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第44話 まともに見える人に限ってやばい趣味があったりする

 騎兵の一番恐ろしいのは、その質量とスピードを生かした突撃である。しかし、こと白兵戦においても、騎馬は歩兵に対して有利である。何故なら、騎兵は馬に乗っている分、急所の位置が高くなるからだ。歩兵が騎兵の急所を狙おうとしたら、相手の懐深くに潜り、自分の視線より高い位置にある急所を狙わないといけない。しかも、突撃をする重騎兵というのは、全員がもれなく鎧を纏っている。その鎧を掻い潜って騎兵を打ち倒すというのは、そう易々と出来ることではなかった。

 

「くそ! 騎兵の突撃は優奈の軍団のお陰でなんとか止める事ができたが……」


 栄治はギリっと奥歯を噛み締めて、目の前の戦況を睨む。

 ランスチャージによって、栄治達の軍団の前衛は、ほぼ突破されてしまい今は中衛の剣士を主体とした部隊で対抗している状態だ。

 優奈の軍団の働きで、なんとか騎兵の突進は止めることができたが、戦線を押し返すことが中々できずにいる。


「騎兵がこんなにも強い兵種だったなんて……なるほど、銃が台頭してくるまで最強の座に君臨し続けた訳だこりゃ」


 口元に苦笑を浮かべながら栄治がぼやく。

 動きを止めた騎兵というのは、本来であれば弓矢の格好の的となるのだが、こうも敵味方が入り混じった混戦状態になってしまうと、流れ矢が味方に当たってしまう可能性が大きすぎるので、むやみやたらに後方に控えている弓矢隊に射撃の指令を下せない。


「このまま敵騎兵を押し戻せないと、左右の敵からも囲まれ全滅してしまいます!」


 ギムレットは周りをぐるっと見渡してから、栄治と優奈に叫ぶ。


「でもギムレットさん、今の俺の兵じゃ騎馬隊には対抗できない! 一体どうすれば……」


「一点突破をしましょう!」


 ギムレットが力強く言う。


「一点突破……ですか?」


「はい、今のように全面で騎馬隊を押し返そうとしても太刀打ちできませんが、戦力を一点に集中させれば対抗することができます! なのでユウナ様の兵士を先頭に鋒矢陣を組み、騎兵を突破してそのまま敵本陣に攻撃を仕掛けましょう! この乱戦では完璧に陣形を組むことは不可能ですが……今はそれしか方法はありません!」


 ギムレットの言う鋒矢陣とは、部隊を↑のような形に配置する陣形で、突破力に優れている陣形である。しかし、彼の提案した作戦には大きな問題もあった。

 ギムレットは若干表情を曇らせながら説明を続ける。


「この状況を打破するには、この作戦しかないと思いますが、これには大きな問題があります。この陣形は包囲にとても弱いのです。敵騎兵を突破した後、すぐに敵本陣に突っ込み、総大将であるポールを討ち取らなければ、突破した敵騎兵が反転し、また左右から攻めて来ていた敵部隊も合流して、後ろを突かれる事になります。そうなれば、前方に敵本陣を相手取っている我々は完全に包囲され、殲滅させられるでしょう」


 ギムレットの「殲滅」と言う単語に、栄治は自身が槍で串刺しにされる風景を連想して、ぶるっと身を震わせる。しかし、その恐怖を無理やり笑みを浮かべて笑い飛ばそうとする。


「ははっ! つまりは、俺たちがポールを討ち取るのが先か、それとも敵に包囲されるのが先かって事ですね。ふん! 面白い賭けじゃないか! どうせこのままでも勝ち目はないんだ、どんなに分が悪い賭けでも乗るしかないじゃんかよ!」


 栄治は大きな声で威勢良く言うと、隣の優奈に顔を向ける。彼女は栄治の視線を受けて、一度大きく頷く。


「すまない優奈、こんな一か八かの状況になっちゃったけど、一緒に来てくれるかい?」


「勿論です! 栄治さんとならどこへでも!」


 優奈のその言葉に、こんな状況でも思わず笑みがこぼれてしまう栄治。


「ギムレットさん、あなたの作戦でいきましょう!」


「分かりました、それでは私は先陣に立ち前衛を指揮します。やはり指揮官が先頭に立たなければ士気は上がりませんからね。こういう作戦では何よりも士気を高く保つことが重要ですからな」


 そう言うと、ギムレットは馬を駆って最前線へと向かっていった。

 その背中を見届けながら、栄治も覚悟を固める。


「よっしゃ! 圧倒的不利で敵本陣に突っ込んで大将首を取り一発逆転。まるで、どっかの戦国武将みたいで心躍るな! 俺もこの戦いの勝利を機に、一気に天下人街道を突き進むか!」


 もし時間があれば、偉大な先人にあやかって、敦盛でも舞いたいところだ。優奈が唐織を着て舞ったら、さぞかし綺麗なんだろうな。などと妄想を膨らませながらも、栄治は兵士たちに指示を飛ばす。


「これより敵前線中央に一点攻勢をかけ、そのまま突き破り敵本陣に奇襲をかける! 優奈の軍団が先頭に立つ! 槍隊、軽魔槍隊も前線へ! その他の部隊は前線の補佐をしつつも、敵本陣での戦いに出来るだけ体力は温存しておくように!」


 栄治の指示で一斉に軍団が動き出す。隣では、優奈も栄治と同じように自身の軍団に指示を飛ばしていた。

 初めてこの世界で戦った時、これからは運に頼らずに勝てる戦いをしようと、心に決めていた栄治。


「まったく……人生というのは、ほんと思い通りにいかないなぁ」


 栄治はやれやれと、小さく首を横に振った後、キッと視線を前に向ける。


「この戦いは時間との勝負だ! 自分たちが包囲される前にポールを討ち取らないといけない。この戦い、絶対に勝つぞ! 総員突撃!!」


 栄治の号令とともに、彼らの命運をかけた戦いが始まった。

 騎兵の突撃で隊列が乱れ、上手く連携が取れていなかった栄治と優奈の連合軍団は、次第に優奈の兵士を先頭とする隊列へと変動していく。

 激しい混乱の中で、このような隊列変更が行えたのは、ひとえにギムレットの働きによるものだった。


「ユウナ様の兵は前に! 敵騎兵を突破するのです!」


 ギムレットは、自身の愛馬に跨り指示を飛ばしながら前線を駆け回った。


「我はクレシオン第2騎士団団長ギムレット・ガリアス・ダルクネートなり! 死を望むものは我に挑むが良い!」


 ギムレットは戦場で名乗りをあげると、単騎で敵の大群に突っ込んでいく。そして、彼が槍を一振りする毎に、敵兵の首が2、3飛んでゆく。

 ギムレットの阿修羅の如き強さに、敵は尻込みして動きを止める。その隙に、優奈の兵士達が一斉に攻め寄せて騎兵に猛攻を仕掛ける。


「我が先頭に立ち道を切り開く! 皆も後に続き道を押し広げろ!」


 ギムレットはそのまま敵をなぎ倒しながら突き進んで行く。彼の働きによってできた敵中の一本道、そこへ淡く白い光を体から発している優奈の軍団の兵士が雪崩れ込み、道を押し拡げる。


「栄治さん! 味方の前衛部隊が騎兵隊を突破したみたいです!」


「よし! 全力で前進だ!」


 栄治と優奈も、前衛が敵陣を穿って作った道を全力で走り抜ける。


「このまま一気に敵本陣に突っ込むぞ!」


『おー!』


 栄治の檄に軍団は声を上げて応える。

 敵の騎兵は、栄治達の思惑通り一点突破作戦に動揺、混乱してすぐに追撃はしてこない。その隙を突いて、栄治達の軍団はポールの本陣に肉薄する。

 一番最初に斬り込んだのは、先陣を駆け抜けていたギムレットだった。


「狙うはポール・オーウェンの首ただ一つ!!」


 怒涛の勢いで突っ込んでくるギムレットに、ポールの兵士達は若干後ずさるが、それでもなんとか恐怖に耐えて、ギムレットの前に立ちはだかる。


「我が道を邪魔するものに容赦はしない! 押し通るっ!!」


 ギムレットは馬上で前傾姿勢になり、伏せる様に重心を落とす。右手に持つ槍を馬の前に突き出し、まさしく人馬一体となった彼が、敵本陣と衝突した。

 前線の兵士を突進で蹴散らしたギムレットは、伏せていた上体を起こし、手に持っている槍を右に左にと凄まじい速さで動かし、次々と敵を斬り伏せて行く。

 やがて優奈の兵士達も本陣まで来て、次々と斬り込んできた。

 ポールの本陣は、重装歩兵を主とした編成になっており、優奈の軽装歩兵や剣士に比べると、上位の兵種のはずなのだが、彼女の兵は押されることなく、むしろ勝るとも劣らない力で、グイグイと本陣を切り崩していく。

 完全に乱戦状態になった戦場で、ギムレットはただ一つの標的を探すために敵中を駆け回った。彼が通った後には、必ず血の海と死体の山が出来上がっていた。


「くっ……早くポールを見つけ出さなければ……」


 なかなか姿を見せない敵大将に、ギムレットはだんだんと焦りを募らせる。とその時、入り乱れる敵影の奥に、ポールの姿を確認することができた。

 その姿を見たギムレットは、ニッと口角を上げ瞳を爛々とさせる。


「見つけたぞポールオーウェン!! その首頂戴するッ!!」


 ポールに向かって一直線に向かっていくギムレット。しかし、あと数メートルで彼の槍の間合いに捉えられるといったところで、突如横槍が入る。


「そう簡単にキングをとらせるわけがないでしょ?」


「なにッ⁉︎」


 ギムレットは愛馬の手綱を引いて急制動をかけると、自身の首筋に迫って来ていた凶刃を槍で弾き返す。キンッという金属同士のぶつかる甲高い音を耳にしながら、ギムレットは攻撃して来た張本人を鋭い眼差しで睨む。

 ギムレットを止めたのは、白馬に跨り長い金髪を風に流し、まるでグンタマーと同じ様なマントを羽織った男だった。


「私はポール様の副将、名をレロイと申します。以後、お見知り置きを」


 レロイと名乗る男は、まるで上流貴族のごとく優雅な礼をギムレットに送る。そんな彼に憎々しげな視線を送りつつも、騎士道を遵守するギムレットは、名乗られたからには返さないといけないと、自分も名乗りをあげる。


「クレシオン第2騎士団団長ギムレットだ。私はポールの首を取らないといけない、そこを退け!」


 ギムレットの言葉に、レロイはおどけた様に肩をすくめる。


「そう言われて引く人は皆無でしょう。それに先程も言いました様に、キングをそう簡単に取らせるわけにはいきません」


「そうか……ならば、斬る!」


 その言葉を皮切りに、2人は激しく斬り結ぶ。


「くっ……この男、強い……このままでは……」


 レロイの強さはギムレットの想像を上回っていた。幾ら激しく攻め立てても、まるで柳の葉の様にゆらりゆらりと、かわされてしまう。なかなか倒せない敵に、だんだんとギムレットは焦りを募らせる。それを読み取ったのか、レロイがニヤッと笑みを浮かべた。


「おや? どうしたのですかギムレットさん? そんなに焦っているせいで、攻撃が単調になって来ています……よッ! と」


「なっ⁉︎」


 レロイはギムレットの攻撃を見切ると、それに合わせて強烈なカウンターを放ってきた。ギムレットはそれを間一髪で槍で受け止めたが、衝撃を逃すことができずに、馬上から吹き飛ばされてしまった。


「かはっ」


 背中から地に落ちたギムレットは、背中の激痛とともに、肺の空気を強制的に押し出される。


「これでトドメですよ!」


 地面に落ちたギムレット目掛けて、レロイは馬上から槍を突き出す。


「なんの! まだまだだ!」


 ギムレットは上体を捻って半身で攻撃をかわすと、逆に突き出された槍に手を伸ばした。そして、そのまま槍の柄を掴むと、自分の方に思いっきり引っ張る。その反動を利用して弾ける様に地面から起き上がったギムレットは、そのまま人間離れした身体能力で宙へ跳び、馬上のレロイへ蹴りを繰り出す。

 とっさの判断で、槍からすぐに手を離していたレロイは胸の前で腕を十字にクロスして攻撃を防いだが、反動で落馬してしまう。

 空中で猫の様に体勢を整え、足から着地したレロイは、笑みを浮かべながらギムレットの方を向く。


「お強いですね。こんな戦いは久しぶりです。嬉しいですね。えぇ……とっても嬉しいです…………とても………………楽しいッ!!!!」


 レロイは叫ぶように言うと、腰の剣を抜き放つと同時に、瞬間移動をしたかのような早さで間合いを詰めてくる。ギムレットも素早く抜刀して、レロイの剣を受け止めた。

 2人は鍔迫り合いをしながら、近くなった顔を睨む。


「それがお前の本性か、戦闘狂め」


 ギムレットは、目の前の男の表情を見て憎々しげに言い放つ。

 最初に見たときのレロイは、上流貴族の上品で気品ある雰囲気を纏っていた。しかし、今はそんな様子は微塵もなく、顔は欲望にまみれた笑みで歪み、目は獰猛な光でギラギラとしている。

 

「戦場は唯一、生を感じられる場所。そこで巡り会える強者との命のやり取り。この極限状態でこそ、私は生を実感できるッ!!」


 2人は弾けるように鍔迫り合いを解くと、一旦大きく距離を取る。


「私は貴様と遊んでいる暇はない。この戦い、早急にケリを付けさせてもらう!」


「そんなこと言わないでください。あなたは、私により強い生を与えてくれる。もっと、もっと、もっともっともっと! 殺し合いましょうッ!!」


 レロイの狂気の叫びが、混沌とした戦場に響き渡った。

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