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炎を御使い

 メラメラと燃える炎を思わせるたてがみに鋭利な黄色いくちばし、スラッとした顔つきに流麗な胴に続き、幾重にも分かれた長い尾は虹のように七色に輝いていた。


「キレイ……」


 優雅に旋回する赤く輝く鳥を見ながら、メルはノインに尋ねる。


「あれって大人になったフェーちゃんだよね?」

「はい、間違いありません。成体となったフェーちゃんです」


 優雅に旋回をするフェーを見て、ノインは感極まって溢れてきた涙を拭う。

 朝日を受けて神々しく飛んでいる鳥を見て、メルは思わず呟く。


「フエゴ様って……フェニックスのことだったの?」

「フェニックス?」

「うん、パパの世界で知る人ぞ知る伝説の鳥なんだけど、フェニックスまたは火の鳥って言うんだ」

「火の鳥……なら、フエゴ様と無関係というわけではないかもしれませんね」


 眩しそうにフェーを見ながら、ノインはフエゴという名の由来について話す。


「実はフエゴという名は、古い言葉で炎の御使いという意味があるそうです。他には火の神様の化身という意味もあるそうです」

「火の神様の化身か……正に今のフェーちゃんそのものだよね」


 手でひさしを作り、眩しく輝くフェーをメルたちが見ていると、輝く鳥が旋回を終えてゆっくりと降りてくる。



「ねえ、ノインちゃん……」


 徐々に大きくなる赤い鳥を見ながら、メルが気になることを尋ねる。


「今のフェーちゃん、全身が燃えているように見えるんだけど、実際に熱いとかないよね?」

「た、多分大丈夫なはずです……きっと……おそらく」

「どんどん自信がなくなっていくよ!?」


 ノインの頼りない返答に、メルは焦ったようにわたわたと周囲を見渡す。


 こういう時、頼りになるのは炎による耐性もあるルーなのだが、彼女はまだ寝袋の中で丸まったままだ。



 そうこうしている間に鳥の影はみるみる大きくなり、フェーがすぐ近くに着地してそのままノインへと身体を擦り付ける。


「ピューイ、ピューイ!」

「わわっ……って、よかった。いつものフェーちゃんの温かさだ」

「ピュイ?」

「ううん、何でもないよ」


 不思議そうな顔をするフェーを、ノインは小さく苦笑を漏らしながら愛おしそうに撫でる。


「メルさん、大丈夫ですよ」

「うん、そうみたいだね」


 見た目がフェニックスと似ていてもその性質までは同じはないようで、メルは小さく息を吐いてフェーへと近付いて真っ赤な羽を撫でる。


「ちゃんと大人になれてよかったね。やっぱりボクの見立て通り、フェーちゃんはとっても美人さんだったね」

「ピュイ!」


 メルに褒められたフェーは、美しくなった体を見せびらかすように羽を広げてみせる。


「……本当、キレイ」


 誇らしげに胸を張るフェーを、メルは双眸を細めて優しく撫でる。

 これだけ立派で美しい成体になったフェーを見たら、ハイネたちエーリアス王立の生物研究所も、ノインの子育ては間違ってなかったと認めるしかないだろう。


 融通が利かない大人たちの悔しがる顔を思い浮かべ、メルが「ざまあみろ」と心の中で思っていると、


「メルさん……」


 何かに気付いたノインが、彼女の服の裾を引っ張りながら話しかけてくる。


「これを見て下さい」

「ノインちゃん、それって……」

「はい、これが私がエーリアスに行くことになった本当の理由、フエゴ様の卵です」


 そう言ってニッコリ笑うノインの手の中には、バレーボールほどの大きさの黄金色に輝く卵があった。



「これが、フエゴ様の卵……」


 想像していたより大きなを前に卵に、メルは呆然と呟く。


「えっ? これ……いつの間に?」

「たった今です。メルさんがフェーちゃんの顔に見惚れている間に産んだんです」

「あの時に……」


 てっきり褒められたから『私をもっと見て』と、美しくなった体を見せびらかしていると思ったが、どうやら違ったようだ。


 炎の化身と呼ばれるフエゴの貴重な産卵シーンを見られなかったのは残念だが、メルは気になったことを口にする。


「でも、こんな所で産んじゃってよかったの? 確か、フエゴ様の卵って王様に献上するやつだよね?」

「ええ、ですがフェーちゃんはこの卵をメルさんに食べてもらいたいみたいです」

「ピュイピュ~イ!」


 ノインの言葉を肯定するように、フェーはメルの背中をグイグイと押してくる。


「ほら、フェーちゃんもこう言っていますから、それに、フェーちゃんはまだまだ卵を産んでくれますから……ねえ、フェーちゃん?」

「ピュ~イ」

「ああ、うん……それじゃあ、いいのかな」


 そこまで言われたら、断る理由はなかった。


「それじゃあ、せっかくだから朝食はこれを使うとして、一旦戻ってルー姉を起こそうか?」

「そうですね、ルーさんにもいっぱいお世話になりましたから、ぜひ食べてもらいたいです」

「うん、それじゃあ戻ろうか」


 メルは卵を落とさないように両手でしっかり抱えると、ルーが寝ているキャンプ地目指して歩き出す。



「あっ、そうだ」


 途中、あることが気になったメルはノインに尋ねる。


「魔導機関車に乗ってきた強盗が言っていた大量の金って、もしかしてフェーちゃんのことだったのかな?」

「多分、そうだと思います。フエゴ様の卵は、殻だけでも高値で取引されるそうですから」

「なるほど、確かにこれは高く売れるかも」


 流石にこの殻が金であるということはないようだが、それでも火の神様の化身と崇められ、天然で金と遜色ない卵となれば大金をはたいてでも欲しいと思う者は少なからずいるだろう。


「メルさん、すみませんでした」

「ん、何が?」


 不思議そうな顔をするメルに、ノインは申し訳なさそうに眉を下げる。


「フェーちゃんのことです。本当はもっと早く話したかったのに、パパから絶対に誰にも話しちゃいけないって言われて……」

「ああ、そのことね。大丈夫、気にしてないよ」


 今ならノインの気持ちがわかるメルは、手を伸ばして彼女の肩をポンポン、と優しく叩く。


 例えメルたちが話さなくても、何処かでフェーの秘密を知った者がまた新たな刺客なる可能性もあるので、秘密を知る者は最小限である必要があった。


「ボクがノインちゃんのパパでも、きっと同じことを言っただろうからさ」

「メルさん……」

「それより今は、この卵をおいしくいただくとっておきの料理を作ろうよ」

「とっておきってまさか……」

「うん、そのまさかだよ」


 産みたてだからか、まだ温かい金の卵をそっと撫でたメルは、得意気にニンマリ笑う。


「フエゴ様のしずく、作ってみようよ」


 それはメルたちが泊っている宿の主人、マーサが宮廷料理人時代に開発した王に捧げる料理だった。

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