プロローグ
初投稿でドキドキ
アリス・ドットは栗色の髪に栗色の瞳という平凡でありふれた組み合わせの外見を持ち、生まれも育ちも生粋の平民である。
三代以上続く王都の生まれで、生粋の王都っ子でもある。
ごく普通の料理屋に生まれ、近所の子供たちと一緒に遊び、そしてガキ大将という黒歴史も持っている。
そんなアリスの普通じゃないところは、記憶だ。
小さなころは、世界に対して疑問がいっぱいあった。
どうして天気予報がないのか、どうして電気をつけないのか、なぜ車がないのか、どうして魔法があるのか、なぜテレビがないのかなど。
大人たちに聞いてもおかしな子ども扱いでアリスはいつも不満だった。
そんなアリスの疑問を解いてくれたのは教会の神官だった。
「それは生まれる前の記憶かもしれないね」
天啓を受けたように体が震え、その言葉をきっかけにあやふやだった記憶が形になった。
日本という世界で生きていた記憶。
記憶ではちゃんと結婚し、孫も三人いて大往生だった。
そして孫にボケ防止といわれてゲーム機をプレゼントされ、死ぬまで日々ゲーム三昧だったことを思い出す。
散歩を兼ねてモンスターをゲットしたり、孫と格闘ゲームで盛り上がったり、牧場で何かを増やしたり、乙女ゲームにはまって脳内花畑になってみたりとかなりと充実した老後だった。
もう、連れ合いの名前も子供の名前も孫の名前も覚えていない。
実感もなく、ただ物語を読んだようなものだった。
だから特に感慨も抱かず、この世界でも目標は孫に囲まれて大往生になった。
平民は8歳から12歳の間に学校へ通い、そのあとは家の仕事を手伝だったり働きに出る。
金持ちだったり才能がある子はさらに上の学校へ進むのだ。
このまま家業を手伝うか、上の学校へ進むのか。
アリスは進路に悩んでいた。
前世の記憶があるという事は、この世界のレベルよりもはるかに高度な知識を持っているということだ。
前世の知識を生かして発明家として身を立てるという意欲もないし、今の生活スタイルに不満はなかった。
よって進学にあまり興味が持てなかった。
かといって家業である料理屋の手伝いも気が進まない。
「アリス、話がある」
「お店、潰れるかも」
12歳の時に暗い顔をした父と母から告げられた一言でアリスの目指す道は決まった。
近所にできた似たような店に客を取られ、閑古鳥が鳴いているそうだ。
アリスはまだ店で手伝いをしたことはないが、店の評判は知っている。
それなりにおいしいご飯を提供していたのだが、やはり味がそれなりなのでおいしいお店にはかなわない。
頭の中で、この世界にはないソロバンがいい音をたてた瞬間でもあった。
「どうせつぶれるなら私の好きなようにやらせてくれないかな?」
こうして王都に、カフェではなくて甘味処の第一号店がオープンする運びになった。




