グランパの謎
龍介達がドッと疲れた顔で戻ると、寅彦がゲラゲラ笑うので、蹴りを入れている間に宇宙人女性が着替え終わり、またさっきの喫茶店に入った。
店主1人で全てを切り盛りしている様だが、なんでも美味しく、ちょっと昭和な雰囲気が、龍介達世代には、逆に新鮮な感じだ。
女性は、ミートソーススパゲティを美味しそうに食べている。
「で、どうすんの、グランパ。」
「どうするって、話が出来なきゃ状況も掴めない。まずは、言葉を教えないと。」
「どこでどうやって?」
「それは…。」
真行寺が隣の宇宙人女性を見ると、にっこり微笑んで、真行寺にぴったりとくっ付いた。
「相当懐かれてますな…。グランパ…。いっそお持ち帰りしては?」
亀一が揶揄い半分に言うと、真行寺はブンブンと首を横に振った。
「それはダメっ。無理っ。」
「なんで?よく一緒に居るタイプじゃないですか。しかも、珍しい天然物の巨乳なんでしょう?」
「そうだけど、俺が相手にしてる子は、こう言っちゃなんだが、バカなんだよ。
その場限りで済むタイプなんだ。こういう素直で賢い、純朴なタイプじゃないから…。」
真行寺の腕に絡み付く百合からは、誰から見ても、ハートマークが飛んでいる。
「でもグランパ、俺から見たって、百合さんは、グランパが好きみてえだし、信用してるみたいじゃん。なんとかしてやんなよ。」
「ええええ…。」
寅彦も頷いている。
「ですな。グランパの事が好きなら、グランパが教えれば、言葉も直ぐ覚えるでしょうし。」
「んんんん…。」
そして結局、竜朗と電話協議の結果、間をとって、真行寺が面倒を見るが、彼女と同居している間は、加納家に住むという事になった。
どういう間なのかよく分からないが。
こうして、加納家に女性が1人増えた。
百合はメキメキと言葉を覚え、5日程で片言ならば会話が出来る様になった。
「百合さんは、自分の星に帰りたくないの?」
食事時に龍介が聞くと、器用に箸を使いながら一生懸命答えた。
「帰りたくない。ここがいい。
しんぎょーじ、とっても優しい。強い。格好いい。素敵。
りゅーちゅけもそう。たちゅろーも寅もそう。
でも、星の男、みんな弱い。
私が攻撃した子みたい。
ニョロニョロ。」
最後のニョロニョロが分からず、きょとんとしている龍介と竜朗に、真行寺が通訳しながら優しく教えた。
「ニョロニョロじゃなくて、ヒョロヒョロだろ?」
「あ、そうそう。」
そして、真行寺にピットリ。
真行寺が困った顔で笑っている。
「星の男、みんな聖ガブリエルの奴らみたいなのか…。なんでだろう。」
「みんな勉強しかしない。運動はしない。
それで怖がりの弱虫だから、星もバリアで見えなくしてる。
言葉通じない人が通ると、攻撃する。」
そして、真行寺が補足。
「だから、好戦的という訳じゃない様なんだ。」
「それは良かった…。弱いが故の過剰防衛なんだね。」
しかし、どうも百合に名前を呼ばれると、龍介は過去の傷をグリグリと抉られる様な気がしてしまう。
『りゅーちゅけ。』
出来たら、封印しておきたい黒歴史。
「そんな綺麗なボインの人が一緒に住んでるの!?大丈夫なの!?心配じゃないの!?鸞ちゃんわあ!」
事件の翌々日、寅彦から聞いたと鸞が瑠璃に話をすると、瑠璃はムンクの叫びの様な顔になって、衝撃を受けている。
鸞は笑い出した。
「心配じゃないわよ。寅の好みじゃないもの。それに、真行寺グランパにご執心なんですって。」
「ええええ!?そらまた随分お爺さん好みね!?まあ、若く見えるし、格好いいけども!?」
「それに、真行寺グランパは、魅力的な男性じゃない?。
若い女の子がほいほい引っかかるのも、分かる気がするけどな。」
「まあ、それはそうね。龍のお爺様だし…。」
途端に顔が崩れて、にやけながらデレデレ…。
「因みに、その龍介君も大丈夫そうよ。
りゅーちゅけって呼ばれる度に、黒歴史が疼き出して、真っ青になってるって、寅が言ってたわ。」
「はああ…。それは良かった…。でもまあ、龍の場合、ボインだからって、目を奪われるって事は無いからね…。」
寂しそうに言う瑠璃の胸元を見つめて頷く鸞。
瑠璃は鸞と栞と亀一の勧めに従い、龍介とのデートでは、大きめ胸を強調する様な服を着る様にしているのだが、努力も虚しく、龍介の煩悩は相も変わらず復活しない。
「折角大きくて、綺麗なお胸なのにね。」
「ま、まあいいのよ…。復活したらしたで、あのお父様に、あのお爺様じゃ、龍も相当スケベそうだし、なんか怖いから…。」
「男はみんなスケベよ?
草食系なんて気持ち悪いじゃない。
あの越田君達みたいに、電車にしか興味なく、ママって人前で平気で呼ぶ様な男よりずっとマシだとは思うけど。
段々龍介君向けに、瑠璃ちゃんも、脱煩悩になってるんじゃないの?」
「いえ、そんな事は…。
ただ、龍のお父様とお爺様が常軌を逸したスケベな気が…。
まあ、お父様の方は、お母様にだけだからいい気もするけど…。」
「まあ、それはあるかもねえ…。うちのお父さんが『真行寺は18禁男だからな。』って言うくらいだし。」
鸞が京極のガラガラ声を真似るのがおかしくて、瑠璃も笑ってしまった。
「でも、お爺様は、どうしてあんなにモテモテなのに、本気の恋が面倒なのかしら?亡くなった奥さま一筋って事?」
「私も、フランス行った時、寅がオネエちゃんと一緒のグランパをきいっちゃんが見たって話をした時に、私もうちのお父さんに聞いてみたのよ。」
「うん。なんだって?」
「確かに、奥様とは、浮気もせず、夫婦仲も良かったみたいだけど、馴れ初めはお見合いというか、グランパのお父様が決めた結婚だったそうで、グランパには他に好きな人が居たらしいのね。」
「へえええ…。」
「その人が忘れられないけど、実らないから、適当にやってんのかもなって、言ってた。」
「なんか本気で行ったら、今でも実りそうだけども?」
「私もそう思うんだけどさあ。まあ、お年がお年だから、相手が亡くなってるという可能性もあるんじゃない?。」
「ああ、そっかあ…。でも、お爺様が本気の人ってどんな人だったんだろうね。」
「ね。興味深いわ。」
それは後々、思わぬ形で判明する事になる。




