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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第三章 封印巡り
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瑪瑙の騎士団では

 王都の守護の片翼を担う瑪瑙の騎士団。

 ドラリーニョが任されている仕事は主に城内の警備だ。

 もちろん城の警備は兵士が担当しているが、警備の兵士は所定の場所を動くことはない。

 騎士はペアで巡回しつつ警備の兵士たちがきちんと仕事をしているかチェックをいれる。


「あ~あ、面倒な事になっちまったなぁ」


 朝っぱらから瑪瑙の騎士達は訓練場に集められ、愛妾候補がさらわれたこと、巡回中のザーデが殺され相棒のドラリーニョが行方不明だという事を知らされた。

 瑪瑙の騎士団長の横には将軍の一人、ガイガー伯爵が立っている。


「ヘンリー、声を落とせ」

「大丈夫だって。バレるようなへまはしない」


 ほとんど口を動かさずに話しながらヘンリーは隣にいる騎士にウインクをして見せた。

 団長の事情説明、将軍の訓示、副団長による今後の方針。

 それが終わると各班ごとに分かれて割り振られた仕事の説明。

 ヘンリーの小隊は主に城下の巡回だったので、通常業務のほかにドラリーニョの捜索という任務が与えられた。


「ドラリーニョって、愛妾候補となんだかんだ言って仲良かったよな」


 ホノカの事を思い出しながらヘンリーが言うと、相棒は思い出したように頷いた。


「めちゃくちゃ美少女の!」

「そうそう」

「お前も面識あったよな?」


 あの時、紹介してくれなかったことを思いだしたのかジトっとした目でヘンリーを見る。


「おう。俺の幼馴染が愛妾候補の侍女だったからな」


 当時の事を思い出したヘンリーは顔をしかめた。


「あの侍女の屍を越えられるんなら紹介してやれたんだけどな、あはは」


 食堂の騒ぎを思い出してヘンリーは遠い目をした。

 相棒はその騒ぎを見ていなかったが、武勇伝は聞いている。


「戦闘狂のグリマルディ小隊長とサシでやれる侍女って……無理だろ」

「だよなぁ……」


 黙っていれば美人の部類に入るアリスの事を思い出しながらヘンリーは小さく笑った。


「それよりドラリーニョの捜索って何すんだ?」

「目撃情報をとにかく集めろってさ。貴族街ならともかく、下町にあのお貴族様が来るとは思えないけどな」

「だよなぁ。んじゃ、巡回に行くか」

「おう」






 昼食を下町の料理屋で食べた後、ヘンリーたちは瑪瑙騎士団の詰め所に戻った。

 いつもならリラックスした空気の中で雑談している仲間が、緊張した空気の中でじっとしている様子に驚いた。


「ヘンリー、ザックスの二名、ただいま巡回から戻りました。報告することはありません」


 騒ぎもなければ目撃情報もなかった。

 小隊長に報告をすませると、小隊長は小さくため息をついた。


「ごくろう。お前たちが最後だ」


 小隊長が立ち上がり、ヘンリーたちは空いている席に腰を下ろす。


「午前中の捜索で手掛かりが見つかった」


 なんだそりゃ、とヘンリーは思った。


「いくらなんでも早すぎねぇか?」


 小さなつぶやきは幸い誰にも聞かれなかった。

 騎士の一人が殺され、女性が城から攫われ、騎士の一人が行方不明。

 それだけ聞くと行方不明の騎士が相棒を殺して女性を城から誘拐したと思われる。

 しかしドラリーニョを知っている瑪瑙の騎士団からすれば違和感しかない。

 貴族の矜持を変にこじらせている彼が女性を誘拐することがまず信じられない。

 誘拐するほど好きだったら、王太子に手袋を投げつけるぐらいのことはするのがドラリーニョという男なのだ。

 相棒を殺して女性をさらうくらいならば、わざと相棒に殺されるほうを選ぶ。

 ドラリーニョという男を知っているものほど今回の事件は違和感しかなかった。


「ドラリーニョの私物を持っていた男が東区のスラム街で発見された」

「スラム街、ですか?」


 貴族出身の彼が絶対に行かない場所だ。

 他の者達も首をかしげている。


「上は、東区にある破壊の神をまつる寂れた教会に着目している。我が小隊からも数人、午後からの捜索に参加することになった。これから名を呼ぶものは参加組だ」


 ヘンリーの名前も呼ばれ、相棒から肩を叩かれて慰められた。








 半日かけてヘンリーたちは寂れた教会を隅から隅まで捜索した。

 結果、隠し部屋もなく精査した書類はこの教会が貧乏ながらも粛々と運営している事実だけだった。

 教会を取り仕切る司祭と二人の修道女も徹底的に調べたが、素朴な人柄で地域の人たちに慕われているという事と、司祭と二人の修道女の趣味が筋肉を鍛える事だというどうでもいい情報しかつかめなかった。


「俺たち、何やってんだろう……」


 同僚の呟きにヘンリーを含めた周りの者達も頷いて同意するくらいに徒労に終わった。


「つーか、教会の捜索にこの人数をさくっておかしくねーか?」

「だよな。俺たちの班だけで充分なのに、他の小隊と混成って妙だよな」

「ついでに連携の練習も兼ねてんじゃね?」


 通常、仕事の割り振りは小隊ごとで違う。

 非常時の防衛でもそれは同じで、違う小隊の班とまるごと混成はあっても少人数の抜擢による混成はなかったことだ。

 そのせいか連絡に齟齬が出て現場は若干、混乱気味だ。

 別の小隊の班長がリーダーとして指示を出していたが、同じ場所を二回捜索したり、聞き込みでばったり別のグループと鉢合わせをしたりと無駄が多かった。


「それにしてはおかしくねーか?混成だとしても、班単位だろ。他の奴に聞いたんだけど、同じ小隊でも班が別とか、バラバラに招集されているみたいだぜ」

「他の奴らも戸惑ってたな」

「上は何考えてこの人選なんだろーな」


 上層部の思惑がどうあれ、現場の混乱は事実だ。

 拭いきれない違和感に、ヘンリーは上層部の思惑を探るためにアリスと連絡を取ろうと考えた。





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