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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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蔵の中

亀一は、龍介の反対を押し切って参加。

どっちに入るかで迷ったが、悟猫の方は、日本で1、2を争う頭脳が2人も揃っているという事で、スパイ探しの方に参加する事になった。




という訳で、ある程度の聞き込みを龍太郎と和臣からした後、ゴールデンウィークと試験休みが一緒になったXファイル班としずかは、蔵に向かった。


「龍太郎さんの話では、データも鈴も龍太郎さんの手で破棄したと言ってるから、先ず龍太郎さんのパソコンからデータがどうなったか調べてくれる?」


寅彦に頼みつつ、念の為ついて来ている東国原空将と話すしずか。


「調査をさせてくださって、ありがとうございます。」


「いや、こちらこそありがとう。しかし、マズイな。ここから流出した物が悪用されたとなると。」


「ー誰かが腹を切らねばならない?」


「ならなくても、少々厄介な事にはなるかもしれない…。加納はあんまり好かれていないからね…。」


一同暗い顔になったところに、更に寅彦が悪いニュースを報告した。


「しずかちゃん、マズイよ。ファイル、廃棄されてない。隠してあるだけだ。」


「なぬ?」


「ほら、ここ。ゴミ箱に入ってるけど、使った形跡があんだよ。」


「ー寅ちゃん、このパソコンのセキュリティは?」


「完璧だね。パスワードとか聞いてなかったら、俺だって解除すんのに、2時間はかかる。」


しずかは深刻な顔で、空将を見た。


「龍太郎さんのパソコンのパスワードや解除法を知る人物は?」


答える空将の表情も深刻だ。


「ー居ないな。彼の研究は、超国家機密だ。長岡でさえ知らんし、私も敢えて聞いていない。紙媒体にも残してないし、彼の頭の中にしか無い。それに、彼は安全を考えて、パスワードは、3日置きに変えている。」


「これじゃ父さんが犯人だって言ってるようなもんじゃねえか。出来過ぎな位に。」


龍介が悔しそうに言うと、しずかが冷静に答えた。


「その通りよ、龍。出来過ぎなのよ。仮に龍太郎さんが本当に流出させるとしたら、こんな証拠残しまくりのやり方はしないわ。いくらあの人でも。

寅ちゃん、申し訳ないけど、きいっちゃんと2人で、徹底的にそのファイルを調べてくれる?」


しずかは2人と、安全を考えて、真行寺を残し、龍介と2人で、空将に案内されながら、宇宙開発の研究室に向かった。

しずかは、小声で、空将に分からない様に龍介に言った。


「よーく見て。妙に感じがいい人、心配してる様な顔で色々聞いてくる人は、まず疑って。はっきり言って、龍太郎さんは、みんなに好かれてる、愛されキャラって事は無いから。」


息子として、頷くのが憚られるワードもあったが、龍介は頷いた。


「分かった。」




3人が入ると、一斉に出入り口の方を見るなり、全員が敬礼した。

それは空将が一緒だからであって、龍介達にしたものでは、勿論無い。

そして、龍太郎があまり好かれていないのは、割と直ぐに分かった。


「今回、加納一佐の管轄の研究品が外に流出した可能性があり、その調査に来られた、真行寺しずかさんと、息子の龍介君だ。

知っての通り、加納一佐の元奥様と、ご子息であるが、しずかさんはエージェント歴20年以上のベテランであるし、皆も知っての通り、龍介君も普通の高校生では無い。

図書館管轄の正式な捜査であるから、きちんと協力する様に。これは命令である。」


ビシッと敬礼して、承知致しましたとか言っていたが、空将が行ってしまうと、かなり感じが悪い。


「あの、お仕事中、ごめんなさい。廃棄する物は何処に捨てているんですか。」


しずかが聞くと、河野ニ尉というネームプレートを付けた男が、無表情に壁に設置されている金属製の扉を指差して答える。


「あそこのシュートダスターに放り込みます。5分後には粉々ですよ。入れてればね。」


丸で、龍太郎が入れていないとでも言いたげだ。


「龍太郎さんが入れていない可能性があるとお思いなんですの?」


「加納一佐は、夢中になると、何か大事な事を必ず1つは忘れます。お陰でいつもこっちは尻拭いで、仕事量が倍じゃ済まない。離婚なさって正解だ。」


「それはそう思いますけれど…。」


しずかはにこやかな表情を崩さない。

敢えて、正面切って、龍太郎の弁護には回らないで、情報を引き出すつもりなのかもしれない。


「龍…。」


しずかが指示を出す前に、呼ばれただけで、龍介はハイと返事をし、シュートダスターの扉を開け、中を覗いた。

中は当然の事ながら暗いが、確かに残っているゴミは無く、3メートル位下の部分に見るからに鋭利な大きな羽根状のカッターが穴の全面を覆い尽くす様にあり、確かに入れたら粉々になりそうだ。

龍介が覗き込んでいると、いかにも人懐っこそうな男性が横に並んで言った。


「凄いでしょ?人間だって、粉々になっちゃいますよ。」


ネームプレートには、下山3曹と書いてある。


「その様ですね…。」


「ちょっと試してみますか。」


下山は、要らない紙を中に入れ、シュートダスターの隣の赤いスイッチを押した。

カッターが回りだした事で、風が起き、紙はスピードを上げて、カッターに吸い込まれる様に入って行き、消えた。


「これは、どんな小さな物でも、粉々になるんですか。」


「なりますね。Gー84ーきだってーなりますよ。」


「そのスイッチを押せばですね?押し忘れたら?」


「押し忘れたら、途中で引っかかっているか、カッターの部分に落ちているかですが、先ほど、河野ニ尉が仰った様に、スイッチを入れ忘れたとしても、安全の為に、5分置きに自動でカッターが回りだす設計になっているんです。ですから、どっちだったとしても、カッターの風圧で吸い込まれて粉々に。それで5分で粉々と仰ったんですよ。」


「なるほど。そうですか…。その粉々になった物は何処へ?」


「地下のゴミ処理場です。ご案内しましょうか。」


「お仕事中にすみません。お願いします。」


龍介はしずかの言葉を思い出しながら、しずかと目を合わせ、下山の後について研究室を出た。

多分、龍太郎は、研究を優先するあまり、此処でも、かなりの迷惑をかけているのだろう。

5分置きの自動設定は、龍太郎の為と言ってもいい位かもしれない。

特にこの下山は、このエリートばかりの研究室では、階級は1番低い。

当然、龍太郎のしでかした事に関する雑務は、1番多いはずだ。

しずかは元妻だし、龍介は単なる息子だ。

息子に愛想良くしたとか、しなかったとか、そんな事で龍太郎は、部下の出世を左右なんかしないし、そもそも、龍太郎はそういった雑事からは外して貰っているはずで、だからこそ、しずかが言った通り、感じが悪い方が当たり前の反応と言えると思われる。

なのに、下山は酷く親切で、感じがいい。

これはしずかに言われなくても、不自然な気がした。


「で、物はなんですか。流出した可能性の物って。」


ー探って来たか?ここは逆に正直に言って、出方を見てみようか…。


「鈴です。直径3センチ位の、金属製の物です。」


「ああ、あれですかあ。あれは、加納一佐も、直ぐ捨てようって仰って、入れた直後にボタンを押していらしたと思いますよ。」


「父が自分でですか。」


「はい。僕は、河野ニ尉に、加納一佐がボタン押し忘れたら、念の為ボタン押しておけって言われてるんです。

万が一、ここの物が出たら、本当マズイんで。

だから、他の仕事中でも、加納一佐がシューターの前に行かれたら、ボタンを押すかどうか見ているんですよ。ですから、確かです。その時は、ご自分で、しっかり押されました。」


ーこの下山さんがスパイだったとしたら、なんで庇う様な事言うんだ…。

いや、待てよ。庇ってるんじゃなくて、逆に父さんに罪をなすりつけ易くしてるんじゃねえのか?

父さんが全部自分で始末したってなったら、逆に、父さんしか持ち出す事が出来る人間は居なくなるって事だ…。


ゴミ処理場に着いた。

流石にこの広大な蔵のゴミが一カ所に集まる所だけあって、かなりの大きさだ。

しかし、そこにあるのは、砂の様な状態の物ばかりだった。

塊は一切無く、元がなんなのかも、もう分からない。


「ね?ここに来た時には、もう粉々なんですよ。」


「そうですか…。」


龍介は相槌を打ちながら考えた。


ー父さんが鈴を入れて、カッターのスイッチを押したのが本当だとするなら…。いや、多分本当だろう。あの部屋には監視カメラがあった。この人がデマカセ言ったって直ぐに嘘だとバレる。

カッターの手前部分で、鈴を取ったとしか考えられない…。

あの3メートルの間に何かあるのか…。


龍介は下山に礼を言うと、しずかに秘匿回線のメールで報告を入れながら、寅彦達の所に戻った。


「作業中ごめん。悪いんだけど、ここの見取り図、出してくんない?」


「おう。」


寅彦が直ぐに自分のパソコンで見取り図を出すと、確認した龍介はニヤリと笑った。


「よーし…。ちょっと行ってくらあ。」


真行寺が顔色を変える。

さっきの報告メールは、真行寺の所にも来ていた。


「龍介!?何を企んでんだ!?グランパも行く!」


「いやいや。目立つと困るし、多分、俺サイズでないと入れない。では、また後で。」


それだけ早口で言って、龍介はどこぞへ行ってしまった。



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