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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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爺ちゃん動く

竜朗は安藤首相の執務室で、声を荒げていた。

龍介の予想通り、安藤が空爆に参加すると言いだしたからだ。

その為に急遽憲法9条と12条の改正法案を通すと言うのだ。


「あんたなあ!それがどういう事か本当に分かってんだろうな!?今回はラッキーが重なって、秋葉原の被害だけで食い止めた!お陰でかなりの情報が得られて、テロリストは取り敢えず現段階では一掃出来た!

だが、空爆なんかに参加したら、国内でもISISに加担する奴も出るだろうし、ISISからも、もっと本格的にテロリストを送り込んで来るだろう!邦人の誘拐は後を絶たなくなるぞ!

それ分かって言ってんだろうな!?」


「だから、12条の改正もするんですよ!日本人でISISに加担するなど許し難い!」


「それは俺もそう思うが、12条のあんたらが作った草案は、条件付きで人権認める法律じゃねえか!そんなの法治国家でも、民主主義国家でもなんでも無え!

好きな様に秘密保護法悪用して、自由に物が言えなくなる国家にしようとしたってそうは行かねえっつーんだ!」


「私の在任中に必ずやりますから!この日本という国を守る為なんですよ!」


「それが空爆なんかに参加したら出来ねえって言ってんだよ!

あんたの言う日本てえのは、特権階級に属して、あんたの味方してくれる人間だけだろうが!日本人浄化計画があんたの本心だろ!

老人や税金の世話になっている人間は要らねえってな!それが12条の草案にはよ〜く表れてるぜ!」


「例えあなたがなんと言おうとも、私は政治生命をかけて、これを成し遂げます!」


竜朗は安藤をギロリと睨むと、仕込み杖に両手をついて顎を乗せ、そのまま安藤を見据えた。

安藤の顔色が悪くなり、冷や汗をかき始める。

それだけ竜朗の迫力は凄まじい。


「ーあんた、本とに、人の反対意見てもんを聞き入れないね。

この間の九州の大地震の時だって、俺だけじゃなく、野党だって原発止めとけって言ってんのに、国策の為だけに止めねえし。

挙句の果てに、大事故にはならなかったが、メルトダウンしちまって、ただでさえ陸路分断されてるってえのに、避難勧告出さなきゃならねえパニック引き起こしちまったじゃねえか。

あんたは、稀に見る頑固というより、ただの馬鹿だな。」


安藤は、今度は真っ赤になって怒り出した。


「失礼な!いくら加納さんでも、言っていい事と悪い事があるんじゃないですか!」


「いや。俺は誰相手でも言いたい事は言う。

じゃあ、俺と全面対決って事でいいのかい。

全部流すぜ?

大鳥居の遺産、イイトコ取りした全部を。」


「かっ…、構いません。私の政治生命など、どうなってもいい。この使命を成し遂げる為なら…。」


安藤のこの一々芝居掛かった言い回しを、軽蔑した目で竜朗が見ている。


「分かった。じゃあ、そうしよう。6月の参院選が楽しみだな。」


竜朗は立ち上がり、ずっと安藤を睨み付けて仁王立ちしていた護衛の夏目と龍介を促し、部屋を出ようとしてピタリと歩を止めた。


「あんた、テロリストとっ捕まえた奴に会いたいと言ってたな。」


「えっ…ええ…。」


「こいつらだよ。だけど、あんたが大嫌いだから会いたくないって言うんで、断った。」


「ーそ…、そうですか…。それが何か。」


「こいつらの気持ちは俺たちの総意だ。あんたの事は守らねえと俺が命令下しても、反旗を翻す奴は1人も居ねえって事だ。覚えといた方がいいかもな。

俺は結構汚え手使うぜ?マジで切れた時だけだけどな。」


「………。」


安藤は言葉を失い、真っ青になっている。


「じゃあな。全面対決と行こうぜ。」




翌日から、安藤は記者会見でも、空爆参加の必要性をアピール。

断固として、テロ組織、ISISと闘うと、声高らかに宣言した。

その為に憲法改正は急務であると強調。

最近は民自党内でも、選挙前は控えておけという風潮だったのだが、安藤は止まらない。

世論は激しく二分し、そこに乗じて、竜朗が一気に大鳥居の遺産を流した。

日本人浄化計画の証拠。

そしてそれに関与していた全員の名前が挙がり、大企業の役員や会長、社長から、国会議員、閣僚までが国家反逆罪で逮捕される事態となった。

竜朗はありとあらゆる手を使って、安藤の圧力を排除してしまったのである。

そして、安藤の関与は匂わせるだけに止めた。

安藤がいくら圧力をかけても、どこの報道機関も、警察、検察組織も言う事を聞かない。

国会議員の逮捕者はうなぎ登りとなり、とうとう、民自党の3分の2が議員剥奪、容疑者となる事態となった。

安藤に助言をしていた憲法を変える会のメンバーも続々と日本人浄化計画の関与の証拠が出て、逮捕され、安藤は丸裸となった。

もう国会も機能しない。

6月の参院選を待たずに、解散総選挙となった時、満を持して、安藤の日本人浄化計画の関与の証拠や、その他の暗殺の指示の証拠を竜朗が出し、遂に安藤も逮捕され、民自党は、野党よりも少ない党員数の、弱小政治団体になってしまった。

安藤がやって来た事と、今回の一連の逮捕で、民自党のイメージは地に堕ちてしまっている。

このままでは野党が圧勝して終わりだ。


「つまなくねえ?爺ちゃん。」


言ってしまった側から夏目の、頭の芯まで響き渡るべっチーンを食らう龍介。


「し、失礼しました…。顧問…。」


龍介は顧問室に呼ばれていた。

別に悪さをした訳でもないし、命令を受けに来た訳でもない。

ただ、お昼ご飯に呼ばれただけなのだが、夏目も一緒なものだから、昼休みと言っても、礼儀にはうるさい夏目のべっチーンが飛んだ訳である。


「達也あ、いいじゃねえかよお…。」


「良かありません。」


「んもう…。まあ置いといて。今夜辺り、面白くなる筈だぜ?」


「今夜辺り?」


夏目がギロリと龍介を見る。

龍介は取って付けた。


「ですか!?」


竜朗は苦笑しながら頷いた。


「龍の同級生の赤松の親父は元赤松総理。その長男と次男は民自党に居て、ずっと安藤に批判的だったし、完全にクリーン。

そしてクリーンでリーダーシップの取れる政治家はもう1人。」


「興梠さん…。」


「そうだ。龍達が双葉の会長の組織に拉致された時に、手助けしてくれた人だよ。」


「自衛隊マニアの…。」


「そ。その3人が動く。まあ、見ててみな。」


「うん…。」


なんとなく楽しみそうな顔の龍介と微笑み合った竜朗は、夏目の弁当箱を見て首を傾げた。


「達也。なんで食わねえんだい。昼休み終わっちまうぞ。」


「いや…。昨日、美雨と喧嘩しまして…。」


「なんで。珍しいな。」


「大した事ではありません。」


「そうかい。でも、だからってなんで食わねえんだい。開けもしねえし。」


「………。」


夏目は黙ってしまい、突然、弁当箱を抱えて立ち上がった。


「矢張り、他所でたべます。」


「ここで食いなって。どうしたんだよ。」


竜朗が止めるが、行ってしまった。


「なんだあ?」


「分かんねえ…。なんだろうね。」


2人で首が折れるのではないかという程捻ったが、さっぱり分からない。




夏目は仮眠室に入り、鍵を掛け、弁当箱を開けると、


「やっぱり…。」


と額に両手を当てて、項垂れた。

夏目の弁当箱には、素晴らしいキャラ弁が入っている。

綺麗なオレンジ色のチキンライスは猫の形に作られており、海苔で可愛い鼻と口と目が付けられ、目は閉じた感じになっている。

ブロッコリーの枕をして、ふわふわ卵が布団の様に掛けてあり、その布団のど真ん中には、でっかく描かれた、ケチャップのハートが…。

それを見守るかの様に、唐揚げは鳥の形に作られ、海苔の点目と人参のくちばしが付いている。

クッキングサイトにアップ出来そうな素晴らしい出来だが、これを今年26になる男の弁当にする辺り。

増して、夏目はこの若さで、第1中隊長という、実質、実働部隊のNo.2の立場である。

それに、鬼だの、閻魔大王だの言われている。

その男にこういう弁当を持たせるというのは、もう、美雨特有の嫌がらせでしかない。


「怒ってんだなあ…。」


この弁当は、美雨の機嫌を直さない限り、永遠に続く。

夏目は美雨に許して貰う方法を考えながら、猫のオムライスを一口、口に入れ、また頭を抱えた。


ー凄え美味いし!なんでこの形なんだよ!


時間も無いので、目を閉じてかき込む夏目。


ーあああ…。帰ったらいの一番に謝ろ…。


心に固く誓って、弁当箱の蓋を閉めた。











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