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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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男の友情

龍介はギリギリで、化け物の攻撃をかわしながら、裏山へと誘いこむ為、走り続けていた。

走りながら弾倉を変えつつ、攻撃を避けるなんて、特殊部隊員もびっくりの様な事をやりながら、走っている。

化け物の後ろには、全員乗った自衛隊のジープが付いて来ている。

援護したい所だが、ここで援護してしまっては、化け物の足が止まり、ここでやり合う事になり、龍介の計画通りに行かなくなる。


「龍介君!加納一佐に大至急でIH砲を手配して貰う様に頼んだからな!」


助手席の千石が叫んだ。


ー父さん…?やばくねえか、それ…。しかも大至急で、俺がピンチってあの人知ったら…。


「千石さん!それじゃあ、サンプルはいいんですね!?」


「ーえっ…!?」


「父さんは確実に、自らやって来て、木っ端微塵にしちまう!

父さんに頼んだんならもう遅い!

サンプルは諦めて、山火事の対策をしといた方がいい!」


「えええー!?サンプル無しじゃ、加来一佐に怒られちまうよおおー!!!」


「父さんに頼んだのが間違い!」


「うわあ、そっかあ…。」


亀一が心配で顔色を失くした表情で、その様子を見て言った。


「竹馬の友ながら、どうなってんだ、あいつは…。

あの読めねえ攻撃を避けながら、的確に撃ちつつ、弾変えながら走ってて、そこまで考えられるとは…。」


寅彦は亀一の言葉に頷きながら、地図を出して繋いだ。


「裏山まで行かなくても、でっかい林もあった。

だけど、あの時、林に誘導するには、きいっちゃんや俺たちを(かす)めて行かなきゃなんなかった。

裏山なら、誰の側も通らないルートが取れる。

龍はそこまで考えて、裏山って言ったんだ…。」


心配のあまり、口がへの字になって、必死に泣くのを耐えている瑠璃の手を握り、鸞も深く頷いた。


「素晴らしい司令官ね。気が付けば、葉っぱも取れて、男前も戻ったし。大丈夫よ、瑠璃ちゃん。彼なら無事にやり遂げるわ。」


願いを込めて、強く頷く亀一は、龍介が咄嗟に自分を庇った様な気がして仕方が無かった。

いつもだったら…。

龍介は亀一にも、何か指示を出したはずだ。

或いは、手伝える余地を残している。

それが全く無かった。

寧ろ、亀一には手出しさせない様にする為の作戦にも思えた。


ー俺が親父になるからなのか…。龍…。


龍介は、初めは亀一がそんなにスケベだったなんてと、独特のショックの受け方をしていた様だったが、落ち着いたら、子供の誕生を誰よりも楽しみにし、そして、気遣ってくれている。

双子が年が離れており、その時の記憶があるからなのか、実に的確な感じで、栞の事も気にしてくれる。

龍彦と龍太郎という2人の父を持つ龍介は、人並み以上に、父親の気持ちや有り難みを知っている。

亀一にもしもの事があったらと、それが1番に頭を掠めたのかもしれない。


ーんな気イ遣いやがって…。


堪える事も出来ず、涙が出た。


ー龍、ごめん…。裏山に着いたら、お前は俺が守る…。


寅彦が亀一のその思いに気付いたのか、肩を掴んで無言で頷いた。

亀一はその手を握り、頷き返す。


その様子を見ていた千石は、突然、盛大な音で鼻をかみ出した。


「ど、どしたんですか、曹長!アレルギーですか!?加来一佐の雷が怖い!?」


隣の隊員が驚いた様子で聞く。


「アホウ!こんな気持ちのいい、男の友情目の当たりにして、これが泣かずに居られるか!」


「は…。」


千石という男は、意外と察しがいいらしく、2人の会話と様子で全部分かった様だが、他の部下は全く分からず、ポカンとしている。

というか、他の部下にはそんな余裕が無いとも言える。


千石が鼻水垂らして感動している間に、龍介もどうにか無事に、化け物を裏山に誘導出来た。


着いた途端、亀一と寅彦はジープから飛び出し、2人してランチャーを構えた。


「龍!逃げろ!」


「きいっちゃん!あんたは撃つな!寅もだ!」


矢張り龍介は、亀一や他の人間が攻撃する事で、化け物のターゲットになるのを恐れたのだ。


「うるせえ!1人でかっこつけんな!」


亀一が怒鳴り、2人してランチャーを構えてしまったので、龍介は仕方なく、化け物の足の間を潜り抜け、ジープの側に受け身で転がった。

それと同時に2人でランチャーを放つ。

流石に、かなり破壊は出来たものの、大きさは半分になっても、歯剥き、有毒物質を吐き、攻撃的なのは変わらない。

しかし、千石を初めとした自衛隊員も黙っちゃいない。

2人の弾込めの間にもう2発づつ撃つ。

そして、逃げた直後にジープから出したランチャーで、龍介も撃つ。

ランチャーだけは5丁も持って来て、何故IH銃は1丁なのか不思議な気がするが、千石の楽しそうな横顔から、千石の趣味と容易に知れた。


ーこんな所にも、大叔父さん系のランチャー好きが…。


龍介は疲れた身体と頭で、確信に満ちて、そう思った。


他の隊員が山火事が出ない様に消火してくれている中、そうこうしている内に、化け物は50センチ位の大きさになった。


「よし!捕獲だ!」

千石の指令で自衛隊員が捕獲用の頑丈な檻の様な物を用意した時だった。

ヌッと突然、上空に現れた、龍太郎のステルス。


「どけー!千石ー!」


龍太郎の声が、ステルスのスピーカーから大音量で聞こえる。


「い、一佐!もう大丈夫ですから、これは捕獲を…!」


「なに、なまっちょろい事言ってんじゃああ!

龍が危ないって言ってたじゃねえか!

退けええええ!」


「いや、大丈夫ですからあああ!」


「それは俺が判断する!いいから退けええええ!」


龍介は苦笑しながら、千石の袖を引いた。


「引いた方がいいです。父さんに火が点いたら、消せるのは母さんだけですから。」


「あああ…。加来一佐の報復が怖い…。」


ー報復…?なんでお叱りでなく、報復…?


龍介が疑問に思っている間に、龍太郎はピンポイントミサイルを化け物に向かって撃ち、跡形も無く、粉々にしてしまった。

周囲、山火事寸前。

慌ててさっき消火担当だった隊員が消しにかかる。


「うわああああ!サンプルがあああああ!」


頭を抱えて泣き叫ぶ千石など気にも留めず、ステルスから飛び降りる様に降りて来た龍太郎は、龍介の所へ走った。


「大丈夫か!?毒はかぶらなかった!?噛まれなかったか!?」


「舐めんじゃねえよ。大丈夫だよ。それより父さん、また木っ端微塵にしちまって…。」


「あ、このピンポイントミサイルね、木っ端微塵ミサイルって言うんだあ。よく分かったね、龍。」


龍介は苦笑しながら龍太郎を仕方なさそうな目で見つめた。


「そんな飛んで来なくて大丈夫。もう子供じゃねえから。」


自分より背も高くなってしまった龍介を見上げる形で見た龍太郎は、ふっと寂しそうに笑った。


「ーそうみたいだな…。

全部守る為にここまで1人で走って逃げて攻撃して…。

立派だったね、龍。」


面と向かってそんな事を言われてしまい、龍介は、顔から火が出そうに恥ずかしくなってしまった。


「お、思いつきだよ…。」


龍太郎は、そんな龍介を眩しそうに見つめて、微笑んだ。


「思いつきにしちゃ、よく出来てるね。とっても計画的且つ、理に適った作戦だ。」


「………。」


龍介が真っ赤な顔で黙ってしまうと、龍太郎は龍介の肩を叩き、ステルスに乗り込んだ。


「早く帰ってやんなさい。しずかと真行寺が待ってる。きっとハンバーグだよ。」


「父さんは!?今日は帰って来る!?」


「今日も帰れない。早く寝なさい。」


微笑んで手を振り、そして行ってしまった。


見送る龍介の横に、矢張り盛大に鼻をかむ千石が立った。


「ど…どうしました…。その報復とやらが悲しい…?」


「いや…。確かに報復を考えると、いい年をして泣きたくなるが、そうじゃなくて。」


「なんです…。」


「加納一佐は、子供の成長が嬉しくもあり、寂しくもありなんだなあって、同じ男の子の親として、しみじみとジーンとしちゃってね!」


ブシューッ!!!


いい人だが、結構暑苦しい事が判明。


亀一と寅彦もランチャーを置いて、龍介の前に立った。


「よくやった、龍。褒めて遣わす…が!」


「なんだ、きいっちゃん。」


「お前の気持ちは有難いが、俺を外すな。」


龍介はクスっと笑って、困った様に微笑んだ。


「バレバレかあ。」


「バレバレだあ。何年付き合ってると思ってんだ。」


「だな。」


寅彦にも口癖の『だな。』でダメ押しされ、龍介は2人の肩に両腕を載せた。


「ああ、疲れた。」


2人は龍介の手を叩きながら同時に優しい声で言った。


「お疲れさん。」


「うん…。」


山の木々の間から見える秋の夕陽が、目に沁みる様に、やけに眩しく思えた。























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