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21話目 幼馴染と夏休み

 高校最初の夏休みに突入したわけだけど、私は初日の日中から酉水すがいのトレーニングに付き合っていた。


 肌は焼けちゃうけどやっぱり私も身体を動かしたいし、日課は続けないと違和感を感じる。



 夏休み中は時間があるためトレーニングは日中に終わらせてそのまま解散としている。


 あーちゃんは保育園のため、昼食の心配は土日以外は不要なので多少時間のゆとりができる。


 アイツの昼食に関しては、あくまでもあーちゃんの食事の用意のついでに餌を作る感覚なので関与していない。高カロリー以外ならゲテモノでも何でも好きなものを食べると良い、というスタイル。




 尖った陽射しが体中を熱で刺してくるけど、アイツは関係なくどんどん足を動かして走る。凄いけど、やっぱり適度な水分補給を促したりするのが私の大事な役目。



 一通り走り終え、水浴びでもしたのかというくらいの汗をかいている酉水すがいに、言葉通り公園の水道で水を浴びせる。大きい子供の水遊びに付き合っているみたい。

 


「うっしょーーきんもちぃぃ」 


「羨ましい事ですこと。私も水浴びしたいわね」


「僕がかけてあげようか?」


「下着透けるし蒸れて気持ち悪いし遠慮する」



 「そっかー」と上裸になりながら水のシャワーを浴びるアイツを、通りかかった主婦の人がガン見している。


 本当に、あまり自覚がないというか、そこの所の意識が抜け落ちていて隙だらけなのよね、アイツって。



「そういえばさ、酉水すがい


「はい?」


「私の幼馴染がさ、夏休み中にアンタのトレーニングに同行したいって言ってるんだけど」


「・・・幼馴染?」



 酉水すがいの表情が曇った。あまり「幼馴染」という言葉は使わない方がいいかもしれないわね。



「1個下の中3の男子なんだけど、最近シニアの野球チームを引退して今後は自主トレする予定なんだけど、アンタとのトレーニングを前から知ってて興味あるんだって」


「それで、僕のトレーニングに同行したいと?」



 私は頷いた。これも「デ部」の活動としてプラスになるかもしれない。


 酉水すがいはまだ上下関係の世界を知らないハズだから、後輩との付き合い方の勉強になるはず。



「いつだかアンタに貸した野球のグローブはそいつのなのよ」


「そうかぁ、じゃあお礼も兼ねてお引受けするよ」


「それじゃ決定ね。明日早速連れてくるからヨロシク」



 私がそう言うと、酉水すがいは「うぃ」と気の抜けた返事をした。本当に大丈夫かしら。



◇◆◇◆◇◆◇◆



 妃紗が連れてきた幼馴染という1個下の後輩は、とにかく威圧感の強面な子だった。



 ポジションは投手らしく、筋肉はスタイリッシュに絞られ、背丈は僕よりも大きいので180cmくらいはありそう。



 一重まぶたから放たれる眼光は鋭く、余計な脂肪分がない痩せこけた小顔は仏頂面。額には大仏みたいな大きなホクロがあるのが特徴的で、額と頬のニキビが若さを象徴している。




「ほら、自己紹介して」


 妃紗が促すと、仏頂面の彼は僕をギロッと睨みつけて口を開けた。



「亮・・・猪方いのがたりょうっす」


「・・・あ、私はノボルです。酉水すがいのぼるです」


「・・・っす」


「・・・・・」



 え、ヤバい、全然会話が生まれない。


 女子となら緊張しないで湧き水のようにポンポン言葉が出てくるのに、同性だとどうも萎縮してしまう。ってかそもそも後輩君怖い。




 後輩君の背後に立つ妃紗に助けを求めるよう視線を巡らすけど、「自分で何とかしてみろ」みたいな感じで顎をクイっと持ち上げるだけ。


 仕方ないので、恐る恐る僕はコミュニケーションを図る。



「あの・・・ご趣味は?」


「野球っす」


「・・・休日は何を?」


「野球っす」


「・・・何か特技は?」


「野球っす」



 後輩君は「野球」しか答えられないウィルスにでも感染しているのかな?


 ここはひとつ引っ掛けてやるか・・・。



「・・・好きな食べ物は?」


「めかぶっす」


 普通に答えるんだ。


 妃紗ひさが呆れて僕たちのやり取りを傍観していたけど、見るに耐えかねた様子で割って入り、互いのざっくりとしたプロフィールを口にする。




「アンタ達お見合いじゃないんだから。亮は口下手で野球命、酉水すがいは知っての通り元デブね」


「・・・っす」


「はい」




 あ、そっか。妃紗ひさの後輩ということは僕と同じ中学という事になり、「デ部」の活動を知っててもおかしくはないのか。しかし「元デブ」って言い方はどうにかならないものかね。



「いつまでも立ち話しないで、とっとと走るわよ」


 そう言われ、僕たちはいつもの道を陽射しが降り注ぐ中、駆け出した。


◇◆



 それから数日は後輩君こと猪方いのがた君も含めて一緒にランニングをする日々が続いた。




 一緒に走るようになり一週間が経過したので、そろそろ打ち解けてもいいくらいなんだけど、相変わらず猪方君は無口でどこかムスっとしている。僕と一緒に走る動機みたいなのが一切明かされないので、何とも言い難たい不気味な感じがする。胸の内は何を考えているんだろうか。




 それに、時折彼から放たれる眼光の鋭い視線は、年下とは思えない達観した力強さがあり、余計に僕が萎縮してしまうのだ。



 今日もあらかた走り終えいつもの公園で休憩を取る。汗が凄いけど、もう少しだけ走れそうだ。一方、猪方君は地面に大の字になってヘバッていた。




 人と一緒に走ってみて気づいたんだけど、僕の運動量というのは常人よりも多いらしく、体力自慢と豪語する猪方いのがた君が「キツイっす」と初めて感情をみせた。




酉水すがいは走るだけなら並大抵じゃないからね」


「これも妃紗マネージャーのおかげです」


「ふふん、もっと言っても良いのよ。ま、それ以外のスポーツはセンスないけどね」


「うるさいな」



 僕とのやり取りでケラケラと妃紗ひさが笑う横で、猪方君の眼光がより一層鋭くなったのは気のせいだろうか・・・。



 その日の夕方。


 この日は両親の帰りが遅いため、あーちゃんの夕飯を作りに来た妃紗に訊ねてみた。



「ねぇ、猪方いのがた君ってどうして僕と一緒に走りたいんだろ」




「さぁ?」妃紗は浅く眉間に皺を作り続ける。「あの子はもともとあんな調子だから、私にも『ただ走りたいから』とだけしか言わないのよ」




「ふーん・・・それにしても喋らないし打ち解けないしで、ちょっと肩が凝りそうだよ」


「アンタには気難しい亮との付き合いは難易度高かったかな」



 その言い方で合点がいった。



「やっぱりこれも『デ部』の一環なんだ」


「当たり前でしょ。『年下との付き合い方』ね。アンタ、男の人と接するの苦手でしょ?」


「仰る通りです」



 観念して認めると、妃紗ひさが聞き捨てならない事を口にした。


「言いそびれてたけど、明日学校の友だちと遊びに行くから、アンタと亮2人でトレーニング行ってきてね」


「えっ」


「もちろんサボるなんてことないように」



 しっかりと釘を刺されたので、明日は時間通りに集合場所へ向かうしかなくなってしまった。


 

光栄な事にレビューを頂きました、ありがとうございます。

あまり大衆から好まれない作風と自覚しますが、とても嬉しく思います。


終結まで残り僅かです。3人を温かく見守って下さい。

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