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これからも二人で

 乗合馬車が動き出し、聖王都エーリアスから出ると同時に、ルーはマーサから貰った弁当を開ける。


「おおっ、これは凄い……」


 ルーは目を大きく見開いて、中からの巨大なパイを取り出して勢いよく齧り付く。


「う~ん、中にトロトロになるまで煮込まれたお肉が入ってる。これはうまい」


 ルーが食事し始めたことで乗合馬車の中に肉とスパイスの食欲のそそる匂いが充満し、乗客たちが羨ましそうな視線を向けていたが、ルーは全く気にした様子を見せない。


「もう、ルー姉……はしたないよ」


 他の乗客たちに申し訳ないと思いながらも、食欲をそそる匂いに抗うことができず、メルも手を伸ばして巨大なミートパイのような料理を手に取って頬張る。


「――っ!?」


 サクッ、という歯応えと同時に中から溢れ出してきた脳まで突き抜けるほどの強烈なスパイスの香りに、メルは大きく目を見開く。


 強烈な香りに驚く間もなく、すぐさまトロトロになるまで煮込まれた牛肉の旨味の波がやってくる。


 歯を使わなくても噛み切れるほど柔らかく煮込まれた牛肉は、余程丁寧な下処理が施されているのか、肉の繊維が一つ解ける毎に肉と複雑に絡み合ったスパイスの味が舌の上で踊る。


「これが……マーサお婆様のとっておき」


 宮廷料理人を務めたマーサの本気の料理に、メルは恍惚の表情を浮かべて深く溜息を吐く。


 メインとなる肉は柔らかく煮込まれただけでなく、これだけ複雑な味付けをしているのに、それぞれが全く喧嘩することなく見事なハーモニーを奏でるようになるには、一体どれだけの手間を加えれば到達できるのかが想像も付かない。


 それに、肉を包んでいるパイも、作ってからそれなりに時間が経っているはずなのにサクサクとした食感が残り続けているし、中から肉汁が漏れ出てくる様子もない。


「悔しいな……何がどうしてこうなってるのか、全然わからないや」


 メルが持っている知識では、このパイがどうやって作られているのか皆目見当つかない。


 もしかしたら、マーサから貰ったレシピ本の中にこのパイのことが書いてあるのかもしれないが、自分で考えずにすぐに解答を見るのはメルの流儀に反する。


「う~ん……」


 パイを食べ終えたメルは、余韻に浸りながらどうするべきか感がるが、


「うん、決めた。自分で納得する答えが見つかるまでは、マーサお婆様のレシピ本は見ない」


 そう宣言すると、マーサから貰ったレシピ本を紐で縛って荷物の底へとしまう。


「いいの?」

「うん、いいの。これはマーサお婆様からボクに与えられた試練だと思ってるから」


 メルはコクリと頷くと、早くも二つ目のパイへと手を伸ばしているルーに挑戦的な目を向ける。


「というわけでルー姉、これから時々このパイに挑戦するから味見よろしくね」

「任せて。味見、超得意」


 ルーがニヤリと笑って親指を立てるのを見て、メルも二つ目のパイへと手を伸ばす。

 一先ずは次の街に行くまでに、中に入ったスパイスを少しでも見極めておこう。


 そう思いながらパイとにらめっこをしていると、


「ピュイ、ピュイイイイイイイイイイイイイィィ!」

「あっ……」


 聞き覚えのある鳴き声が聞こえ、メルは馬車後方から顔を出して声のした方へと目を向ける。

 すると馬車の上空を、赤い大きな影が旋回しているのが見えた。


「お~い、フェーちゃん!」

「ピュイ、ピュ~イ!」


 メルが大声でフェーに呼びかけると、赤い鳥はその声に応えるように鳴きながら宙返りしてみせる。


「おおっ、フエゴ様だ」

「本当だ。凄い、フエゴ様が見送りに来て下さったぞ」


 すると、フェーの存在に気付いた乗客たちが馬車の前後から次々と身を乗り出し、上空で優雅に旋回する神の御使いと呼ばれる赤い鳥を見る。


「どうやらお別れの挨拶に来たみたいだね」


 上空を見上げるメルの隣にやって来たルーが、指に付いた油をペロリと舐めて話す。


「フェーが私たちにありがとう、またね、だってさ」

「ルー姉、フェーちゃんの言葉わかるの?」


 その質問に、ルーは軽く肩を竦めてみせる。


「ニュアンスだけね。私よりよっぽどノインの方がわかっていたし、あの子は本当いいママだったよ」

「種族を越えた愛か……本当にあったよね」

「私たちみたいにね」


 そう言って後ろから抱き付いてくるルーの手を、メルは少し照れた笑いながら取る。


「じゃあボクたちも、ノインちゃんたちに負けないようにしないとね」

「それなら大丈夫、私とメルは地上最強に仲良しだから」

「……うん、そうだね」


 これから先、様々な問題や困難な壁が立ちはだかるかもしれないが、どんな壁でも二人なら乗り越えていけるだろうとメルは思う。


 だって自分たちは、最高のパートナーなのだから。


 メルはルーの体にもたれかかると、顔を上げて彼女に向かってニコリと笑いかける。


「ルー姉、これからもよろしくね」

「もちろん、だからメルもおいしいごはんよろしくね」

「ハハハ、それは任せて」


 互いの顔を見て笑い合った血の繋がりがない姉妹は、挨拶を終えてママが待つ城へと戻っていくフェーが見えなくなるまで眺め続けた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


これにて今作『メルとルーの異世界美食旅ガストロノミー』は完結でございます。

異世界を舞台にした旅とグルメの物語、いかがだったでしょうか?

この手のジャンルは書いていてとても楽しく筆を進められますので、少しでも楽しさが伝わって下さったなら嬉しく思います。


また、今作はいくつかの賞レースに応募させていただいておりますので、よろしければブックマーク、☆での評価で応援していただければと思います。


さて、次作ですがもう既に構想はできており、もう少しプロットを煮詰めたら執筆に入ろうと思っています。

連載中の『チートスキル』の方も更新して参りますので、よろしかったらこちらも応援よろしくお願いします。


それでは今回はそろそろ筆を置かせていただきます。

改めまして、ここまで読んでいただきありがとうございました。

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