依頼申請
中々ショッキングな初食事を終えた真人は、掲示板の前で納品依頼を吟味していた。
(うーん……なんか安全そうなとこで取れる物を欲しがってる人とか居ないのか? 最悪雑用依頼を受けてもいいんだけど、シュトルさんにお金を返すために少しでも報酬が高い方が良いんだよなぁ……)
とは思っているものの、この世界の物の名前や地理の知識が乏しい真人からしたら、納品依頼に書いてある内容などあまり意味がわからなかった。
(ネム草10本? そもそもネム草って何だ? ギーザ草原? どこだそれ……? これ、まったくわからなすぎてすでに詰んだ気がするんだが……)
最早どうしたら良いのかわからなくなって困り果てている真人に、誰かが後ろから声をかけた。
「そんなところで何をしているんですか?」
「え?」
真人が後ろを振り向くと、そこにはアイリが立っていて、怪訝な顔をして真人を見ていた。
「『え?』じゃないですよ。ずっとそんなところに立って何を企んでいたんですか?」
「ただ依頼書を見ていただけですが!?」
「それにしては時間がかかりすぎだと思いますけど……」
「それは……えっと……知識が乏しすぎてどれが安全な依頼なのかわからなくて……」
「……安全な依頼を受けたいのなら雑用依頼を見るべきですよ? わかってます?」
「そ、それはそうなんですけど……」
ジト目で呆れたように言ったアイリに、真人がまともに返答出来ずにいると、アイリは溜め息をついた。
「仕方ないですね……」
「え?」
アイリは一歩前に出て掲示板の目の前に立つと、一枚の依頼書を掲示板から外し、真人に渡した。
「これは……?」
「魔封石の原石を20個ほど持ってきてほしいという依頼です。これならマサトさんでも簡単に成功出来ると思いますよ?」
「魔封石の原石……?」
依頼書を見て首をかしげている真人を見て、アイリは聖母のような優しさに満ちた表情を浮かべると。
「……そういえばマサトさんは知識が乏しいんでしたね。普通に説明しても理解できないことを失念していました。もう少し丁寧に小さな子供でもわかるように説明するべきでしたね」
「それ満面の笑みで言う言葉じゃないですよね!?」
「では、説明するついでに依頼の申請処理も行いますから受付まで付いてきてください」
「またスルーなんですね。ええ、知ってましたとも……」
先を歩くアイリの後を真人はついて行き、受付に着くとアイリはカウンターの奥にある棚から小さな地図を取り出してカウンターに広げた。
「さて、それでは頭の弱いマサトさんのために説明を始めます。最初に魔封石の原石の場所を教えますね。まず、今私たちが居るのがここです」
アイリは地図上の一点を人差し指でトンと突くと、そのまま人差し指を動かし始めた。
「南門から出て、このルートで歩いていけば1時間もあれば到着すると思います。この道は魔物の目撃情報が非常に少ないので弱いマサトさんでも安心して歩いていけるかと」
「ところどころ発言が攻撃的な気がするのは気のせいですか?」
「説明中なので静かにしてください」
「ごめんなさい」
即座に真人が謝ると、アイリは地図から指を離した。
「では、次は魔封石の原石について説明します。魔封石はご存知ですか?」
「はい。魔封石って、これのこと……ですよね?」
真人が魔封石を取り出してアイリに見せるとアイリは一瞬驚いたような顔をしたが、アイリは急いで真人が魔封石を持っている手を両手で包み込み、真人の耳元に顔を寄せた。
「なっ!? ちょっ!? 何を――!?」
「他の人に見られないうちに急いでそれ仕舞って! 早く!」
余程焦っているのか、アイリは敬語を使わずに真人に向かって小さな声でそう伝え、真人はそれに従ってすぐさま魔封石を仕舞った。
「えっと、仕舞いましたけど……」
アイリは安堵したように息を吐くと、真人を呆れた顔で見た。
「まったく……あんな貴重なものをこんなところで出すなんてどうかしていますよ? もし他の人に見られていたらどうなっていたか……」
「そ、そんなにヤバイものなんですかコレ……」
「悪い人に知られたら殺されて無理矢理にでも取られるくらいには危険なものです。以降は無闇に取り出さないようにした方が良いと思います」
「は、はい。気を付けます……」
少し青ざめた顔で返事をした真人を見て、アイリは一息つくと。
「さて、反省したようですし話を戻しましょうか。魔封石については知ってるみたいですので、説明を省きます。それで、魔封石の原石というのは、″透明石″と言われている非常に透度の高い石のことを言います。この石に魔力を注ぐことにより魔封石を作ることが出来て、様々なところで採取出来ます」
そう言ってアイリは、いつの間に用意してあったのかツルハシのようなものと布上の袋を取り出してカウンターの上に置いた。
「この目的地についたら、この道具で地層を掘ってください。そうすれば透明石が出てきますからこの袋に入れて持って帰ってきてください。透明石は他の鉱石を比べると明らかに綺麗ですからすぐにわかると思いますよ」
「なるほど……」
アイリは真人にツルハシと袋、それと地図を渡すと、掲示板から持ってきた書類に何かを書き始めた。
「では、私が申請をしておきますからもう行っても大丈夫です。休憩時間を使ってまで対応したんですから感謝してくださいね」
「……休憩時間?」
「休憩時間にでもならない限り受付嬢の私が受付を離れることはほとんどありませんよ? まったく、本来なら今頃休憩している頃でしたが、誰かさんが掲示板の前でずっと突っ立っていたせいで――」
「ごめんなさい本当に申し訳ありませんそしてありがとうございます」
「わかったなら早く行ってください。早くしないと帰ってくる頃には日が暮れてしまいますよ?」
そう言われて真人はアイリから渡された道具を持ち、ギルドの出口の方を振り向いた。
「最後に、道中いくつか森が見えるかと思いますが、絶対に興味本意で行かないでくださいね。最近、嫌な噂を色々と聞きますから」
「……はい」
真剣な声音でそう言ったアイリに、真人は小さく頷いた。




