第23話 仕事は段取り8割、現場が2割
若干ドギマギした感じの栄治と、顔を赤らめて俯いている優奈。そんな2人の様子に疑問を抱きながらも、ギムリは話を進める。
「今回の盗賊討伐の件は、こちら側から依頼をしているので、依頼料を栄治様方に支払わないといけないのですが、今回はその意思疎通の魔導具が依頼料という事で宜しいでしょうか?」
「え? あ、はい大丈夫です」
少しボーッとしていた栄治は、一拍遅れてギムリの話を了承する。
栄治が頷くのを見て、ギムリは次へと話を進める。
「有難うございます。それでは次に、昨日の栄治様と優奈様が行なったゴブリン討伐の報酬金について話しましょう」
本来であれば、最初にこの話をしないといけなかったのですが、後になってしまって申し訳ございませんでした。と頭を下げるギムリに栄治が首を横にふる。
「いえ、はじめに盗賊の話を始めたのはこちらからですので」
「そう言っていただけると助かります。では報酬金の受け渡しの手続きに入らせてもらいます」
ギムリは椅子を少し引いて机にすぐ下の引き出しから一枚の書類を取り出し、それに文字を書き込んでいく。
「今回栄治様と優奈様が達成したのは、ウィルボーの森に大量発生したゴブリンの討伐、で間違いないですね?」
スラスラとペンを走らせ書類を作成してしたギムリが、確認のために書面から顔を上げて栄治と優奈を見る。
「はい、間違いありません」
栄治が答え、優奈が頷くのを確認すると、ギムリはさらに確認を重ねる。
「このゴブリン討伐の際トロールも現れて、その数は5体で間違いなかったですか?」
「そうです」
2人が再び頷くと、ギムリは書類作成を再開し、しばらくの間ペンを動かし続けた。
朝の静けさに包まれている部屋に、ペンと紙がサッサッと擦れる音が響く。やがて最後に、ギムリは自分のサインの様なものを書くと、完成した書類を栄治達が見やすい様にクルッと回転させて向きを変えた。
「今回栄治様と優奈様が行なったゴブリンおよびトロール5体の討伐に対して、クレシオンは金貨2枚をそれぞれお二人に報酬として支払いたいと思いますが、宜しいでしょうか?」
ギムリの問いかけに、栄治と優奈は顔を見合わせる。
サーグヴェルドの世界に来て間もない2人は、今だにこの世界のお金の価値がはっきりと分かっていない。
栄治は以前に情報屋に報酬を渡した時のことを思い出す。
あの時は確か、コインポイントを銀貨に変換した。コインポイントが1000ポイントで銀貨1枚だったので、金貨2枚というのはそれよりも多いという事くらいしかわからない。
軽装歩兵は100人で消費コインポイントが1000ポイントになる。そして今栄治が所持しているコインポイントは132ポイントであった。
栄治は自身の保有ポイントの少なさに顔をしかめる。
「優奈って今コインポイントいくら持ってる?」
栄治は彼女にしか聞こえない小さい声で聞く。
「えーと、205ポイントです……」
優奈も自分と対して変わらない事を確認した栄治は、今後の軍団構成について考える。
栄治は今、レベルが3まで上がって軍団総コストが900にまで上がっている。さらに雇用できる兵種も増えている。そのことを考慮すると、兵を雇用するときに消費するコインポイントはできるだけ沢山持っていた方が都合がいい。そこで栄治はギムリに、金貨の価値がどれ程なのかを確認することにした。
「すみませんギムリさん、お恥ずかしい話なのですが、私たちはこの世界に来てまだ日が浅いので、お金についてあまり詳しくないんです。そこで金貨の価値を教えて欲しいのですけど、金貨は銀貨に換算するとどれ程になりますか?」
「そうだったのですか。金貨はですね、銀貨の100倍の価値があります。銀貨100枚で金貨1枚になります」
ギムリの説明を聞いて、栄治は内心で万歳をした。
金貨1枚が銀貨100枚なら、金貨2枚はコインポイントに換算すると200000ポイントということになる。そして、現在栄治が雇える兵種で1番コストが高いのが長弓兵で、そのコストは1人50である。それを考慮すると、金貨2枚もあれば、軍団編成に困る事はないだろう。
栄治はそう結論づけると、素直にギムリが提示した報酬金を受け取ることにした。
優奈も栄治の考えに納得して頷く。
「それでは、こちらが報酬になります」
ギムリが今度は椅子に座ったまま腰をかがめて、机の下の方の引き出しから小さい麻布の袋を2つ取り出し、それを栄治と優奈に手渡した。
栄治は受け取った麻袋の口を少しだけ広げて中を覗いて見た。中には煌めく金貨が確かに2枚入っていて、栄治は本物の金貨というものを初めて見て、内心で「うおー本物の金はやっぱり金色なんだな!」とどうでも良いことを思った。
「それでは栄治様、優奈様。盗賊達の件、どうかよろしくお願いします」
ギムリは椅子から立ち上がり、手を差し出して来た。
栄治と優奈も麻袋をしまって椅子から立ち上がると、ギムリの手を順番に握り返す。
「期待していてください。必ず盗賊達を捕らえて見せます」
「それに、レオン君のお姉さんも絶対に助け出します!」
周りに合わせて慌てて椅子から立ち上がったレオンに、優奈が気合を入れて言う。
「優奈さん、栄治さん。どうか姉ちゃんを宜しくお願いします!」
2人に向けて深く頭を下げるレオン。その頭をクシャクシャと撫でて栄治が優しく笑みを浮かべる。
「絶対にお前の姉ちゃんは救い出す。だから俺たちを信じて待っていてくれ」
優しくも力強く言う栄治に、レオンは再び頭を下げた。
8本の大通りが交わる円形の大広場、そこの中心にある噴水からほど近いベンチに、栄治と優奈は腰を下ろして話し合いをしていた。
「前回のゴブリン討伐の反省点を活かして、今回は入念に軍団構成を練ってから盗賊討伐に向かいたいと思う」
「そうですね。今回はレオン君のお姉さんの救出もあるので失敗はできませんもんね」
前回の戦いでは、軍団の運用や敵の情報、戦う地形の下調べなどいろいろ怠っていたため、何度も危ない目にあってしまった。今回はそのようなことが起こらないように入念に準備をするつもりである。
「今回はちゃんと情報収集をしたから、それを元に軍団編成をしていこう」
今回の盗賊達は、人数規模が50人から100人で、戦う地形は小さな丘が連なっているところ。なので今回は軽装歩兵の部隊技能であるファランクスは使えないだろう。
「ギムリさんの話だと、盗賊達は身を隠すために、丘と丘の間のくぼみに拠点を張っているって言っていたから、この盗賊達を一網打尽にするためには、くぼみの周りの丘の頂上を制圧して、そこに遠距離攻撃の兵種を配置する必要があると思うんだ」
拠点となっているくぼみを囲むように、魔法部隊か弓兵部隊を配置して、そこから牽制を行うととても効果的だと思う。
「そうなると、今回の軍団編成は弓兵と魔術師見習いを中心に編成したほうが良いんですかね?」
首を傾けながら言う優奈に、栄治が「うーん」と腕を組む。
「でも今回は盗賊達をできるだけ多く生け捕りにしないといけないから、遠距離部隊に編成を偏らせると、それが厳しくなる。やっぱり遠近バランス良くがベストかな?」
弓矢や魔法攻撃で盗賊達を錯乱させて、混乱しているところに近接攻撃の部隊をぶつけて一気に勝負を決める。これが理想の形だ。
「厄介なのが、馬を使って逃げられたときだよね」
「そうですね。私は実物を見たことがないからはっきりと分かりませんが、馬って早いですもんね」
盗賊達が馬を使って逃亡し、栄治達の包囲網を突破されたら、それを追いかける手段が栄治達にはない。
「くそ、騎兵のクラスを解放できてたら良かったのに」
もし騎兵がいれば、これほど追撃戦に適しているものはなかったが、無い物ねだりをしても意味がない。現状での最善を考えないといけない。
とりあえず、相手が騎馬で逃げた場合は、長弓兵の部隊技能である木杭で阻止することにしよう。
そんなことを考えながら、栄治は頭の中で軍団構成を考えていく。
今栄治が解放している兵種は8種類ある。
•軽装歩兵
•弓兵
•魔術師見習い
•軽魔槍兵
•槍兵
•剣士
•投槍兵
•長弓兵
以上の兵種で軍団を編成しないといけない。
ちなみに優奈が解放している兵種は軽装歩兵と弓兵で、属性ポイントが1ポイント余っている状態である。
「取り敢えず、今の俺の軍団を一旦整理しようかな」
栄治は心の中で「メニューオープン」と唱えて、軍団編成の項目を開く。
現在の栄治の軍団は、軽装歩兵が213人で魔術師見習いが100人いる。そして、軽装歩兵の部隊が3つあり、魔術師見習いの10人づつの部隊が10個とかなりゴチャゴチャしていた。
そこで栄治は、まず部隊を全て解散させ、軽装歩兵の人数を減らして100人とした。魔術師見習いはそのまま100人にする。
これで、今の栄治の軍団コストは300になり。残りのコストは600となった。
ここで栄治は、広場のベンチの背もたれに体重を預けて空を見上げた。
昨日、兵の雇用を行おうとしたら、時間を開けないと雇用ができません。と言うようなメッセージが流れたのだ。しかし、今は優奈と朝食を食べたり散策などをして時間を潰したため、すっかり太陽は空の真上まで来ていた。この時間なら大丈夫だろうと、栄治はクラス雇用を始める。
まず初めに、栄治は長弓兵を雇用する。長弓兵はコストが5あるが、栄治の場合はギフトの力で3となる。これを彼は100人雇用する。長弓兵の雇用費用は40なので、コインポイントが合計で4000ポイントがなくなった。
クラス雇用をしても、メッセージが出ないことを確認した栄治は、次に剣士を50人雇用した。剣士のコストは、栄治だと2で雇用できて費用は30である。
栄治の軍団コストはこれで残り200となった。彼はこの残りをどの様にするか頭を捻る。
「残りの編成をどうしようかな……」
「うーむ」と唸る栄治に、優奈が言う。
「軽魔槍兵と言うのはなんだか強そうな雰囲気がありますよね」
彼女のその言葉に、栄治が表情を輝かせる。
「やっぱりそうだよね! 俺もこの兵種がすごく気になっていたんだよね」
武器に魔法をまとわせて戦うのは、剣と魔法のファンタジー世界では、お約束である。しかし、問題なのはその強さだ。自分の好奇心を満たすために軍団に組み込んで、実戦に投入したら使い物にならなかったとなれば、目も当てられない。
「今回は失敗が許されないから、慎重にいかないと」
「確かにそうですね。でも、もし槍に炎とかを纏えれば、馬とかには有効かもしれませんよ? ほら動物って本能的に炎を怖がりますから」
「なるほど、優奈は天才だな」
彼女の説明に一理あると判断した栄治は、軽魔槍兵を雇うことにした。
その後、色々と考えて編成した栄治の軍団は以下の様になった。
軽装歩兵 100名
魔術師見習い 100名
長弓兵 100名
剣士 50名
軽魔槍兵 30名
投槍兵 30名
槍兵 80名
槍兵は騎馬に対して有効とあったので、多めに編成することにした。
クラス雇用を完了した栄治は、新しい兵士たちを部隊編成していく。
部隊編成としては全部で6部隊つくることにした。まず丘の頂上を制圧する部隊が3つで、これは遠距離攻撃のできる兵種を中心に編成する。次の3部隊は、盗賊達を捕縛する部隊で、こちらは接近戦に強い兵種で編成した。
「よし、これで俺の方は大丈夫だろう」
栄治は視界に映っている部隊編成のウィンドウを眺めながらいう。
今回の敵である盗賊達は50名から100名くらいである。それに対して、こちらは栄治の軍団だけで490名もいる。これに優奈の軍団を足したら、もう過剰戦力もいいところだろう。これぞまさしくオーバーキルというものだ。
栄治は、突然大軍勢に囲まれる運命にある盗賊達に合掌を捧げて、盗賊討伐を更に確実なものにするために、今度は優奈の軍団構成について話し合いを始めた。




