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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第二章 修行
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アナタハ カミヲ シンジマスカ? 4

「一応希望を聞いておくけど、どんな教師がいいのかしら?」

「生徒に合わせた教え方ができる人がいいかと」


 クローディアはホノカを見た。

 あいかわらずびくっと肩を震わせるホノカを見てクローディアは心の中でため息をつく。

 そんなに怯えなくてもいいではないかとちょっと傷ついていたりする。


「それなら問題はないわ。一昨年まで国立の魔法学校の学長を務めていた方にも打診をしているの。もちろん授業もされていたのよ。できればあの方に引き受けていただきたいわ」


 学長なのに教鞭もとっていたのかと驚くアリスとホノカを見てクローディアは満足そうにうなずいた。


「とても立派な方なの」


 クローディアもその魔法学校で教わったらしく、懐かしそうに目を細めていた。


「あのお方なら、きっと聖女様を導いてくださるわ」


 自信たっぷりなクローディアの様子にホノカは嫌な予感を覚えた。


「それからクローディア様には他にもお願いがあるのです」

「何かしら?」

「授業をなくしてほしいのです」


 途端に美しい柳眉が怒りの形に変わる。


「神力を上げることに集中したいのです」


 ホノカが嬉しそうに頬を緩めるのを眺めながらアリスは続ける。


「ですので、クローディア様には魔法の授業の息抜きにお茶でも付き合ってほしいのです」

「ええ~」


 なぜか不満そうにホノカが声を上げ、クローディアの眉がピクリと動く。


「ついでに、貴族社会、歴史、マナーなどを雑談レベルで話していただけないかと」


 だらだらした授業よりも、要点を短い時間で詰め込むほうがホノカにはあっているだろう。

 頭は悪くないが、興味のない事に集中力が働かないタイプなのだ。


「それと、魔法の特訓が始まるまでは今まで通りでお願いします」

「そんなぁ……今日から授業がなくなると思っていたのに……」


 がっかりしているホノカをアリスは呆れたように見た。

 なまじ顔がいいので、この世の終わりかと言わんばかりに悲壮な雰囲気を醸し出している。

 クリス王子辺りが見たら、きっと余計な騎士道精神を発揮してこちらに文句を言ってきそうだ。


「ホノカちゃん、こっちの世界の礼儀作法は覚えておいて損はないよ。前も言ったけど、綺麗な礼儀作法は武器の一つなんだから。ホノカちゃんがそれを手に入れてにっこり微笑めば最強、いや無双状態になること間違いなしっ!」


 何をもって無双なのかはアリスにもわからないが、とりあえず言ってみた。

 ゲーム好きなホノカは無双という響きに心を惹かれたらしく、ちょっと口もとが緩んでいる。

 無双という言葉からどんな夢を広げているのだろうか。


「そうなったらホノカちゃん、女神だ~なんて崇められちゃったりして。ああ、もしそうなったらちゃんと私に相談してね。立派なアイドルとしてプロデュースしてあげる。そしてファンクラブを設立して会員費を徴収して、グッズの販売もいいかも。ああ、水に浄化魔法をかけて聖水として売り出してもいいよね」


 アリスの夢も広がっていく。

 クローディアとリリィはそんな二人のやり取りをちょっと冷めた目で見守っていた。


「貴女は女神を何だとおもっているのですか?」


 呆れたようにクローディアがアリスを現実に引き戻す。


「古今東西、宗教ってのは金もぅ……オホン、尊くも心の支えとなる存在です」


 しらじらしさにクローディアは呆れるしかない。


「とんだ業突く張りですわね。貴女が一番、神を信じていないのではなくて?」

「アリス姉さん、さすがに罰当たりです……」

「商いの神様は健全な商売をしている限り罰は与えたりしないのよっ、何しろ合理的な神様なんだから」


 無駄な力説に全員が呆れる。


「……その容姿、頭のよさでなぜ身辺調査で浮いた話が一つも出てこなかったのか、わかるような気がしますわ」


 クローディアの会心の一撃にアリスは撃沈した。


「ふっ、ふふ、どうせ誰も私に見合い話なんて持ってこなかったわよ。商会ギルドの人たちだって縁談の一つや二つ持ってきてもいいのに……」


 普通ならば稼ぎ頭であるアリスを自分の一族に取り込もうと息子や血族の人間の一人や二人にアリスを口説けと命令するはずである。

 もしくは正攻法にお見合いという手段もある。

 が、すがすがしいまでに彼らはアリスに何もしてこなかった。


「いいのよ、私……仕事が恋人だもの。将来は仕事と結婚するの。ええ、ええ、そうよ、商会を大きくして片っ端から買収して、そして彼らを支配下に置いて君臨するのよ、私は経済界の女王になるの、うふふふふ……」

「あああっ、アリス姉さんがダークサイドに落ちていくーっ、しっかりしてアリス姉さんーっ!」


 うっかり地雷を踏んでしまったクローディアはなすすべもなくオロオロとしていると、リリィがちょっと気の毒そうな顔で首を横に振った。


「そっとしておきましょう……」

「そ、そうね……」


 クローディアとリリィはそっと二人から離れてお茶の準備を始めた。


「愛の女神さまにお布施しようかな……」

「アリス姉さん……乙女の祈りからほど遠いです……」



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