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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第三章 封印巡り
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人違い2

 商人はこちらをひどく気にしていたようだが、一行が出発する前に王都の方へ出立していった。

 それを見送ってから出発となった。

 それからは何事もなく教会につき、神父の出迎えを受けると挨拶もそこそこに封印の儀式に入った。


「オル、ようやく話せた!」


 ホノカは笑顔で先に中にいたオルに声をかけた。


「聖女様方もご無事で安心いたしました」


 爽やかな笑顔にホノカはご満悦だ。


「いやぁ、やっぱりスポーツ爽やか系は絶対に外せないよね、アリス姉さん」

「何から外せないのかは聞かないけれど、私をそっち側の人認定しないでちょうだい」

「ええ~つれないなぁ」

「そのまま海に放流しておいて」


 ノリだけの会話にジャックとクリス王子が呆れている。

 フェルは関係者以外を教会から追い出すために席を外している。


「やっぱりこのメンツはほっとするなぁ」


 そのメンツから逃げ出したのは誰だ、とはさすがにアリスも言わなかった。

 聖騎士の一件が終わったからといって次の襲撃がないとは言いきれないのだから。


「今度は決して貴女から離れません」

「俺の視界からいなくなるなよ」


 言葉だけなら情熱的だが、彼らの中にあるのは使命感だけなのでホノカは安心する。

 二人の言葉を聞きながら、アリスはちょっと怖いとか思っていたのは内緒だ。

 あの二人なら平気でトイレの中までついてきそうだし、それを気にしなさそうだ。

 絶世の美少女相手にすごい感覚だと思わなくもないが。


「それでは始めよう。アリス、手はず通りに頼む」

「お任せください、王子」


 クリス王子が外からドアを閉め、そしてアリスが中からカギをかける。

 しばらくすると、外からコンと一度だけ音がした。


「人払いが終わったと合図がありました。聖女様、儀式を始めてください」


 アリスが声をかける。


「わかりました」


 公私をちゃんと分けるために、仕事中はお互いに敬語でと決めている。

 その方が意識の切り替えができて集中しやすい。

 ホノカは教会の中央に立ち、学問の神様の像を見上げ、それから膝をついて祈り始めた。


 前回と同じくオルベルトとジャックは聖女を守るべく警戒。

 アリスは扉に寄り掛かりながら外に異変はないか耳を澄ます。

 そしてホノカの体が光を帯びるのと同時に床が光り、文様を描く。

 前回とは違う文様に見惚れながらアリスは注意深くホノカの様子を観察していた。

 前回のように異変があるかもしれない。

 緊張しつつも何も起きないことに拍子抜けもしていた。


(あれはきっと愛の神様だったから奮発したのね)


 聖女の純粋な愛の祈りに応えただけだ。

 そしてアリスはそれを乗り切った。

 今回は学問の神様だから恋愛の願いなどに耳は傾けないだろう。

 たとえそれが純粋な祈りであろうとも、叶えることはないはずだ。

 そう考えると気分が落ち着く。

 何もない、おびえることはないのだと。


「終わりました」


 ホノカの声に警護の二人は気を抜くことなく立っている。


「では、外に伝えます」


 あらかじめ決められた数だけノックすると、同じようにノックが返ってきた。

 それを聞いてからアリスはカギを外し、ドアから下がってホノカのそばに立つ。

 ドアが開いてクリス王子が姿を見せた。


「儀式の成功、お慶び申し上げます」


 クリス王子は優雅にお辞儀をする。


「では、まいりましょう」


 アリスが声をかけ、歩き出した。

 礼拝堂を出ると騎士達が並んで立っている。

 その先に、教会関係者を従えてフェルが立っていた。

 クリス王子が先導し、アリス、ホノカ、オルベルト、ジャックと続く。


「聖女様、お勤めご苦労様でございます。お疲れでしょう、お茶の用意を……」


 司祭らしい男が聖女一行をお茶に誘とうとしたその時、教会の裏手で大きな爆発があった。


「きゃあっ!」


 ホノカが思わず耳を抑えてうずくまる。

 アリスも音のした方を仰ぎ見た。

 もうもうと白い煙が立ち上っている中に、オレンジ色の輝きがあった。


「燃えたか?」


 同じように仰ぎ見たクリス王子がぼそりと呟く。


「襲撃にしてはおかしいな」


 人の気配がしないことに王子はいぶかしげな顔をする。

 すると、今度は教会関係者が寝起きしている棟で大きな爆発音が聞こえた。


「ひゃぁぁぁぁ、なになに、今度は何!」


 パニック状態になったホノカがアリスにしがみつく。


「落ち着いて。こういう時はジャックにしがみつきなさい」

「なんで僕っ!」

「だってオルベルトもクリス王子も剣を使うじゃない」


 そしてアリスは拳を使う。

 ぐっ、とジャックが押し黙った。

 ふふん、とアリスは鼻で笑う。


「近接じゃなくても魔法は使えるでしょ」


 とどめとばかりにアリスが言い放つと、ジャックは仕方なさそうにホノカに腕を出しだした。


「掴まれ」

「ほら、ホノカちゃん、こっちの方が安全よ」


 アリスは自分の腕に絡みついていた手をほどくと無理やりジャックに押し付けた。


「ううっ、アリス姉さんが冷たいです~」

「馬鹿言ってないで離れるなよ」


 ジャックの真面目な声にホノカはこくりと頷いた。

 ようやく動けるようになったアリスは内心、やる気満々である。

 袖に隠されてはいるが、ぎゅっと握られた拳がそれを物語っていた。


 敷地の外では大騒ぎになっているらしく、大声があちこちから聞こえる。

 再び、どこかで爆発があった。

 煙がどこからか流れてくる。

 それから続けざまに五回、爆音が鳴り響く。


「まずいな……徐々に封鎖されている」

「どういうことだ、オルベルト」

「外側から順々に爆破されて、逃げ道を封鎖しているようです」

「閉じ込められたという事か」


 察したクリス王子は忌々し気に空を仰ぎ見る。

 ゆっくりと煙が空を覆っていく。


「何者の仕業かはわからないが、剣の音がしないな」


 クリス王子はジャックの方を見た。


「魔法による襲撃でしょう。離れた位置からか、紛れているのかはわからない」


 話している間もどこからか爆音が聞こえ続ける。

 しかもその音は徐々に近づいているような気がした。


「建物ごと聖女を爆破か」

「ジャック、冷静に分析している暇があるなら逃げ出す算段をつけなさいよーっ」

「お前は馬鹿か。こういう時こそ冷静ならなくてどうする」


 至極ごもっともな意見にホノカは黙って睨みつけるしかできなかった。


「この場にいても爆発に巻き込まれるだけだ」


 ジャックは王子に視線を向け、どうするのか判断を迫った。


「あ、あのう、よろしいでしょうか……」


 司祭の一人がおずおずと王子に話しかけてきた。


「なんだ?」

「実は、非常用の脱出口があるのですが……」


 話を聞くと、この教会には重要な書物が地下に収められており、火災が発生した場合、状況に応じてそこから本を持ち出せるようになっているらしい。

 そこを利用すれば敷地の外に出られると聞いた王子はすぐにそこを使う事に決めた。

 ところどころ火の手が上がっているし、煙も濃くなってきた。

 この場にいては煙に巻き込まれて死ぬだけだ。


「騎士に先行させろ。それから我々が行く」

「では私が騎士様たちをご案内いたします」

「それでは私が聖女様たちを」


 王子の指示を聞いて司祭たちもすぐに行動を起こす。


「ホノカちゃん、行くよ。強い味方がいるから大丈夫」


 一騎当千の護衛に囲まれているのだ。

 たとえ敵に囲まれてもなんとかなるという自信がアリスにはあった。


「聖女様、こちらへ!」


 司祭の一人に案内されて建物の中に入った。

 うっすらと煙が立ち込め、何かが燃えている匂いもしていた。


「早く、こちらでございます!」


 追い立てられるようにアリスたちは司祭の後に続き、階段を駆け下りて地下に向かう。


「こちらでございます!」


 案内された場所は書庫のようで、古書の匂いが充満している。


「騎士の方々は先に出ているはず。こちらへ!」


 飾り暖炉の一部を押すと、ガタンと音がしてさらに下へ続く階段が見えた。


「中は薄暗いのでこれを」


 光る魔石が中に入ったカンテラを二つ取り出した司祭は、一つをアリスに、一つをホノカに渡した。


「足元に十分注意をしてください。道は一本で、出口の近くには階段があります」


 司祭の先導でフェル、アリス、クリス王子、ホノカ、ジャック、オルベルトの順で中に入った。

 そして細長い道を一列で歩き、すぐに階段の前につく。


「この上が出口になっております」


 司祭は階段の手前で立ち止まり、出口を指さした。


「外に先行した騎士がいるはずだ」


 クリス王子の言葉にフェルが頷き、階段を上りだす。

 アリスもそれに続いた。

 そして三番手のクリス王子が階段を上ろうと足をかけた時、爆発が起きた。


「危ないっ!」


 司祭が王子の服を引っ張ったおかげで上から崩れてきた土砂の下敷きにはならずに済んだが、完全に分断されてしまった。


「フェル!聞こえるか?」


 ジャックが叫んだが、返事はない。


「思ったより崩れた範囲が広いのか?」

「二人は大丈夫かなぁ」

「大丈夫ですよ。フェルはともかく、彼女は運動神経がいいですから」


 オルベルトの太鼓判にホノカは無理やり自分を納得させ、心を落ち着かせる。


「向こうの心配よりこっちの心配だろう」


 クリス王子は忌々し気に立ち上がる。


「別の脱出口はないのか?」

「立てこもるのでしたら、書庫が一番安全です」


 もともと火事からまもるための保管場所なのだ。


「わかった。そちらへいったん戻ろう」


 彼らは書庫に引き返すことになった。






「びっくりした……」

「ケガは?」

「ないわ。ギリギリ避けたから」


 もう少し遅かったら、巻き込まれていたかもしれないが。


「とにかく一度外に出て、騎士達と合流しよう」


 土砂をどけるにも人手が必要だ。

 二人は階段を駆け上がり、ドアを開けた。


「お待ちしておりました、聖女様」


 そういって恭しくお辞儀をした男の背後には、フードを深くかぶった集団が控えていた。




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