油断は禁物
(本当に魔物が全然出ないな……)
真人が街の外に出て地図を片手に歩き始めてそろそろ一時間が経つ頃だが、魔物と遭遇することは一度もなかった。
最初は魔物が居ないか警戒していた真人も、30分ほど歩いたときにはすっかり警戒心が消えており、地球に居た頃には考えられないくらいに溢れる自然を満喫しながら目的地へと向かっていた。
(やっぱり地球と比べて空気が違うな……。なんかこう、温かいものを感じるというか……)
そんなことを考えながら呑気に歩いていると、真人はある程度堀り進められた壁を前方に発見した。
「アイリさんの話と地図に一致するし……あそこで取れそうだな」
意気揚々とその壁に向かっていくと、真人はアイリから受け取ったツルハシのようなものを手に取って早速掘り始めた。
カツンという音が響き、少しだけ崩れた壁を見て真人は苦笑いした。
「げっ……。相当根気がいりそうだなこれ……」
気を取り直して掘り続けた真人だったが、いくら掘り進めても透明石が出てくる様子はまったく無く、ついには一時間ほど経過してしまった。
「はぁ……はぁ……。こ、こんだけ掘っても出てこないとか流石に辛すぎじゃね……? …………ん?」
気が滅入りそうになっていた真人の視界に、キラリと光るものが一瞬だけ映りこんだ。
「あれって……」
もしやと思い真人が掘ってみると、そこからは透き通った綺麗な石が出てきた。
大きさも真人が拾った魔封石と同じほどのサイズで、質も問題なさそうだった。
「ようやく一個か……。これをあと最低でも19個とか日が暮れそうだな……」
はぁ、とため息をつきながらも真人は次の透明石を目指して掘り作業を再開した。
「この分だと、今日中に集めきるのは無理そ――」
言いかけて、真人の発言が止まった。
何故なら、たった今真人が壁の一部分を掘った瞬間、そこに多数の透明石が埋まっているのが見えたからである。
「……気持ち悪いほどめっちゃあるなオイ」
どうやら良いポイントにでもあたったのか、今までの一時間は何だったのかと真人が思うくらい大量に透明石が埋まっており、真人は自分の運の良さをありがたく思いながらその場所を集中的に掘り始めた。
2時間も経つ頃にはそのポイントにあった透明石はあらかた採取し終わり、透明石の数は40を越えていた。
「結構取れたな。余分に持っていったらボーナスで報酬が増えるとかあったりしないかなぁ……」
真人は少し期待しながら余分な透明石も一緒に袋にいれて、街へと戻り始めた。
真人が掘るのをやめたときにはすでに日が傾き始めており、少しずつ周囲が暗くなっていた。
(この調子なら街に着くのは暗くなってからだろうなぁ……。出来れば日が昇ってるうちに帰ってきたかったが……)
真人が歩きながらそう考えていると、何やら彼の足元からギャンッという声が聞こえた。
「……? 今、何か聞こえたような……」
真人が視線を足元に移すと、自分の足が狼のような動物の尻尾を踏んづけてしまっているのが見えた。
「うおっ!?」
真人が急いで足を上げたときには、その狼はとてつもなく不機嫌そうな顔で真人を睨んでいた。
「あっ、えーっと……ごめんな?」
真人が謝ると、狼はニコリと微笑んだ。
「え? もしかして、許し――」
そして口から涎が垂れ始めた。
「ただ獲物を見つけたから喜んでるだけかよチクショウ!!」
真人は急いで駆け出すも、狼はすぐに真人を追いかけてきた。
ただでさえ真人よりも狼の方が早いというのに、さらに今日の真人は透明石40個とツルハシを所持しながら走っているということでかなり速度が落ちていた。
結果、すぐに真人は狼に飛びかかられて地面へと倒れこんだ。
暴れて抵抗しようにも、狼はしっかり真人を押さえ込んでおり、身動きひとつ出来なかった。
(もう少し、周囲に気を配るべきだったな……)
諦めたように目を瞑った真人を見て舌なめずりをした狼は口を大きく開き、鋭い牙で真人に食らいつこうとした――直後、狼は20m以上吹き飛ばされた。
「………………………………あり?」
痛みが来ないどころか、上に乗っていた狼の重さも感じられなくなった真人は長い沈黙のあと目を開き、上体を上げた。
「俺、生きてる……のか?」
「うん。君は生きているよ」
後ろから聞こえた優しげな声に、真人はバッと振り向いた。
そこにいたのは高身長で長い緑色の髪の男だった。
「えっと……貴方は……」
「私はバトラ・ナルーシカ。魔術士さ」




