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13 第二進化

 目を覚ますと金の瞳と目が合う。何だこの状況。息が耳にあたって生ぬるい。何とも言えない気持ちになる。

 私の目を見て、金の瞳は嬉しそうに細められ、呼吸があたるくらいのドアップから髪が顔に触れるくらいのアップになる。つまりは、至近距離にあった顔がちょっと離れたということだ。


 その金の瞳の持ち主は金髪をもち、真っ黒なロングコートに身を包んだ美少年であった。歳は15くらいであろうか。まだ幼さの残る顔立ちをしている。

 そもそもこんなお顔麗しい美少年に見覚えがない。こんな知り合いはいないはずだ。

 私は寝ころんだまま口を動かした。


「誰ですか」

「フォンセに決まっているよね」


 思っていたより低い声で返答するフォン。

 顔を離し、対面のソファに座る彼。まじまじと彼を観察するが、フォンとわかった今ではときめかない。しかし、こっちの世界では随分と成長するんだなーくらいには関心は抱いていた。


 応接間に響くのは私達の声だけではなかった。その声の方向を見ると、応接間の入口で先生とエミューが抱き合っている。エミューは先ほどの人型ではなく、青く点滅する光でしかないので抱きしめているのか謎だが、先生は抱きしめている。多分抱きしめ合っているはずだ。

 非常に滑稽な光景だと私は思う。面倒くさいので放っておくことにした。


「ところで、エミューは解放されたわけでしょ。解放に試練がなかったけどどういうこと?」

「僕がいれば、精霊レベルの試練なら主人の力を借りることでスキップできるよ。精霊王の試練になると無理だけど。もう一回したいなら体験ぐらいはさせてあげられるよ」


 私は首をぶんぶんと横に振った。誰が好きであんなに疲れる行為するものか。 

 にしても、精霊王チートは凄い。試練がスキップできるのはこのうえなく嬉しいことだ。運んでくれたり、チートスキルを発動してくれたりと頑張ってくれた彼に私が感謝の言葉を呟くと、彼は心底嬉しそうに笑った。


 一つ気になることがある。私は目線をあちらこちらに飛ばす。


「どうかした?」

「さっきから黒い服を着て、羽を持った生物がいっぱい見える」


 フォンはあぁともらし、説明してくれた。なんでもあれはこの世界に存在している闇の精霊たちらしい。

 闇の精霊王の主人となったことで闇の精霊が見えるようになったとのことだ。こんなに集まるのも珍しいらしい。私もそうだとは思っていた。常にこんなにわらわらとされては、たまらない。

 闇の精霊は警戒心が強いのであまり人前に出てこないらしいが、精霊王の主人が気になったから見に来たのだろう、じきにおさまると言っていた。


 精霊たちは実体がある。魔力を大地からもらっている野生の精霊でも、摘もうと思えば摘めることには驚いた。触るともちもちしていて気持ちいい。火と水はそうでもないのに。

 対して精霊は私の髪が白いのが珍しいのかじゃれている。精霊にじゃれてもいいと許可する代わりにもちもち肌を堪能させてもらった。

 とろけそうになる。もちもちはとまらない。

 主人の和み切った顔にフォンは微笑んだ。


(姫様! 大丈夫ですか!)


 もちもちを堪能していると、扉から叫び声が聞こえた。水だ。

 火と水は姫の帰りがあまりにも遅くて、先生との対話を危惧していた。そして今、痺れを切らして叫んだのである。

 仕方ない。もちもちはまた今度触らせてもらって、今はとりあえず二人のもとへ帰ろう。


(大丈夫だよー)


 まだきゃいきゃいしているエミューと先生の隣を通って応接間からでる。気付かれていないようだ。

 私が扉を閉めると火と水は突進してきた。私の名前を呼ぶ声はかすかに涙声で、よしよしと頭を撫でてあげる。

 それもつかの間、水はいち早く私の隣にいる青年に気づいた。


「あ、月の精霊か、珍しい。初めまして、主人を守ることになったフォンセだよ」


 火と水の目線に合わせて、中腰になるフォン。主人を守るという言葉に反応して威嚇する火と水。なんだが険悪な雰囲気である。

 せっかくの縁だ。しかもこれから先、精霊王であるフォンには頼ることが多いであろうから、二人にも仲良くしてほしい。二人は私の思いを察したのか威嚇をやめた。


「君たちの名前は?」

(私は水ですわ)

(俺は火)

「精霊の種族じゃなくて、名前」


 二人は首を傾げた。私は焦る。しまった、まだ仮の名前しかつけていない。

 私ののんびりっぷりを理解して、どういうことか察したフォンは冷ややかな目で私を見る。早く決めてやれというサインだ。視線が痛い。

 私は必死に頭を働かせて、前世でしていたオンラインゲームのエリアから名前をとることにした。スールスエリア、すなわち水源エリア。ソレイユクシャンエリア、すなわち夕日エリア。

 この二つを名付けることにした。私はベッドで読書にふけっていた時に読んだある本の一部を思い出す。

 すぅっと息を吸い込んで、魔力を指先に集める。


「我、この魔力において精霊王の導きを得た者に命名する。“命名宣言”」


 指先の魔力が光となって現れる。その光を使って水の前にスールス、火の前にソレイユクシャンと書く。

 無事書き終えると、二人の中に吸い込まれていった。

 ほっとすると、いきなり二人は輝き始めた。


「ちょ。レベル5の命名魔法に、進化ってそんなのありですか…」


 フォンはそう呟いた。どういうことだろう。しかし、我が子のような精霊の進化を見れるのだ。尋ねるより先に見届けなければ。二人はみるみるうちに形を変えていき、やがて二頭の獅子が出現した。

 二頭は見て見てとばかりに主人の足元を駆け回る。スーとソレイユはどんな進化をしたのだろうか。見たところ、50センチくらいの子獅子にみえる。


「しかも、月獅子じゃないですか」

「月獅子?」


 私はフォンはまた呟いたのでそれに反応してみた。妖精王であっても説明が難しいようで、考え込む。

 二頭はじゃれあっている。


「月の精霊には、特別な力が宿っているんだよ。月の精霊の進化先で一番多いのは兎、ついで蟹なんだ。獅子は精霊でも一度しか見たことがない。月獅子となると初めてだよ」


 興味深そうに二頭を眺めるフォン。美少年がやるととても美しい。


「フォンは人型をとけば何になるの?」

「ドラゴンだよ」

3/29 フォンセの話し方がいたいと感じましたので年齢を変更

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