未来を見るのは…
龍介は言われた通り、亀一と入れ違いに、景虎のお守りに長岡家に入った。
瑠璃は来なくてもいいと言ったのだが、龍介と一緒に居たさで来ている。
景虎は、誰かが抱いて居れば、黙っているので、龍介はずっと景虎を抱いていた。
「栞さん、次の授乳まで寝てていいよ?」
「あ、大丈夫よ。夜中はきいっちゃんが見てくれてるから、寝不足じゃないの。」
「へー。きいっちゃんが…。」
なんだか信じられない。
あの寝起きの悪い亀一が、景虎が泣く度に起きるなんて。
「ほら、きいっちゃんて、夜型というか、夜中型でしょ?だから、3時位までなら、勉強したり、研究したりで起きてるから、その間泣くと、抱っこしながらやってるみたい。
その代わり、その後寝ちゃったら、もう何が起きても起きないけどね。
朝起こすのも一苦労よ。」
「ーその苦労はよく分かります…。しかも、きいっちゃんであって、きいっちゃんでない生物になってるし…。」
「ほんとよね。死んじゃうんじゃないかって顔色だしね。」
「あの人、起き抜けだと、血圧70台だからな…。生きてんのかって、俺でも思うもん。でも、もう少し早く寝ればまだ楽だろうに…。」
「そうは思うんだけどねえ。なんか夜中の方が集中出来るんですって。」
「分かんなかねえけど、でも、その3時以降は栞さんだって起こされてんじゃねえの?景虎に…。」
「景虎も、3時以降は朝の9時までぐっすりなので、大丈夫なのよ。」
龍介は景虎の顔を見つめた。
「親父に似たんだな。」
景虎は大あくびをし、目を閉じた。
「でも、どうして2人は未来に行きたく無いの?」
「知ってたらつまらん。それに、いい未来とは限らない。
凄え嫌な未来だったら、そうならない様にと思って、気を付けるって利点はあるだろうけど、どっかで、こうなっちゃったらどうしよう、どう足掻いたって、ああなるのは、決まってる事なのかもしれないとか、不安になってしまうかもしれない。
そんな事で惑わされている程、俺は暇じゃない。」
栞は笑い出した。
「龍介君ぽいね。道は踏み外さないんだねえ、どんな時も。じゃあ、瑠璃ちゃんは?龍介君と結婚して、ラブラブの未来が見られるかもよ?」
途端に、龍介もどん引く程のだらしない、にやけ顔になったが、ふと我に返った様な、深刻な顔になった。
「それは見てみたいけど、でも、お嫁さんにっていうのは、随分前から言ってくれてるし、そこは楽しみに取っておきたいの。感動が減りそうだから。
龍があの時、未来に行くのを反対したのを聞いて、確かにそうだなって思って…。
今のこの状況を見てると、いい方に行ってるとは思えないわ。安藤総理は、どんどん日本が戦争しやすくする地固めみたいな事してる様にしか見えないし、裏で悪い事いっぱい画策してるみたいだし、この戦いに、龍のお爺様達が負けてしまったら、どうなるのかと思うと…。
もし仮に負けてしまって、安藤総理の天下になってしまっていたら、10年後、こんな平和な日本じゃないかもしれない…。
今の状態で、未来を見たら、良く無い事になってる気がして…。
だったら、龍の言う通り、見たら却って良くないんじゃないかって…。」
「なるほどね…。実は私も反対なんだ。」
栞は苦笑しながら言った。
「そうなんですか?どうして?」
龍介が聞くと、眠ってしまった景虎を受け取り、ベビーベットに寝かせながら答えた。
「瑠璃ちゃんと同じ理由よ。今の状態から先の未来は、私もいい未来じゃない気がしてる。
そして、きいっちゃんは、龍介君みたいに強くない。だけど、責任感は強いわ。
実際、防衛大に入って、お義父さんの所に行って、加納さんを助けるって言ってるし。
そんな最前線に行って、あの人が悪い未来の重圧に耐えながらやるなんて、大丈夫かなって。」
流石奥さん。
よく分かっている。
「でも、私の言う事なんて聞かないから…。だから、龍介君、嫌でしょうけど、ついて行ってくれる?きいっちゃん1人じゃ怖いわ。私。」
龍介は行かないつもりだったが、そう言われたら、うんというしかない。
龍介は栞に一緒に行くと約束した。
「聞いたぜ?龍介の活躍。あいつ、図書館行くなら、絶対うちに来させよう。」
しずかは、イギリスの龍彦とビデオチャットをしていた。
龍介の今回の大活躍は、竜朗と真行寺の両方から早速報告が行ったらしい。
嬉しそうにそう言う龍彦を、しずかはジト目で見た。
「私は嫌よ。もうあの子とは、金輪際仕事を一緒にすんのは嫌。こっちの計画が滅茶苦茶じゃない。しかも、勝手に動くし。」
「まあ…。聞いてっと、ちょっと京極っぽいけど、大人になって、仕事となったら、別だよ。あいつは組織で動く図書館より、こっちの方が絶対向いてる。普通の仕事に就かないっつーんなら、絶対こっち。」
「どうだっていいけど、私は一緒に仕事すんのは嫌よ。」
「そう言うなよ。頑張ったし、予想以上の仕事ぶりじゃないかよ。」
「それはそうは思うわよ。機転も効くし、カンもいいわ。才能は認めるし、龍彦さんが言う通り、図書館よりも、うち向けだとは思う。
だけど、そのお陰で、私は汗だくになって、紅茶まみれになった挙句、ゴミ箱に落ちたのよ?」
「そ、そうだね…。」
「更年期だから、汗凄いのよ!?」
「そうだよね。ごめんね。」
「うん。早く帰って来てね。」
「寂しい?しずか。」
「ん。」
「ごめんね。もう少しだから、もうちょっと待ってて。」
「ん。」
「まあ…。そうは言っても、褒めてやってよ。あの年で、うちの新米よりいい仕事したんだから。」
「ええ…。一応褒めときました…。」
「有難う。」
「はいはい。龍彦さんは?あの子、龍彦さんに褒められた方が嬉しいと思うけど?」
「その日の内に真夜中に起きて、チャットしましたよ。だけど、甘い俺たち親父より、いつも厳しいしずかの方が嬉しいと思うけどね。」
「そおかなあ…。」
「うん。」
「あ、なんかねえ、龍、元気無いの。」
「ーん?なんで?」
「悟君に何かお詫びをって言ったら、物では無くて、一緒に遊びたいって事になったらしいんだけど、それから。」
悟と聞いて、龍彦が鬼の形相になってしまった。
「佐々木悟…。金で解決出来るなら、しとけ、しずか…。」
「いや、金で解決出来ないっていうか、もう悟君もいらん事しいは辞めて、大丈夫でしょうし、そういうんで元気無いんじゃないと思うんだけどな…。
悟君と関わりたく無くて、遊びたくないなら、あの子、きっぱり言うと思うもの。
申し訳ないけど、それこそ金で解決させてくれって。」
「そっか…。じゃあ、その遊びが憂鬱なのか…。でも、何かの事情で、抜けられねえんだな…。大丈夫かな…。」
龍彦としずかの漠然とした不安と心配の中、タイムマシン計画は、亀一の指揮で、着々と進んでいた。
「きいっちゃん、これでいいのかしら?」
懐かしの秘密基地に、鸞がパソコンのパーツを持って戻って来た。
今回、龍介が居ないので、物資調達は鸞がやっている。
日本に来て、まだ数年しか経って居ないのに、持ち前の物怖じしない性格と、美しさが功を奏して、今のところ、全ての物をご近所からタダで調達して来てくれている。
「おお、いいね。しかし、本とよく持って来るなあ。何言っても、持って来てくれそうだな。」
「まあ、店長さんが男の人なら、大抵はなんとかなるかしら?」
寅彦が悲しそうな顔で目を伏せた。
「ど、どんな感じなの?やっぱり色仕掛けなの…?」
悟がおずおずと聞くと、悲しそうな顔のまま答えた。
「ーだな…。男がグラッと来る、ありとあらゆるツボみてえなもんを心得てるので、相手に合わせて、可愛い感じとか、丁寧で上品とか変えて、操る…。」
「あ、操られてんの!?加来も!」
「いや、流石にそこは分かるので…。」
「言うなりにはならないと…。」
「いや…。」
「えっ!?」
「分かっていても、うんと言ってしまうのが、男ってヤツなんだよ…。」
「そ、そっか…。なんか分かる様な気もするけど…。」
亀一が鸞が持って来てくれたパーツを組み込み、タイムマシンを試験作動させると、ニヤリと笑った。
「よし。完璧だ。決行は明日だな。」




