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夜の森へ

 夜の街の外を、ミーシェと真人は走っていた。


「待てって! 足速すぎ……!」


「でも急がないと! もしかしたらお兄ちゃんに何かあったのかもしれないし……!」


「そういうときは急がば回れって言葉があってだな……!」


「回っ!? こうすればいいの!?」


「なんで前に進みながらジャンプ横回転してんだよ!!」


「うえぇっ!? 回れって言ったよね!?」


「言葉が足りなくてごめんね!? とりあえず話を聞いてくれ!」

 

 真人の制止の声がようやく届いたらしく、ミーシェは足を止め、軽く息を整えながら真人へ視線を向けた。


「はぁっ……はぁっ……ようやく止まってくれたか……」


 一方、真人はヨレヨレの状態でミーシェの前に止まり、肩で息をしながら顔を上げた。


「お兄さんを助けたいのはわかるが焦っちゃ駄目だ。森には危険な魔物がたくさん居る。それこそ、俺たちにはどうしようもないような魔物もな。そんな危険なところに冷静さを欠いた状態で入ったらどうなる?」


「それは……」


「お兄さんを探そうとして俺たちが魔物にやられたら本末転倒だ。それに、ミーシェのお兄さんは凄い人なんだろ? もしそんな人が手に負えない事が起こっていた場合は、残念だが俺たちからしたらどうしようもない事態の可能性がかなり高い。だから無闇に突っ込むのは危険なんだ」


「……うん、わかった。それで、これからどうすればいいの?」


 若干含みのある言い方をしたミーシェが少し気になった真人であったが、今はあまり気にせずに方針を伝えた。


「とりあえず、森に到着するまでは全力で走っても大丈夫だと思う。だけど、森に着いてからは極力隠密だな。走って捜索して魔物に見つかるよりも、魔物に見つからないように進んだ方が確実に効率は良いだろうし」


「なるほど……。……ねぇ、マサト」


「ん?」


 ミーシェは言いにくそうに口元を歪めたが、やがて決心したかのような表情になり、


「もし、万が一、お兄ちゃんでもどうしようもない事が起きてたら……そのときは、マサトでも解決出来ないの……?」


「……そりゃ無理の可能性が高いよ。俺には何の力もないからな」


 真人がそう言うと、ミーシェは真人との距離を詰め、


「でもマサトだって……!」


「俺……? 俺が……どうかしたか?」


 意味がわからないと言った表情で真人がそう言うと、ミーシェは身を引いた。


「……ごめん、なんでもない……」


「そ、そうか……? なら、とりあえず今は急ごう。森へ行くまでの時間は出来るだけ短縮しないといけないしな。ほら、行くぞ」


「う、うん……」


 走り出した真人の背中を見ながら、ミーシェはポツリと呟いた。


「マサトだって、凄い魔術師さんなんでしょ……?」


 誤解は未だ、解けてはいない。




 

 二人がしばらく走り続けること数十分、本来歩けば1時間はかかる道のりを、大分短縮して森へと到着した。


「はぁっ……こっからは……出来るだけ……はぁっ……静かに……はぁっ……行動するぞ……」


「……大丈夫?」


「全然大丈夫じゃないしどうしてミーシェがあんまり疲れてないのか問いただしたいまである」


「えっと……魔力で身体を強化すればこれくらいの距離ならさほど疲れないはずだけど……」


 ミーシェの言葉を聞いて、真人は落胆の表情をした。


「あー。はいはい。わかったわかった。魔力ね。うん。俺には無理な部類じゃねぇかチクショウ」


「……大丈夫?」


「今絶対頭の心配しただろお前」


 真人の言葉と視線から逃れるように視線を反らしたミーシェに、真人はため息をつき、


「まあ、とりあえずこれからは慎重に動くぞ。なんだか嫌な予感がするし」


「嫌な予感……?」


「ああ。なんつーか、この森、空気がヌメッとしてて気持ち悪いんだよ。昼間はこんなことなかったんだけどな……」


「そう? 別にそんな風には感じな――」


 そこまで言って、ミーシェは言葉を止めた。


「……ミーシェ?」


「……こっち」


「え?」


 ミーシェは焦点の合わない瞳をしながら、西の方を指差した。


「こっちにきっと、何かある」


 そう言うと、ミーシェは指差した方向へ向かいだした。


「ちょっと待て、なんかお前おかしくないか?」


 真人が呼び止めるも、ミーシェは足を止めずにそのまま進んでいく。


(よくわからないけど、多分何かあるな……。ミーシェのお兄さんが帰ってこないのと、何か関係があるかもしれない)


 真人は覚悟を決めて十分に気を引きしめると、ミーシェの後を着いていくことにした。


 真人が何かに導かれるかのように歩き続けるミーシェの後を着いていくこと数十分、急にミーシェは足を止めた。


「……あれ? 私、何を――」


 言いかけて、ミーシェはその場に倒れこんだ。


「……ミーシェ? おい、どうした?」


「何これ……体が、動かな……!」


「んな……!? どういうことだ!?」


「私にも、どういうことなのか、さっぱり……!」


 何が起こったのかわからずに二人が動揺していると、森の奥から一人の男が歩いてきた。


「おや。また研究材料が引っ掛かったか。今日は大漁だな」


「……あんた、誰だ?」


「名乗るつもりは無い。とはいえ歓迎するよ、ようこそ私の研究所へ。今日から君達は私のモルモットだ」


 そう言って、老けた顔をしたその男は不気味な笑みを浮かべた。

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