森の奥の研究所
「モルモット……? あんた、絶対ヤバい研究してんだろ」
「とんでもない。私の研究は崇高な理念のもと行われている。まあ、大多数の奴らは私の理念を理解せずに″違法研究だ″と蔑んでいるがね」
「結局ヤバい研究してるのに変わりはねぇな」
「どうとでも言うといい。誰にも理解されずとも、私は自分の理念に従って研究をするまでよ」
「とんだサイコ野郎だなあんた……」
平然を装って言い返す真人だったが、内心は心臓がバクバクしていて、今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
(不味いな……。ミーシェのお兄さんを助けるどころか、ミーシェ本人を助けることすら難しくなってきた……。最悪俺一人なら逃げられるかもしれないが、そしたらミーシェは……)
ちらりと真人がミーシェを見ると、彼女は苦しそうにしていて、動けそうな様子はなかった。
(ここで逃げたら確実にミーシェはコイツの研究に利用される。それだけは避けたい。でも、ミーシェを背負って逃げても絶対に捕まるよな……。どうしたら……)
真人がぐるぐると思考を張り巡らしていると、男は不思議そうな顔をして、
「それにしても珍しいな。私の妨害空間の中に居るというのに立っていられるとは」
「ジャミ……なんだって?」
「妨害空間だ。この中に入った者は自身の魔力の制御を失い、自身の魔力が体内で暴走することによって立っていることすら困難になるはずなのだが」
(言われてみれば周囲の空気がバリバリしてる気がするな……。多分、俺の体内に魔力がないから効かないんだろうけど、だからと言って生身で勝てる相手でもないよな……)
相変わらず真人が平然とした態度を保ちながら、煽るように口を開いた。
「手の内をそこまでバラしても良かったのか? それが原因で負けるかもしれないぞ?」
「構わんさ。自身の魔力が暴走しても倒れないということは、暴走しても体に影響が出ないくらい体内の魔力が少ないということだろう。そんな奴に私が負ける要素はない」
男の言葉に、ミーシェがピクリと反応した。
(魔力が……少ない?)
ミーシェはてっきり、真人のことを高名な魔術士、もしくは極秘の任務を受けている優秀な人物だと思っていた。
あんなにも高純度の魔封石を拾ったというのは作り話にしか思えなかったし、ドラゴンの弱点を正確に突いていた点から、魔封石の存在や使い方すら知らなかったというのも嘘だと思っていた。
だが、魔力が少ないというのならば話は別だ。
少なくとも、ミーシェの認識では魔力が少ないなら魔術士になるのは絶対に無理だし、魔力が少ない人が極秘の任務を預かるほどの力を持つとは到底思えなかった。
(ってことは……この人、ほんとに何も知らなくて、戦う力も無かったってこと……? だとしたら、ドラゴンから助けてくれたときも、そして今も……)
戦う力が一切無いというのに、絶対に怖いはずなのに、それでも真人はミーシェの前に立っていて、逃げ出そうとはしない。
彼女の中で、真人への認識が一気にひっくり返った。
(こんなの馬鹿としか思えないよ……。どうして、そこまで……)
ミーシェは視線だけを何とか上にあげると、真人がこの場をどうにか出来ないかと必死に考えている横顔が見えた。
(くっそ……。このまま時間稼ぎしたって意味はないし、だからと言って名案も思い浮かばないし、それに空気もバリバリうるさくて考えるのに集中出来ねぇ……)
「悪いけど、君達にそこまで構っている暇は無いんだ。そろそろ君達を回収させてもらうよ」
男の手が二人へと伸びる。真人がそのとき感じていたのは、焦燥感でもなく、恐怖でもなく……苛立ちだった。
「バリバリバリバリうっせぇぇぇぇぇ!! 集中して考えられねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そう叫びながら、真人は男の手を払いながら空気を凪いだ。
瞬間、三人は呆然とした。
「……あれ?」
「……え?」
真人はバリバリとした空気を感じなくなり、ミーシェは体の苦しみが無くなり、そして男は――。
「妨害空間を丸ごと吹き飛ばしただと!?」
男が驚愕している中、真人は自分の手を見て首をかしげた。
(なんか今、空気を触れたような気が……)
疑問に思った真人は、もう一度その手で空気を凪いだ。
そして、確かに空気に触れた感触があった。
(違う、これは空気じゃない、これは――魔力だ! ってことは――)
真人がそれを理解した瞬間、自分の手のひらの上に火を出すことに成功した。
(イメージすれば魔法は使えるみたいだな。RPGは大好きだったから、魔法のイメージはバッチリだ)
真人は高ぶる気持ちを抑え、ギュッと拳を握った。
(これなら……いける!)
焦りの一切が消えた真人の表情を見て、男は一歩退き、
「くっ! もう一度だ! 妨害空間!」
「はいそれキャンセル」
「なぁっ……!?」
真人の言葉通り、妨害空間が展開されることはなかった。
(思った通りだ……。この力があれば、空気中にある魔力で魔法を使えるだけじゃなくて、魔力の塊である魔法を自由に消すことだって出来る!)
「マサト……?」
何が起こったのかわからない。と言った感じの表情をしながら、ミーシェがゆっくり立ち上がると、真人はミーシェに向けてグーサインをして、
「なんか良くわからんけど、どうにかなりそうだ!」
と、笑みを浮かべながら言った。




