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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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寅彦応援団

今年も盛り沢山だった夏休みが終わり、真行寺はXファイルの事務仕事で、図書館に来て竜朗と話していた。


「安藤は右傾化だと叩かれてる割に、支持率が高いな。調子に乗って、安保改正に踏み切りそうか。」


「はい。全く聞く耳もちゃあしません。双葉会長が国家騒乱罪で死刑もスピード執行されたってのに、より過激に。で、この間。」


竜朗は天を指差した。

この仕草が指し示す相手は、龍介達、若干一般国民から逸脱している者達でも知らない。

極々限られた人間しか知らない相手である。


「お呼びがかかったのか。」


「はい。玉音放送の原盤、及び、当時の天皇陛下の防空壕を公開したら、戦争反対の声を上げやすくなり、安藤も言論を抑え込もうとしなくなるのではないかと…。」


「うん、で?」


「妙案だと言いました。早速、宮内庁の方で準備にかかると。」


「あちら様がそれとなく動いてくれれば、安藤も早々、言論弾圧も報道規制も出来なくなるだろうが…。

このまま行きそうだな。選挙大勝しちまったし。財閥系ガッチリ掴んでるから、票集めは楽勝か。」


「ですね。相変わらず円安ですし。デカイ企業は安藤サマ様ですから。」


ひとしきり、現政権の愚痴をした後、真行寺は突然、竜朗を睨みつけた。


「は、はい?なんですか?」


「お前…。もう龍介に滝浴びはさせてないだろうな?」


竜朗は手をブンブン横に振って、必死に答えた。


「当たり前じゃないですか!してませんよ!あれ以来!」


「ーならいいんだが…。しかし、成長期にやっちまったのが、いけなかったのか、嫌んなるほど、効き目が持続してるな…。」


「イギリスでなんかあったんですか…。」


「イギリスでの亡霊事件は聞いただろ?」


「はい。」


「あの時、しずかちゃんが気を利かせて2人きりにしたんだ。森の中、龍介と瑠璃ちゃんを。」


「おお…。それで…。」


「キスしてもいいいって言ったら、ずっとしたいと思ってたって言うから、これは期待出来るかと思ったら、おでこにチュだけだと!

どおしてくれるんだ!ええ!?」


「えええ…。」


「もう17だぞ!お前、17の時何やってた!?

小夜子ちゃんと18禁の逃避行を繰り広げた挙句、景子ちゃん妊娠させて、親父になってたろうが!」


「す…すみません…。」


もう謝るしかない竜朗。


「お前のその有り余る煩悩を、ちょっとでいいから、龍介に分け与えろおおお!」


「んな事言ったって、もう俺だって煩悩ありませんし、分けられる類いのもんなら、とっくに亀一だの顧問だの、たっちゃんだのから貰ってますよお…。」


「全くもお!その報告を瑠璃ちゃんから受けた龍彦としずかちゃんは、白目剥いて倒れてたぞ!どおしてくれるんだ、この馬鹿あ!」


「ううう…。申し訳ありません…。」


本当は凄い人な筈の竜朗は、真行寺には滅法頭が上がらない。




龍介の煩悩は兎も角、世の中ハロウィンである。


「万聖節って意味も分かんねえくせに、凄え流行り方だよな。」


横浜まで歩く途中の商店街がハロウィン一色なのを見て、亀一がボヤくと、龍介が笑った。


「んな事言ったって、俺たちだってチビの頃は、恩恵に預かってたじゃねえかよ。」


「ああ…。そうだ。やったな。

この3軒だったけど、一応扮装して、トリックオアトリートって…。

龍は『ちょりっくおあちょりーと!』だったけどな。」


途端に憮然とする龍介。


「うるせえな。子供には言いづらかったんだよ。」


「お前はなんでも言いづらかっただろうがよ。」


小学校入学直前に、龍介はドラキュラ、亀一はフランケンシュタイン、寅彦は狼男に扮装して、それぞれの家を回って、お菓子を貰った。

どの家も、あの母達だから、美味しい手作りお菓子だったが、その頃から、龍介ファンクラブの会長だった優子は、ドラキュラの龍介を見て、『吸われてみたい〜!』と、悶絶し、和臣にドン引かれていた。


「優子さんのアレは謎だったな…。」


と言いながら、龍介は隣の瑠璃を見て固まった。


「吸われてみたーい。いいな、いいな、かっこいいだろうな、龍のドラキュラ。」


優子同様、身をくねらせて、ハートマークを飛び散らせながら、いつものあのにやけ顔で言っていたからだ。


亀一が苦笑しながら、寅彦に目をやると、ぼんやり歩きながら初秋の風景を眺めており、心ここにあらずといった感じだ。

鸞は居ない。

2学期になってから、赤松とデートしてから送って貰うのか、よく知らないが、一緒の電車になった事は無い。

気付くと、龍介と瑠璃も、心配そうに寅彦を見ていた。


「唐沢、どうなってんだよ、赤松と鸞ちゃんは。」


「うーん…。実は、あんまり聞いてないの…。」


「なんで。」


「だって鸞ちゃんから言わないんだもん…。」


すかさず龍介が期待を込めて聞く。


「上手く行ってねえから?」


「分かんない…。

でも、この間、私を助けに来てくれた時の、加来君の勇姿の録画を見せてからかもしれない。

何にも言わなくなったのって…。

でも、もし仮に別れたくなってたとしても、大変だよね…。

赤松君、一生懸命だし…。

思いっきり逆方向の遠い所に住んでるのに、送ってくれるみたいだし…。」


赤松は横須賀に住んでいる。

龍介達とは猛烈な反対方向に住み、尚且つ、横須賀と相模原というのは、滅茶苦茶遠い。

横浜の学校が丁度ど真ん中で、赤松と龍介達は、お互い1番遠い所に住んでいる者同士だから、送って行くとなったら、2時間では済まなくなる。

赤松は相当頑張っているのが、それだけでも分かる。

余程好きなんだなあと思うと、いくら寅彦の為とはいえ、振られるのを願うのも気が引けてしまう。

嫌な奴ならまだしも、赤松は、完全無欠にいい奴だ。

亀一も同じ様に思ったのか、考え込んだ顔で黙ってしまった。

寅彦の三角関係、割と複雑である。




「ちょっと俺、アキバ寄って帰る。先帰って。」


寅彦は横浜駅で別れてしまった。

寂しげな背中を見送り、瑠璃は決意した様に言った。


「ちょっと私、もうちょっと鸞ちゃんに加来君がどれだけ変わったか、プッシュしてみるわ。」


「お、唐沢も寅推しか。心強いな。」


「だって、加来君とも長いお付き合いですもん。

それに、赤松君は確かにいい人だし、なんて言うのかな…。

定型の王子様って感じよね。

優しくて紳士で、顔も甘いマスクってやつで、イケメンだし、スポーツ万能。

うちの看板ラグビー部の部長。

だけど、なんか加来君に比べると、面白みが無い気がするのよ。」


「おおー!おお!そんで!?」


龍介と亀一は親友を褒められて嬉しくなって、勢い込んで聞いた。


「加来君はさ、目つきが鋭くて、好き嫌いはあるかもしれないけど、私から見たら、爽やかで万人受けしそうな赤松君よりイケメンだと思うのね。

ちょっと可愛い感じだけど、性格の強さが出てて、同じ年齢にしては、いい顔だと思うの。

まあ、それはこの御三方、みんなそうだねって、うちの母も言ってるんだけど。」


「ふんふん。」


ついでに自分達も褒められて、龍介達の機嫌は結構うなぎ昇りに上がって行く。


「スキルも凄いし、頼もしいし、男は黙ってって感じで渋いと思うの。

それに今回、お化けも克服したし、そしたら絶対赤松君より楽しいし、いい男だと思うんだよね。」


「そうであろう。そうであろう!頼むぜ、瑠璃。」


「ん。期待してるぜ、唐沢。」


2人の期待を一身に受け、瑠璃は力強く頷いた。




秋葉原に寄った寅彦は、小田急相模原駅からぼんやりと歩いていた。

夜8時位になっている。

秋葉原に行っても、買い物には余り集中出来なかった。

見る物、入る店、全部鸞に繋がってしまうからだ。

結構、秋葉原には付き合わせてしまった。

鸞は面白くもないはずなのに、嫌な顔もせず、楽しそうに付き合ってくれていた。


ーでも、そういうのも嫌だったのかな…。


ふと前方を見る。

暗がりの中の後ろ姿が鸞に見えた。


ー鸞?まさかな…。鸞の事ばっか考えてるから、鸞に見えちまうんだな…。


それにかなり離れている。

眼鏡をかけていても、かなり視力の悪い寅彦には、ちゃんとは見えていない。


ー鸞ノイローゼだな、全く…。


なるべく気にしない様にと歩きだしたところで、その前方の人影に数人が立ち塞がる様に立ち、何やら話し始めた。

だが、様子がおかしい。


「嫌だって言ってるでしょう!離しなさいよ!」


鸞の声だった。

寅彦は迷わず駆け寄った。









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