人が立ち上がり、にこやかな笑みを浮かべる。


「エイジ様とユウナ様。よくぞ御無事で戻られた」


 老人ーーギムリが称賛の眼差しで入室してきた栄治と優奈を出迎える。

 栄治と優奈はエステーラ村の村長の家で一泊した後、馬車でクレシオンへと戻り、ギムリの元へ今回の戦いの報告に来ていた。


「こたびの戦、敵方にもグンタマーが居たとは。しかもその実力は『緑套』であったとか。いやはや、それを相手にして勝利を収めたエイジ様とユウナ様は本当に素晴らしいです」


「今回は優奈が活躍してくれたおかげで、なんとか勝つことができました」


「いえ、栄治さんとギムレットさんの助けがあったからこそです。私はそんな……」


 ギムリと栄治の賞賛の言葉を受けて、優奈は恥ずかしそうに頬を染める。


「エイジ様とユウナ様がグラーデス城跡地にいた盗賊達とグンタマーを追い払った事で、ひとまずクレシオンの平穏は保たれました」


 そう言いながら、ギムリは栄治と優奈に椅子に座るように促し。2人が座った後に自分も椅子に腰を下ろす。


「あれからポール・オーウェンについての情報は何かありましたか?」


 栄治の問いに、ギムレットは険しい表情で答える。


「グラーデスから騎士団が戻って報告を受けた軍部は、すぐにそのポール・オーウェンを探し出すために偵察隊を派遣しました。ですが発見には至らず、おそらく既にこのクレシオンの領土から出たものと考えられています」


「そうですか…….」


 ポールを最後に見た時、彼は右腕を失うという重傷を負っていた。いくらグンタマーの肉体が、普通の人間の体に比べ頑丈で回復が早いとしても3、4日ほどではまともに動けるようになるとは思えない。

 しかし、時が経ち傷が癒えて軍団も補強されれば、再びクレシオンに仇なす存在になる可能性もある。

 優奈も同じように思ったようで、心配そうな表情でギムリを見る。


「また、ポール・オーウェンがクレシオンに悪さする可能性はありますよね?」


 彼女の問いかけに、ギムリはゆっくりと頷く。


「確かにその可能性は無いとは言い切れません。ですが、我々も何も対策をしないわけではありません」


 そう言ってギムリは優奈を安心させるように、柔らかな笑みを浮かべながら言う。


「北の国境付近を警備している騎士団のいくつかを引き戻しましたので、もし仮にポール・オーウェンとやらが襲撃してきても遅れを取るようなことはありません」


 その言葉を聞いて、優奈はほっと安心したような表情になる。


「さて、それでは今回の盗賊討伐の件の報酬をお支払いしたいのですが、宜しいでしょうか?」


 佇まいを直し言うギムリに、栄治と優奈の2人も背筋をスッと伸ばす。


「はい、大丈夫です」


 栄治が答えて、隣の優奈も頷く。

 今回の依頼の報酬は金貨10枚という大変高額なものになっていた。しかも2人で10枚ではなく、栄治と優奈それぞれに10枚である。

 大金をもらえるというシチュエーションに栄治と優奈は、自然と姿勢を正して、わずかな緊張感を持ってギムリを見る。

 そのギムリは「少々お待ちください」と言って一旦席を立つと、壁際の本棚に近付く、そしておもむろに棚に並べられている一冊の本の背表紙を人差し指でゆっくりと押し込んだ。すると押された本はスーッと壁の中に吸い込まれていき、カコンと小さな音がなったかと思うと本棚全体が横にスライドして、その奥から金庫が現れた。


「おぉ……」


 隠し金庫の出現に、栄治が小さく感嘆の声を漏らす。

 本棚の仕掛けによって現れる隠し金庫。これは、映画や漫画ではよく見るありふれたものとなっているが、いざ現実で自分の目で直接その瞬間を見ると、なかなか感動するものがある。

 と、そんな事を栄治が考えていると、ギムリは金庫の中から白い袋を2つ取り出して、2人の前の机の上にそっと丁寧に置いた。


「どうぞご確認ください。今回の依頼の報酬、金貨10枚で御座います」


 ギムリに促され、栄治と優奈はゆっくりと袋を開けて覗き込み、中の金貨を確認する。


「はい、確かに金貨10枚いただきました」


 枚数を確認した栄治がギムリに頭を下げて言う。


「ところで、エイジ様とユウナ様」


 大金を手にして、ほくほく顔になっている栄治と優奈。そんな2人はギムリに名前を呼ばれ、金貨の入った袋から視線を外しギムリを見る。


「御二人はとても優秀なグンタマーであるという事が、今回の盗賊の一件で分かりました。そこで、ここクレシオンの専属グンタマーになって頂けないでしょうか?」


 ギムリからの予想外の勧誘。

 栄治と優奈は驚きで目を見開き、お互いの顔を見合う。

 困惑した様子の二人に、ギムリは言葉を重ねる。


「エイジ様とユウナ様はまだ『黒套』でいらっしゃいますが、それでありながら今回のような結果を出すというのは、とても優秀なグンタマーである証拠。どうかそのお力をクレシオンの為に振るっては頂けないでしょうか?」

 

 彼の勧誘の話に、優奈は困った表情で栄治をみる。その視線を受ける栄治も、優奈の目を見ながら頭の中で考えをまとめる。

 暫くの沈黙の後、栄治はギムリに頭を下げた。


「申し訳ございません」


 頭を下げる栄治を見て、優奈もそれに倣う。


「ごめんなさいギムリさん」


 二人揃って頭を下げられたギムリは、慌てて二人に頭を上げるように言う。


「いえいえ! そんなお二人が謝罪するようなことではありません。どうか頭をお上げください」


 そう言われた二人はゆっくりと顔を上げる。

 ギムリは勧誘を断られた事に、少し残念そうな表情をしている。


「専属グンタマーになって頂けない理由をもしよろしければで良いのですが、教えてくれますでしょうか」


「俺たちはまだこの世界に来て日が浅く、この世界について何も知りません。なので色々と旅をして見聞を広めたいのです」


 ここで栄治は一旦言葉を区切り優奈を見る。栄治の視線を受けた優奈は小さく頷く。彼女の反応を確認してから、栄治は話を続ける。


「なので、今はまだクレシオンに留まるわけにはいかないんです」


 栄治の脳内では、優奈のビキニ姿がチラチラと浮かんでいたが、彼はそれを必死に抑え込む。

 あくまでも見聞を広める為、そして優奈の浜辺で遊びたいという生前の夢を叶える為、まずは海を目指すのだ。決して優奈の水着姿が目的ではない。彼女の水着姿は、見聞を広める事と優奈の夢を叶えるという崇高な目的を達成する際の偶然の産物でしかない。

 そんなしょうもないロジックが栄治の脳内で組み上がっているとは露知(つゆし)らず、ギムリは残念そうな表情ながら、納得したように頷く。


「そうですか……ならば仕方がありませんな。無理に引き留めるのも野暮というものでしょう」


「ごめんなさい、ギムリさん」


 申し訳なさそうに言う優奈に、ギムリは和やかな笑みを浮かべる。


「もしこの先、再びクレシオンに赴く事があれば、その時に再びお力をお貸しいただけると幸いです」


 ギムリのその言葉に、優奈は「はい! その時は是非」と笑みを浮かべて言う。


「それでは、これからのお二人の旅に幸多い事を心よりお祈りしております」


「ありがとうございます」


そう言って栄治は席を立つと、ギムリに握手を求める。彼も席を立ちそれに快く応じた後、優奈とも握手を交わす。



「お世話になりました」


「ありがとうございましたギムリさん」


栄治と優奈はそれぞれに挨拶をすると、ギムリの元を去った。

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