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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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変な猫

4月になった亀一の誕生日、亀一と栞の結婚式が極秘で行われ、式の最中に栞が産気づき、無事に男の子が生まれ、なんと亀一の誕生日と結婚記念日と息子の誕生日が同日というレアケースにはなったが、ひとまず落ち着き、高3になった。




龍介と瑠璃は恒例のコンサートデート帰りだった。

瑠璃のマンションの前に着くと、汚くて不細工な猫がニャアニャアと、瑠璃を見つめて、鳴き出した。


「あら…。見かけない猫ちゃんね…。どうしたの?」


「ニャア!ニャア!ニャア!」


泣いてばかりいる子猫ちゃん~じゃないが、あまりに激しく鳴くので、瑠璃が抱き上げて、抱えると、途端に黙って、ニヤ~っとした様に見えた。

どうだと言わんばかりの偉そうな顔で龍介を見ている。


「なんだ、コイツは…。」


龍介は動物は全般的に好きな方だし、懐かれるが、この猫だけは虫が好かない気がした。


「どうしたの?お腹空いてるの?」


瑠璃が優しく聞くと、ニャア~ンと甘えた声を出して、瑠璃の胸に顔を埋める。

龍介は猫相手とはいえ、なんだか無性に腹が立って、その不細工猫の首をむんずとつかみ、自分の顔の前にぶら下げた。

猫はシャアシャア言って、威嚇して怒っている。

猫の方も、龍介が嫌いな様だ。


「てめえ、なんかムカつくんだよ。」


「シャアアアアア!!!」


爪を出して、龍介を引っかこうともがく猫。


「コイツは俺んち連れてく。」


「え…。でも、この子、私に懐いてるし、危なくない?龍が引っかかれそうよ?」


「舐めんじゃねえ。猫如きの攻撃、かわせない俺では無い。」


丸で言葉が分かっているかの様に、それだけは勘弁してくれとばかりに、瑠璃に甘えた声で訴え、瑠璃の方へ行こうとする猫。


「駄目だ!なんかお前スケベっぽい!いいから来い!」


龍介は自分でもよく分からなかったが、この猫に対しては無性に腹が立ち、保護しなければというのも、瑠璃に預けるのが嫌だからとそれだけだった。

きっと1人でいるときに見つけたら、龍介らしくもなく、ほっといただろう。

それ位、嫌なものだから、扱いもゾンザイだ。

暴れたり、また瑠璃の胸の中に飛び込んで行かない様に、足で踏みつけて猫を固定。


「龍!?。可哀想よ!?」


物も言わず、自分の肩掛けカバンから分厚い本を2冊取り出し、瑠璃に持たせ、猫を押し込んで、ファスナーを閉めた。


「えええええ…。」


日頃優しい龍介にはあり得ない動物の扱いに、瑠璃は驚きの余り、言葉も無い。


カバンの中で猫が暴れているのも構わず、またカバンを斜め掛けにすると、龍介は無表情のまま言った。


「じゃ。」


「龍…?」


そして大股で家に向かって歩き出してしまった。

龍介の素敵な後ろ姿に、モゴモゴ動くカバン…。


ー怪しい…。っていうか、どうしちゃったのかしら、龍ったら…。




家に帰ると、竜朗とポチへの挨拶もそこそこに、風呂場へ行き、カバンを開けて逆さにして猫を落とす様にして出すと、いきなりポチの犬用シャンプーをぶっかけ、ガシガシ洗い始めた。


「ふぎゃあああああ~!」


まるで断末魔の叫びのような声を出すので、竜朗とポチが吹っ飛んで来た。

ところが、猫を見た途端、普段滅多に吠えず、猫にも優しいポチが凄い勢いで吠え出した。


「なんだ、ポチ。この猫は気に入らねえのか。」


竜朗が宥めようとしても、珍しく、吠えるのを止めず、尻尾が内側に巻き込まれてしまっている。

怯えてしまっている様だ。


「龍、なんだい、その猫。ポチ、怖がってるみてえだぜ?」


「そっか…。やっぱ変なんだな、コイツ…。

なんかさ、瑠璃が抱いたら、凄えスケベっぽい顔して、胸に顔擦り付けてんだよ。

俺も自分でもよく分かんねえんだけど、妙に腹が立って、瑠璃から離した方がいいと思って、取り敢えず連れて帰って来ちまったんだけどさ…。」


「ー俺もなんか気に食わねえな、その猫…。しかし、この感覚、なんか身に覚えのある感覚なんだよな…。」


「俺もなんだよ、爺ちゃん。この腹の底から腹立つ感じ…。」


「なんだろねえ…。まあ、取り敢えず、風呂入れて、なんか食わせたら、家の外のポチが一回しか入んなかったゲージに入れておこうぜ。

飼い主居るとは思えねえけど、うちの前に預かってますって、張り紙だしとこ。」


「うん。」


ところが、猫は外に出すと、近所迷惑な勢いで鳴く。


「お前、なんなんだよ…。」


龍介は、ほとほと嫌になりながら、ゲージごと中に入れ、玄関に置いた。

猫の顔を改めて見てみる。

なんだかどこかで見た様な顔に見える。

細い目。大きな顔。


「なんか誰かに似てんだよなあ…ってまあ、人間に似てても関係ねえもんな。」


猫が抗議する様にニャア!と鳴いた。

でも、龍介相手にはずっとこうである。

また始まったとばかりに、龍介はため息をつきながら猫の写真を撮り、チラシに加工して外の門に張り出してから寝た。




翌日、猫に餌をやって、ポチの散歩から帰って来ると、竜朗が龍介を呼んだ。


「なに?爺ちゃん。」


「警視庁のタイムラインで、佐々木の倅が捜索願出されてるの見つけた。」


「佐々木って、佐々木悟?」


「ん。」


すると、猫、ぎゃあぎゃあみたいな叫び声を上げて、ゲージをガタガタ言わせている。


龍介は猫をじっと見つめた。

誰かに似ていると思ったのは、悟だ。


「まさか…。佐々木?」


「ニャア!ニャア!ニャア!」


猫は涙目で激しく頷いた。


「こんの、どスケベの、ど変態野郎ー!!!。猫になってまで、瑠璃にまとわりつくなああああ!!!」


竜朗が、目を点にして、猫を殴りそうになっている龍介を止めた。


「龍!そこじゃねえだろ!?」


「はっ…。」


そうだった。

問題は、悟が何故猫になっているのかという事だ。

悟猫は肩を落とし、泣いている様に見える。


「なんでお前は猫になっちまったのよ…。」


竜朗が聞くと、ニャアニャアと一生懸命に説明している。

動物の言葉も、あおんしか言わないタンザワッシー言葉も分かる龍介を期待してみたが、龍介は首を横に捻った。


「全然分かんねえな。」


元からの信頼関係の問題か、動物であって、動物でないものだからなのか分からないが、龍介が分からないとなったら、お手上げである。


「はあ。困ったね。研究所でも持ってくか。」


竜朗は早いところ、この摩訶不思議な悟猫を目の前から消し去り、無かった事にしたいらしい。


「うーん…。どうすっかなあ…。」


龍介は腕組みをして、悟猫を見ていた。


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