表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブでいいよ  作者: ふにねこ
第三章 封印巡り
169/202

祝賀パーティー 1



 祝賀パーティー前日から城に泊まってガールズトークにパジャマパーティー。

 なんてのんきに思っていたのは城に到着するまで。


 最初に宰相を含めたお偉い方々と面会し、褒賞についての話し合い。

 それが終わると真昼間から風呂。

 そして寄ってたかって磨かれたあとはマッサージ地獄が待っていた。


 右隣を見ればクローディアが楽しそうな顔で。

 左隣を見ればホノカが死んだ魚の目をして。

 自分も目のハイライトが消えているのだろうと思いながらされるがままに全身マッサージとお肌のお手入れをされた。

 途中でクローディアが何やら浮かれた様子で話していたが、アリスとホノカはそれどころではなく、何を話していたのか全く覚えていない。

 夕食は美容に絶大な効果があるとされているメニューだった。


「肉が食いたい……」


 ぼそりとホノカが呟くと、アリスもこくりと頷いた。

 食事が終わると明日のために備えて早々にベッドに追いやられたアリス。


「……何しにここへ来たんだろう」


 そう思いながら眠りについた。








 祝賀パーティーとはいえ、スケジュールは厳しい。

 午前中は再び美の追求。

 午後はパレードで、王都の中を馬車に乗って練り歩き、戻ってきたらドレスに着替えて封印に関する報告会に出席し、各国の王族やら大使や高位貴族が見守る中、クリス王子による成功の報告、そして王様からねぎらってもらって褒賞の話がここで周知される。

 もちろんここで聖女の入れ替えが公表され、王太子の愛人候補が実は聖女だったということが暴露され、聖女役はただの平民だったという一部の貴族や城で働く者達が蒼白になっていた。

 聖女役の女性がただの平民だと知れた時点で突き刺さるまなざしにアリスは苦笑する。

 勝手に媚びをうっておきながら恨むなどお門違いにもほどがある。




 そこからまたドレスに着替えて祝賀パーティと言う名の夜会に出席。

 ドレスを着つけてもらいながら、晩餐会ではなく立食式の夜会であることに内心はほっとしていた。

 城の料理人が気合を入れて作る料理を食べられるのもこれが最後かと思うと、しっかりと味わい尽くさねばという変な気合がわいてきた。

 光沢のあるシャンパンゴールドを基調にし、白いレースを重ねたシンプルだが上品な逸品だ。


「うわぁ、アリス姉さん、大人っぽいですね!」

「……大人なんだけどね」


 この世界でも、日本基準でも、アリスは成人女性である。

 ホノカは白を基調にした若い子らしくふわふわしたドレスだった。

 ダンスで回ると綺麗にスカートが広がる、若いころにしか着られないようなドレスで、アリスは眼福とばかりに目を細めてにやけてしまった。

 大人というよりはただのおっさんである。


「用意ができましたら、移動しますわよ」


 上品だがゴージャスなドレスに身を包んだクローディアが二人の元へやってきた。

 常日頃から美人だと思っていたが、美人が気合を入れて磨いて飾り立てるととんでもない仕上がりになるのだと二人は感心した。

 当然、ホノカも元がいいので更に増し増しの美しさなのだが、素の性格がそれを台無しにしているのが残念で仕方ない。

 パーティー会場の特別な入り口にはすでに王族の方々が高貴なるオーラを放ちながら出番を待っている。


「聖女様方がいらっしゃいました」


 侍従の言葉に視線が一斉にこちらを向く。


「クローディア、ご苦労だったな」


 王太子の言葉にクローディアはうっすらと頬を染めながら小さく頷く。

 恋する乙女のオーラに胸がキュンキュンしそうだ。


「ホノカ、とても綺麗だ……」


 クリス王子がホノカの前に立ち、うっとりと聖女に見惚れる。

 そしてフェルがアリスの前に進み出た。


「思った以上によく似合っているね」


 国一番の伊達男は黒い燕尾服を着ていた。


「……正装した姿を初めて見たけれど、とても素敵ね」


 改めて、住む世界が違うと思った。

 上流階級にいてこそ輝くのではないかと。


「今夜はいい思い出になりそうだわ」


 そういいながら胸の奥が冷たくなり、その反動でテンションが高くなるのがわかる。

 最後になるのだから、存分に堪能しなければもったいない。

 最上級のドレスに身を包み、王族の主催する夜会に出席し、上流階級だけが知る世界に紛れ込み、二度と口にすることのないお城の料理に舌鼓。

 パートナーはこれ以上ない物件で、それこそ物語のような場面だ。


 差し出される手をとり、視線をかわす。

 込められた熱に肌が火照るほどに心が冷えていく。

 この時ほど大人である自分が嫌になったことはない。


 今しか見えないお子様ならば、身も心も熱に身を委ねられただろう。

 現実しか見えない大人ならば、本来あるべき己の居場所と比べてしまい、身の程を知るが故に今しか楽しめないだろう。

 未来がない恋にすべてを捧げられるほどの情熱は、大人にはないのだ。


「君をエスコートできるなんて、嬉しいよ」


 率直な言葉に心が熱くなる。


「私も、フェルがパートナーで嬉しいわ」

「君とのダンスをずっと楽しみにしていたんだ」

「……最初に踊るのよね?」


 おそれおおくも、王族と一緒に一番に踊るという栄誉。

 はっきりいってそんな栄誉はいらないし腹の足しにもならないが、これも仕事だと割り切ってやるしかない。

 できれば料理を堪能しながら麗しい王子様とお姫様や聖女が踊る姿を見たかったが。


「緊張している?私がいるから何の心配もないよ。一番の問題は……」


 フェルはいつにもまして美しいアリスに目を見張り、こまったようにほほ笑んだ。


「勇敢でいて上品、美しくて理知的、今を時めく甘味スイーツの立役者……周りが放っておかないだろう。踊り終わった後は、人が殺到するだろうから私から絶対に離れないように」

「ご令嬢の視線で殺されないかしら?」

「どうかな……」


 数多のご令嬢の視線がはたして届くかどうか。

 むさくるしいおっさん貴族に囲まれて周りが見えない状況しか想像ができない。

 アリスはただの若く美しい女性ではない。

 そこには王家に恩を売り、聖女に恩を売り、成功した大商人の娘という色々と美味しい付加価値が付いているのだ。

 後妻に愛人に、あるいは息子の婿入り先にと取り入り合戦が待ち構えている。

 アリスを手に入れればドット商会の未来を手に入れたも同然。


「君の事は私が守るから、安心してパーティー料理を楽しむといい」


 食べている間に話しかけるのはマナー違反だ。


「……人を食いしん坊さんのように言わないで頂戴」


 むっとして反論するが、ホノカと一緒に料理を食べる姿が簡単に想像できてアリスは口を閉ざした。

 とても残念な聖女とその影武者である。



前回の「違う話を投稿しちゃった」というやらかし、指摘してくださった方々、ありがとう、ありがとう、そして美容に悪いから早く寝ようね。早起きで指摘くださった方もありがとうございました。

というわけで、感謝を込めて今回は続けて投稿!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ