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毒の魚を捌いていく

 ――翌日、メルはフクフクを捌くための準備をしてからラーナと合流して、再びジャッドの家を訪ねた。


「来たな」


 今日は気分を変えて外で作業をするつもりなのか、ジャッドは庭先に机を出して待ち構えていた。


 ジャッドの足元には桶が置いてあり、中には大量のフクフクがビチビチと水飛沫を上げている。


「メル、今度こそフクフクを完璧に捌いてみせるから、例の魔法を頼むぞ」

「モチロンです……けど、こんなに大量のフクフク、いいんですか?」


 ラクス湖における漁のフクフクの釣果は決して多くないことを昨日読んだ本で学んでいたメルは、独占するかのように食材を用意したジャッドに心配して問いかける。


「これだけ持って来たら、おじさまたちに怒られたりしないんですか?」

「ああ、心配しなくていい……これは、俺の覚悟だから」


 何処か達観したような笑みを浮かべたジャッドは、大量のフクフクを用意した理由を話す。


「親父たちに、今日でフクフクの無毒化に挑むのは最後にすると言って、今朝の釣果、全て貰ってきた」

「えっ?」

「だから、今日で何としても無毒化しての捌きを完遂してみせる。いいな?」

「…………わかりました」


 ジャッドの覚悟を聞いたメルは、それに応えるように力強く頷いてみせる。


「では、まずは一つ、ボクに試させてもらっていいですか?」

「メルに? 何かいい方法でも思い付いたのか?」

「ええ、上手くいけば、最初の一匹目で悲願が達成できますよ」


 メルは可愛らしくウインクしてみせると、今日のために用意した道具を……細長いワイヤーを取り出す。


「それは?」

「これは船を係留する時に使うワイヤーを細くしたものです。鍛冶屋さんにお願いして急遽作ってもらいました」

「なる……ほど?」


 メルが持って来た道具が何かを理解したが、ジャッドの表情は晴れないままだった。


「それで、これでフクフクを捌くつもりなのか?」

「いえ、これは締める時に使う道具です。早速使ってみようと思いますけどいいですか?」

「あ、ああ……」


 メルの勢いに圧されたジャッドは、おずおずと引き下がって彼女へ調理場を譲る。


「包丁は全て研いであるから遠慮なく使ってくれ」

「ありがとうございます」


 メルはぷっくりと膨れたフクフクを一匹手に取ってまな板の上にうつ伏せ置くと、毒を可視化する魔法をかけて包丁を手にする。



「では……」


 包丁を振り上げたメルは、昨日のジャッドたちに倣ってフクフクの頭を落とす……のではなく、急所である脳天に包丁を振り下ろして頭の一部を割る。


「とりあえずここで一度血を洗います」


 説明しながらフクフクの開いた頭から溢れ出た血を水で洗ったメルは、続いて鍛冶屋に作ってもらった極細のワイヤーを取り出す。


「背骨はここだから…………ここっ!」


 指で触って位置を確認しながら、メルはワイヤーをフクフクの背骨の上に空いた僅かな穴に差し込んでいく。


「メル……これは何をしているんだ?」


 グイグイとワイヤーを押し込んでいくメルを見て、ジャッドは堪らず口を挟む。


「締めると言っていたが、その行為に一体何の意味があるんだ?」

「これはですね。魚の背骨近くにある交感神経を壊して締める、神経締めと呼ばれる締め方です」

「こ、交感神経? って何だそれは?」

「ええっとですね……簡単に説明すると、魚は死んだとき、この交感神経を伝って細胞全体に死んだという情報が伝わって、そこから死後硬直と腐敗がはじまるんです」


 処置が完了したのか、ワイヤーを引き抜いたメルは、昨日ジャッドがやっていたのと同じように捌きながら説明を続ける。


「神経締めを行うことで、魚に死んだという情報を与えることなく捌くことができるのと、後はより効率的に血抜きができるんです」


 フクフクの皮を手早く剥ぎ、毒の部位を確認しながら内臓を取り除いたメルは、身に付いた血を綺麗に洗っていく。


「この方法を思いついたのは、本を読んであることに気付いたんです」


 しっかりと表面に付いた血を洗い落したメルは、さらに両手で握り潰すようにしてフクフクの身の中に残った血を絞り出しながら自身の考察を話す。


「実は最初にフクフクを食べた欲張りな漁師は、そのフクフクでは毒に罹らなかったということです」

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