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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第二章 修行
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アナタハ カミヲ シンジマスカ? 3

 王子の執務室を出ると、侍女のリリィが待っていた。

 頭を下げられ、アリスとホノカもあわてて頭を下げる。


「ご用はもうよろしいのでしょうか?」


 目線が執務室に向けられた。


「はい。大丈夫です」

「では、お嬢様がお待ちですので、ご案内いたします」


 リリィの後ろをついて行きながら、アリスは小声でホノカに確認する。


「クローディア様にも同じ話をするからね。わかっている?」

「うん、大丈夫!余計な事は言わない、だよね」


 入念に打ち合わせをしたのだからとホノカは自信たっぷりだ。

 フェルナンの追求が思ったより深くなかったのは正直助かったが、なぜ大丈夫だったのかはいまいちわかっていない。

 ホノカの美しさに彼らは惑わされてしまったのだ。

 しかし今度は同じ女性、ホノカの魅力が通じるとは思えない。

 だがアリスはこの言葉を口にしなければならない。


「貴女は神を信じますか?」


 宗教を語る詐欺師になった気分だ

 自分が逆の立場だったら、頭がおかしいと思うだろう。


「……ごめんなさい、今、なんておっしゃったの?」


 クローディアはもとより、そばで聞いているリリィも変な顔をしていた。

 彼女たちの気持ちはものすごくよくわかる。

 よくわかるが、これを言わなければはじまらない。


「神様を信じていますか?」

「ええ。私は創造神を信仰しているわ」

「ちなみに私は商いの神様です」

「でしょうね」


 ちょっと冷ややかなトーンでクローディアが答える。


「実は昨日お手紙でお願いした件に繋がっているのです」


 昨日、アリスはクローディアに手紙を出した。

 ジャックに代わる教師の件だ。

 教師の才能が高い人材を大至急、探してほしいという旨を書いた。


「いきなりの話で驚きましたが、貴女の考えは理解できます」


 ふっとクロ―ディアの眼差しが柔らかくなった。


「優秀な魔法使いが優秀な教師とは限らない。ましてやあの血塗れの魔法使いですものね」


 色々と間違っているジャックのように聖女がなったと想像すると怖いものがある。

 ホノカは知らないが、アリスの手紙はそういう想像を掻き立てるような文面だった。


 接近戦を好む血塗れの魔法使いの弟子ともなれば、やはり己の拳を武器に魔王を封印するのだろうか。

 やはり二つ名は血塗れの聖女とか、殺戮の聖女といった殺伐とした名前になるのだろうか。

 のほほんとしたホノカからは想像もできない。


 アリスの読み通り、クローディアは手紙を読んで戦慄した。


「すでに候補は絞ってあります。面談の手はずも整えました」


 その日のうちに優秀な教師をピックアップし、口が堅く実績のある者を選んで手紙を出している。

 ありえないほど迅速な対応にアリスのほうがびっくりだ。

 昨日の今日でもうそこまで話をつけているのかとアリスは感心した。

 フェルナンではないが、部下に欲しい逸材だ。


「昨日、ホノカちゃんと色々な事を話し合いました」


 ホノカはクローディアの方を見ながらこくりと頷いた。

 きちんと目を合わせるようにクローディアのほうに顔を向けている。

 やはり二日目に無理やりクローディアを泊まらせた甲斐があったのだろう。

 同じ空間で同じ食事をし、似たような苦労をする。

 一生懸命に頑張るクローディアの姿に、彼女が口だけの人間ではないのだとホノカもわかったようだ。

 クローディアもホノカの境遇について改めて考えたらしく、接し方が柔らかくなっている。

 この関係を崩さないように、慎重にアリスは口を開いた。


「召喚された直後、ホノカちゃんは神託を受けていました」

「なんですって?」


 じろりと睨まれたホノカは首をすくめて縮こまり、それに気が付いたクローディアは慌てて睨むのをやめた。


「それが神の言葉なのか、聖女様の未来を見通す力なのかはわかりませんが、半年後に何者かが封印を汚すと……」

「半年後?待って、召喚直後にそう言われたのなら、あと三か月しかないではないですか」


 クローディアの言葉に重々しくアリスは頷いた。


「はい。そこでホノカちゃん自身が自分の神力に不安を覚えています。今のままでは三か月後に封印が弱まった場合、失敗する恐れがあります」


 クリス王子達の時とは違い、アリスは不安を煽った。


「ジャック様は、魔法は優秀ですが、教え方という一点で教師に比べると劣ります。一年後ならばともかく、三か月後となると間に合わないのです」

「なんですって……」


 それは由々しき問題だ。


「アストゥル様とクリス王子には先ほど、同じ内容をお伝えいたしました。そのうえで、聖女の神力をアップすることをこれからは最優先にすることが決まりました」

「そうね、当然だわ」


 三か月後に何もなければそれでいいが、何かあってからでは遅いのだ。

 それはクローディアにもわかった。

 なぜもっと早く神託の事を言わなかったのだと詰りたいが、言えなかった、言わせなかったのだと今ならわかる。

 それに、言われたとしてもはたして信じたかどうか。

 ホノカの葛藤は想像がついた。


「そうなると、教師の選定が重要になってきます」

「それよりもアリス、一つ聞きたいわ。なぜフェルナン様ではなく、私に教師の選定を頼んできたのですか?」

「政務関係ならアストゥル様にお願いしましたけど、教師ですから。それにホノカちゃんは女の子ですしね。優秀な教師の心当たりはクローディア様のほうがご存知ではないかと思いまして」


 どんなに優秀な教師でもロリコンは困るし、男女差別の激しい人間も困る。

 そして優秀な人間ほど己の性癖を隠すのがうまいので、通り一遍の身辺調査では洗い出せない。

 その点、人となりは女性の方が厳しい目をもっているし噂話で情報を共有できる女性の方が意外とその人の本質を見抜いていたりするのだ。

 公爵令嬢となればそういった人となりの情報は耳に入ってきやすい。

 アリスはそう説明すると、クローディアは納得したように頷いた。


「わかりました。貴女の期待に応えましょう」

「ありがとうございます」


 恭しく礼を取るアリスを見るクローディアの口元は微かにだが緩んでいた。



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