魔術士
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「魔術士……?」
聞き覚えのある言葉に、真人は顎に手をやり記憶を辿り始めた。
(確かミーシェが言ってたよな……。言ってたときのあの様子からして、魔術士ってのは凄い人って認識でいいのか?)
一人そう推測していると、バトラは笑みを浮かべた。
「そうだとも。ところで、大丈夫だったかい?」
「おかげさまで怪我ひとつしませんでした。助けてくれてありがとうございます」
「いや、礼なんて良いさ。君が無事だったのならそれで充分だ」
そう言いながらイケメンスマイルを向けられた真人は、思わず呆然とした。
(なんかめっちゃ良い人だな……この人)
「それで、立てるかい?」
「あ、はい。大丈夫です」
バトラに促され真人が立ち上がると、バトラは首を傾げた。
「しかし……おかしいな……」
「え?」
「今倒した狼――バウォウルフは森に住んでいて、基本的に森から出ることは滅多にないんだ。だが、私はここに来るまでで既に4匹のバウォウルフに遭遇している。もちろん私は森のなかには入っていない」
「ってことは……」
「森で、何かあったのだろうな。ギルドで変な噂を聞いたが、どうやらそれと関係がありそうだ」
″変な噂″という言葉を聞いて、真人はアイリに言われたことを思い出した。
『最後に、道中いくつか森が見えるかと思いますが、絶対に興味本意で行かないでくださいね。最近、嫌な噂を色々と聞きますから』
「……ちなみに、その変な噂っていうのはどういったものですか?」
「なんでも、夜に森へ立ち入った者は神隠しにあうらしい。現にギルドの登録者も何名か行方不明になっているようだ」
「神隠し……ですか」
突拍子のない有り得ないと話だ。と、地球に居たころの真人なら思っただろうが、ここは異世界。地球ではあり得なかったことが普通に起こる世界だ。
真人はバトラの発言を真剣に受け止めると同時に、アイリの言葉の意味を理解した。
(だから森に近づくなって言ってたのか……)
「……どうかしたかい?」
「あっ。いえ。受付嬢さんから嫌な噂を聞くからあまり森には近づかない方が良いって言われてたので、このことなんだろうなぁ……と」
「恐らくそうだろうね。まあ、そもそも夜の森は危険だから、今から帰るのであれば森に近づかないようにするに越したことはないさ」
「そうします。……そういえば、バトラさんはどうしてこんなところに? 依頼の帰りですか?」
真人がそう聞くと、バトラは困ったように頬をかき。
「いや、実はこれから森に向かうところなんだ。恥ずかしながら、うっかり落とし物をしてしまってね」
「落とし物……? でも、そろそろ日が落ち始めますし、夜の森は危険なんじゃ……」
「大丈夫さ。私は魔術士だし、落とし物探しついでにこの神隠しについても調査して、可能なら解決しようと思っていたからね。危険があるならむしろどんと来いと言ったところだ。それに、もし落としたアレが誰かに拾われて悪用されたら危険すぎる……」
「アレ……?」
「なんでもない。こちらの話さ」
バトラは真人を適当な言葉で誤魔化すと。そうだ、と呟いて小さな布袋を取り出した。
「私はこれから森に向かうから、君がグリーゼ街に着くまでの間に魔物に遭遇してしまったら助けることが出来ない。だから、有事の際はこれを使うといい」
そう言ってバトラはその布袋を真人に手渡した。
「……これは?」
「その中には魔封石が5~6個入っている。威力は低めだが、ここら辺の魔物を倒すのには十分な威力があるはずだから、魔物に遭遇したらそれを使うといい。もし余ったら自由に使ってもらって構わない」
「あ、ありがとうございます……」
すでに4個ほどかなり強力な魔封石を持ってます!とは言えなかった真人は、礼を言って布袋を受け取った。
「それでは気をつけて、君が無事に街に辿り着けることを祈っているよ」
「バトラさんも、森の探索は危険でしょうからお気をつけて」
「ああ、心得た」
笑みを浮かべながら返答をしたバトラは、森の方へと歩いてゆき、真人はその背中を少しだけ見たのちにグリーゼ街の方へと向かいだした。
結局、真人はグリーゼ街に着くまでに魔物と遭遇することはなく、5~6個の摩封石を持ち余す結果となってしまった。




