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ボクの選んだ答え

 下される裁定を前に、メルたちの周囲にピン、と張りつめた空気が周囲を支配する。


 だが、


「……でも、その前にメルさん、こちらをどうぞ」


 重苦しい空気を台無しにするような明るい声で、ネージュが懐から取り出した小袋をメルへと差し出す。


「今回の件で、王からメルさんへ渡して欲しいと預かりました」

「はぁ……って重っ!?」


 見た目より重い小袋に、メルは思わず素のリアクションが出る。


「な、何ですか。これは……」


 全く面識のない王からのずっしりと重い贈り物に、メルは困惑しながら小袋の中を見る。



「……えっ?」


 小袋の中を見たメルは、驚きに目を見開いて中身を取り出す。


 それはキラリと輝く、汚れ一つない金貨だった。


 中身を取り出しながらざっと数えてみると、実に五十枚以上の金貨が入っていた。


「こ、こんなに……いいんですか?」

「ええ、メルさんは今回、それだけの功績を残しましたから」

「……えっ、ええっ!?」


 今回、メルがしたことといえば城の兵士たちを傷付け、由緒ある物見の間を半壊させたことである。

 どちらかといえば怒られと思っていたメルに、ネージュはクスッと笑ってある事実を告げる。


「実はね、今回の件で我が国のフエゴ様に対する扱いが……生物研究所の考えそのものが間違っていたことを思い知らされたの」

「えっ?」

「成体となったフエゴ様は立ち去る前に感謝のしるしとして卵を一つ残す……そう思っていたけど、今回のフエゴ様は未だ王城に残ってママと一緒に幸せそうに過ごしているわ」


 それはつまり、これまで旅立ったフエゴはエーリアスに感謝こそすれ、満足する生活を送れていなかったということだ。


 本当のフエゴは明るく広いところを好み、食べるものも簡素な穀物だけでなく、肉や魚なども食べる。


 その事実に気付かなかったのは、ハイネを中心とした生物研究所の職員の凝り固まった思考が原因であり、メルが現れなかったら、神の御使いと呼ばれる鳥に対し、とんでもない失礼を働き続けていただろう。


 そして、生物研究所の過ちはそれだけではなかった。


「今回のフエゴ様のしずく、とってもおいしかったの」

「えっ? あっ、ネージュ様も食べたのですか?」

「ええ、幸運なことにね」


 笑顔で頷いたネージュから事の顛末の補足説明が入る。


 フェーが成体となって戻った翌日、再び産んだ卵で作ったフエゴ様のしずくを食べた王は、これまで食べたフエゴ様のしずくとは比べ物にならないほどのおいしさにいたく感動し、思わずシェフを呼びつけて何か調理方法を変えたのかと聞いたほどだという。


 そこでシェフから作り方は何も変えていない。変わったのはフエゴの方であると聞かされ、フェーの母親であるノインを召喚して事情聴取を行った。


 それによりフエゴに対して長年失礼を働いていたことを知った王は、それを報せてくれたメルには罰よりも褒賞を与えるべきだと結論付け、かつて彼女が払ったアポルのジュース代を含めた報酬を出すこととなった。


「というわけで、そのお金は今後の旅に役立ててほしいとのことだから、遠慮なく受け取っておいて」

「わかりました。そういうことでしたら」


 思わぬ形で失ったお金が戻って来たことに、メルは小袋を胸にホッ、と胸を撫で下ろす。

 先立つものがあるというだけで、心の持ちようが大きく変わって来るものだ。


「メル、よかったね」

「うん、ノインちゃんに感謝しなくっちゃ」


 これで野宿しないで済むと思いながら、メルは城の中でフェーと一緒にのんびり過ごしているであろうノインに感謝する。



「それで……」


 話が一段落ついたところで、ネージュが改めてメルに話しかける。


「メルさん、前に私が話したことは覚えていますか?」

「はい、勿論です」


 それは賢者と呼ばれるものになった後、どうなりたいかという質問であった。


 賢者になるという目標はあっても、それを正しく理解していなかったメルは、ネージュからの質問に上手く答えることができず、ルーからの助けで保留となっていた質問だ。


「よろしい」


 メルの表情から覚悟を汲み取ったネージュは、鷹揚に頷く。


「では、改めて問いましょう。メルさん、あなたは賢者になってどうなりたいのですか?」

「はい、皆を笑顔にしたいです。といっても具体的な方法はまだ何も決まってませんが……」


 そう言って思わず苦笑を漏らすメルであったが、その顔には悲壮感はない。


「ただ、旅先で困っている人が、泣いている人がいたら迷わず寄り添って、何かいい方法はないかと一生懸命に考え、最終的に笑顔にして……」

「笑顔にして?」

「おいしいものを一緒に食べたいです」


 そう言ってメルは満面の笑みを浮かべる。


 メルが出した答えは、ネージュが想う理想とは程遠いものかもしれない。


 具体的な方法は何もなく、子供の理想論と言われればそれまで……だが、それでもこの答えは、メルが必死に考えて出した結論だった。



「…………どう……でしょうか?」


 緊張した面持ちで尋ねるメルを見て、ネージュは微笑を浮かべる。


「フフフ、とても立派な答えだわ。助けてみせるではなく、寄り添って一緒に考えるというのも素敵ね」

「あ、ありがとうございます!」

「しかも最後においしいものを食べたいだなんて……やっぱり血は争えないのね」

「えっ? ネ、ネージュ様、もしかしてママをご存知なのですか?」

「勿論、メルさんを一目見た時から、ああ、あの子の娘が来たのねと胸が躍ったものだわ」


 ネージュはようやく胸に抱えていた想いを話せたと大きく嘆息すると、真顔になってメルに話しかける。


「さて、巡礼の魔法使いメル、覚悟はよろしいかしら?」

「……えっ?」

「この地で得られる魔法、覚えていくでしょ?」

「――っ、はい! お願いします!」


 メルは笑顔に花を咲かせて頷くと、初めての巡礼地で得られる魔法についてネージュから教授を受けた。

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