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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第三章 封印巡り
111/202

出発

「最初の教会はね、愛の神様なんですよ~」


 馬車の中でホノカはうきうきしながらアリスを見た。


「アリス姉さんのこと、祈っておきます!」


 馬車の中は二人だけなのでホノカはくつろいだ様子だ。

 緊張した様子もないので逆に心配になってくる。


「なんかテンション高いわね」

「ふふふ。ここでアリス姉さんの恋を祈ったらどうなるのかと思って」


 嫌な予感しかしないのはなぜだろうか。


「特定の誰かとくっついてほしいとか思っていないでしょうね?」

「幸せになってほしいとは思っているけど、そこはほら、アリス姉さんの気持ちが第一でしょ」


 アリスの気持ちをまっていたら一生結婚できなそうだなんて口が裂けても言えないが。

 他力本願であっても、アリスの幸せを望む気持ちは本物だ。

 だからゲームの強制力のすり替えが本当にできるなら、攻略対象と恋に落ちる聖女役をアリスに譲る気満々なのだ。


「アリス姉さん、本当に好きな人、いないんですか?」

「いないから困っているんじゃない。好きな人ができたらガンガンアタックするわよ」


 自称肉食系女子はそう言って笑った。

 実際は恋愛に限り草食系女子だとホノカは思っている。


「ねぇホノカちゃん。攻略対象と恋に落ちるのは聖女の役割だよね?」


 確認するようにアリスに問われ、ホノカはぎくりとした。


(アリス姉さんはカンがいいから気をつけないと)


「役割って、まぁゲームならそうですけどね」

「ホノカちゃんは好きな人、いないの?」

「……いないです。二次元がいきなり三次元になって動揺しているし、ようやく違和感がなくなってきたところだし」

「そう。話は変わるけど、愛の神様では何も予定はないのよね?イベントとかイベントとかイベント」


 大事な事なので三回言ってみたアリスにホノカが頷いてみせる。


「王子の婚約騒動は終わったし、ジャックの魔法結社も潰れちゃったし、あとはフェルの秘密結社による聖女暗殺事件とオルの派閥争いからの聖女暗殺事件。悪の秘密結社による暗殺がグレイとランス」


 いつ聞いてもろくなものではない。

 どんだけ暗殺が好きなスタッフだったのだろうか。


「で、いつどこの教会で誰のイベントが起きるの?」


 そう問いかけてからアリスは気が付いた。


「グレイとランスの事件は同一の秘密結社なの?別口?」

「そこはわからないですけど、どうかしましたか?」

「事件が四つ起きるか三つ起きるかじゃえらいちがいでしょ。というか、外回りは五か所なのに事件が三つか四つって確率高すぎない?」


 ホノカはすっとアリスから視線をそらした。

 言われてみれば確かにそうだ。


「ゲームで起きるタイミングは、どれも三つ目の教会です。で、四つ目の教会と五つ目の教会で好感度アップのイベントが発生して最後の封印に臨む流れですね」


 三つ目の教会で怖い目にあった聖女を四つ目の教会で慰め、五つ目の教会で告白。

 そして最後の教会でエンドが決まる。

 展開が早いと突っ込んではいけない。

 だって乙女ゲームだから。


「ああ、そっか……。個別ルートに入ると発生条件はみんな一緒なのね?」

「はい。友情エンドやノーマルエンドはランダムに事件が起きるけど全部未然に終わるので、聖女に直接のかかわりはないです。アリス姉さんは事件が起きると思いますか?」

「個別ルートに入っていないから大丈夫。って言いたいところだけど……」


 アリスは眉をひそめた。


「すでに王子のイベントが起きて解決してるし、ジャックのイベントも起きる前に解決しちゃったし、いつ何があってもおかしくないわ。いっそのこと全部のイベントがぶつかり合ってつぶしあいをしてくれたらいいのに」

「ものすごいカオスな現場になりそうですね……」


 想像しようとしたが、うまく想像できずにホノカは頭を抱えた。


「とにかく、いつ何が起きてもおかしくない状況なんだから、警戒は怠らない事!」

「はいっ!」


 とても良いお返事を返したホノカは緊張した面持ちでこぶしを握り締めた。


「がんばってくださいね、アリス姉さんっ!」

「なんでやねんっ!」


 思わず大阪弁で突っ込み返したアリスだが、納得がいかない。


「ええっ、だって対外的な聖女はアリス姉さんじゃないですか。みんなアリス姉さんを狙ってくるわけですよね?」


 その通りなのだが釈然としない。

 本物の聖女のくせになぜ他人事のように話すのか。


「え?私が、じゃなくてホノカちゃんが巻き込まれちゃうの?そして私が当事者なのが前提?何か納得がいかないんだけどっ。そりゃ覚悟はしていたけれど、ホノカちゃんに言われるとムカつくのはなぜ?」

「大丈夫ですよ、アリス姉さん」

「根拠のない自信は嫌いなんだけど」

「私の祈りは世界をも動かすはずっ」

「カッコいいこと言うなら最後まで言いきろうね……」


 脱力しながらもきっちり言い返すアリスだが、その胸中は穏やかではない。

 ホノカは心から嬉しそうにアリスを見た。


「大丈夫ですって。今の会話で充分にフラグが立ちましたから」


 小悪魔的にほほ笑むホノカのセリフに悪寒が走った。

 王都を出発してから二時間後の出来事。


「襲撃だっ!」

「聖女様をお守りしろっ!」


 なんてセリフが聞こえたが、気のせいだと思いたい。




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