七日に一度は悪巧み 1
「今から町に遊びに行くだと?」
ジャックがじろりとホノカを見た。
眼鏡が光を弾いた瞬間、ホノカは逃げるようにアリスの後ろに隠れる。
その素早さに感心するしかない。
「いいんじゃねーの」
「えっ、いいの?」
驚いてホノカはアリスの後ろから顔を出した。
どう言いくるめようかと考えていたアリスも拍子抜けだ。
「ああ。念のため、監視はつくけどな」
「ジャック、話が分かる!」
「黙れ。言っておくが、僕はお前らには付き合わない。女の買い物ほど面倒くさいものはないからな」
「ああ、うん、期待してない」
ホノカの言葉にジャックは心底安堵したように頷いた。
女の買い物に何か苦い思い出でもあるのだろうか。
「それはよかった。アリス、行先を書き出せ。それ以外の場所は絶対に寄るな。予定外の動きをした場合、次はないと思え」
最後のセリフはじろりとアリスを睨みながら口にした。
淡々とした口調にはまぎれもない本気が混じっている。
面倒ごとは嫌いだが、逆を言えば面倒をかけなければ何をしていても構わないというのがジャックのスタンスだ。
そして迷惑をかけたが最後、ジャックは二度と外出は許さないだろう。
「はいはい。私のテリトリーしか案内しないから大丈夫」
「テリトリー、ねぇ……」
思わせぶりなジャックのつぶやきにアリスが気づく。
「何か?」
「いや。お前のバックに何が付いていようとも、油断は禁物だ。同じ闇でも、不健全で質が悪いのが狙っていることを忘れるな」
ジャックの警告にホノカが頬を引きつらせる。
邪教集団、秘密結社、敵対貴族に宗教の闇。
思い当たる節がありすぎて頭が痛くなったので、ホノカは考えるのをやめた。
生粋の日本人であるホノカに危機管理なんて言葉は他人事なのだ。
そんなホノカの隣でアリスが胸を張ってジャックを見上げる。
「お天道様が見ている限り、私のテリトリーでやんちゃなんてさせないわ」
「お、おう……」
「アリス姉さん、カッコいいです……」
自信たっぷりなアリスに気圧されるジャック。
「ホノカ、お前はこいつをつけておけ」
ジャックはポケットから無造作に丸まったハンカチを取り出した。
反射的に後ろに下がるホノカとアリス。
何日も洗ってなさそうなハンカチに恐れをなしたのだ。
それに気づかずジャックはテーブルの上でハンカチを広げた。
銀色の何の変哲もない指輪と赤いリボンが置いてある。
「こっちのリボンは場所を特定するものだから、外されないように髪にでも編み込め。それと、こっちの指輪だ。手を貸せ」
ジャックはホノカの左手をつかむと、指輪を手首に近づけた。
薄く光ったかと思った次の瞬間、銀の腕輪が手首にあった。
「えっ、えっ、どうなってるの?」
「魔法だ。こいつが外れた瞬間、お前は僕のところへ転移する仕組みになっている。いいか、そいつが使えるのは一度きりだ。命の危険を感じた時にだけ外せ」
ものすごく真剣な顔でジャックはホノカに言い聞かせる。
「いいな。お前が命の危険を感じた時だ」
ジャックの迫力にこくこくと頷くホノカ。
「こいつを作るのに三か月かかったんだ。こいつにかけた僕の貴重な時間と労力を無駄にしたらただじゃおかないからな」
「ははははいっ!心得ましたぁっ!」
ビシッ、と敬礼を決めるホノカを胡乱なまなざしでみるジャック。
限りなく不安だ。
「アリス、常に狙われているという事を忘れるなよ」
「はい」
逆らったらいけない雰囲気がそこにあった。
急いで今日の予定を紙に書いていく。
市場、本屋、カフェなどを書き込む。
ご丁寧に順番も書き、それをジャックに見せると満足そうにうなずいていた。
「僕はこいつを護衛する奴らに渡してくる。出かけるのなら一時間を過ぎてからな」
その一時間、護衛の人たちは大わらわだろう。
それでもアリスはホノカを軟禁するつもりはない。
自分が救おうとしている世界がゲームという価値観の中ではなく、現実に生きて生活している人々がいるということをホノカに分かってほしい。
失敗すれば言葉を交わした人たちが死ぬんだという事をきちんとわかってほしい。
ホノカからすればあくまでもゲームの世界だが、アリスにとっては生まれ育った場所。
好きになってくれたらと思った。
「さぁ、出かける支度をしましょ!」
「はいっ!」
笑顔のホノカを見て、しょうがないなぁという顔をジャックがしていたことにアリスは気が付いていた。
UP直後に直しが……。
アリスとホノカを間違えたーっ!
リボンも腕輪も両方、ホノカが装着です。
ご指摘ありがとうございますっ!速攻でなおしておきました。
ほかの方もおや?と思ったら教えてください。
(えっ、他力本願だなんてそんな事はあったりなかったり……)




