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ギルド案内

 医務室に連れてこられた真人は、看護師に椅子へ座らせられた。


「下を向いて鼻をつまんでいてください」


 指示通り真人が鼻をつまんで下を向くと、看護師は真人の鼻に触れた。

 

「すぐ終わるのでじっとしててくださいね」


(すぐ終わる……? うおっ!)


 鼻に触れていた看護師の手が、優しげな緑色の光に包まれ、真人は看護師が触れている部分を始めとして、鼻の痛みがだんだんと鎮静化していったことに気がついた。


「はい。これでおしまいです。もう鼻から手を離しても良いですよ」


 真人は鼻から手を離し、鼻血が止まっていることを確認した。 


(これが……魔法……か。凄いな……)


 一人感動していると、真人の横に立っていた強面の男が申し訳なさそうに頭を下げた。


「すまなかった。俺のせいで怪我をさせちまって……。無事に治って良かったぜ」


「いや、別に怪我なんてレベルじゃ……」


「それでも悪いことをしちまったのは事実だ。何か詫びをさせてくれ」


 男の必死な様子に断れそうもないと思った真人は、少し考えてこう提案した。


「なら、ギルドここについて色々教えてほしいです。このギルドに登録しようと思ったのはいいんですけど、どこで申請をするのとかがわからなくて……」


「なるほどな、そういうことなら任せてくれ。それと、別に敬語なんて使わなくても構わねぇぞ」


「りょ……了解……」


 見た目を反転させたような優しさに驚きつつも、真人は椅子から立ち上がり、男の方を向いた。


「それじゃ早速お願いしたいんだけど……」


「おう。だがその前に自己紹介しとかなくちゃな。俺の名前はカルスだ。よろしくな」


「俺の名前はマサト、こちらこそよろしく」


「よし、じゃあ行くか」


 そう言って歩き出したカルスの後に続く形で真人も歩き始めた。


 医務室から出て、少し歩いたところでカルスが立ち止まり、真人も同じように立ち止まった。


 カルスは真人が立ち止まったことを確認すると、一点を指差しながら話し始めた。


「じゃあ説明するぜ。まずあそこが受付だ。ギルドに登録したいなら受付で出来るから、適当に声をかけてやってもらうといい」


 カルスはそう言うと、次に真人の方を振り向き。


「んで、次は依頼の受け方だ。まず依頼について説明するが、ギルドには大きくわけて3つの依頼が来る」


「3つ……?」


「ああ、依頼には討伐依頼と納品依頼、その他の依頼の3種類がある。まず討伐依頼は名の通り主に魔物の討伐が依頼内容になっていて危険度が高いが、腕に自信があるなら受けてみるといい。ちなみに討伐依頼はあそこの掲示板に貼ってあるぞ」


 カルスが指差す先には掲示板があり、そこでは何人かのギルド員達が依頼を吟味していた。


「討伐依頼……か……」


 真人の脳内にはゴブリンとドラゴンが浮かび、どれも真人にとっては恐ろしいものだった。


(……絶対に討伐依頼は受けないようにしよう……)


 露骨に嫌そうな顔をした真人を見て、カルスは苦笑いしながらもまた違う場所を指差した。


「続けるが、あそこには納品依頼が貼ってある。納品依頼ってのは植物とか鉱石とか、指定された物を依頼者に渡す依頼のことだ。もし依頼に貼り出されている素材がすでに自分が所持しているものだったらそれを渡して即依頼終了っていうのも有りだな。もし直接森とかに素材を取りに行くなら魔物に注意しろよ」


 カルスの説明に、真人はまたしても嫌な想像をしてしまったようで、顔色を悪くしていた。


(……森……ゴブリン……ドラゴン……)


「おい、大丈夫か?」


 心配したカルスは真人に声をかけ、真人はその言葉で現実に引き戻された。


「あ、いや。大丈夫です。ボクゲンキイッパイダヨー」


「別の意味で大丈夫かお前」


 カルスは呆れたように言ったが、一度溜め息をつくと説明を再開した。


「で、最後にあそこがその他の依頼が受けられる掲示板だ。あそこにある依頼にはおつかいだったり力仕事だったり、主に雑用が多いな。正直ギルドに頼むような事じゃない依頼もある。ま、日雇いのバイトくらいの気持ちでやれば大丈夫だ」


「へぇ……。というか、依頼によって掲示板の場所が違うんだな…」


「そりゃ一ヶ所にまとめて貼ったら混雑するからな。ああやって場所を分けることによって混雑を回避してるんだろうよ」


「なるほど……」


「で、あとはあそこで料理の注文が出来たり、あっちでは便利品が買えたりする。ギルド員が利用するのは基本このくらいだな。他に聞きたいこととかあるか?」


 真人は一度考える素振りを見せると、カルスの方を見て首を横に振った。


「……特にないかな。助かった。ありがとう」


「おう、それなら俺はもう行くが、何かわからないことがあったら遠慮なく聞いてくれ。じゃあな」


「ああ、そのときはまたよろしくな」


 真人はカルスと別れると、登録するために早速受付へと向かった。


 受付はそれなりに混んでいたが、一人空いている女性が居たので、声をかけた。


「すみません。登録したいんですけど」


「登録ですね? わかりました。ではこれにご記入をお願いします」


「わかりました」


 真人は筆記用具と書類を受けとった瞬間、致命的なことに気がついた。


(あれ……? 俺、文字書けんの……?)


 受付の女性は、真人が固まっているのを見て不思議そうに首を傾げていた。


(今からでも文字が書けないから代筆をお願いするか……? いや、でもそれは中々恥ずかしいものが……)


 記入して欲しいことはわかる、だが記入したい文字がわからないという訳のわからない状態になっていた真人だったが、受付の女性の不思議そうにしている視線に耐えきれず、筆記用具を握ってしまった。


(くそっ、年齢か……17歳って書きたいのに文字がわかんねぇよ……。こっちの魔力量なんて項目俺わかんねぇし……何だよ色でお書きくださいって……)


 と、上を向いて考えいた真人は、ペンを握っていた手に違和感を覚え、下を向いた。


「…………ッ!?」


 そして、自分のペンを握っていた手がガリガリと文字を書いているのが見えた。


(なにこれ気持ち悪!?)


 真人は勝手に自分の手が文字を書いていることを見て思わず声を出しそうになったがなんとか堪え、冷静を装った。


(書きたい言葉を想像すれば無意識に文字が書けちゃうのかよ……腕に違和感しかねぇし何だこれ……)


 とは言え、恥をかく心配が無くなったことを思い出した真人は安堵の息を吐き、書類を書き終えた。


「これでいいですか?」


「はい、確認しますので少々お待ちください」


 受付の女性は書類に一通り目を通すと、真人に視線を向けた。


(あれ……? もしかして何か間違ってたり――)


「魔力量不明とのことですので、今から検査させていただきますね」


「あっはい」


 何も間違っていなかったことに安心した真人はホッとしつつ、受付の女性がカウンターの下から出した手のひらに収まるくらいの石に視線を向けた。


「これは……?」


「これは魔力測定石と呼ばれていて、握った方の魔力量によって表面の色が変化するものです」


「あ、色で書けってのはそういう……」


「はい。お察しの通り、この石を握ったときに変化した表面の色を記入して頂きたいのです。ただ握るだけで大丈夫ですよ」


 受付の女性の説明を聞き、真人は受け取った石を軽く握った。そして――。


「――無色?」


「へっ?」


 すっとんきょうな声を上げた受付の女性だったが、すぐに冷静になり。


「す、すみません。もう一度強めに握っていただいてもよろしいでしょうかん」


「え? あ、はい」


 真人は言われたとおりに強めに握ったのだが、やはり石の色は変化しなかった。


「…………」


 呆然と石を見つめている受付の女性は、恐る恐る顔をあげた。


「えっと……大変失礼な事をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「失礼な事ですか? 別に辛辣な言葉には慣れてますのでどうぞ遠慮なさらずに――」


「本当に人間ですか……?」


「失礼どころかドストレートに俺のメンタル殺しに来てるんですが!?」


 人間かどうか疑われるという予想以上な仕打ちに、真人はこの世界の厳しさを改めて認識したのだった。

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