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街中ダンジョン  作者: フィノ


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閑話 エマの活動報告@1 16 挿絵あり

 ファーストはハルカ曰く、思考の彼方へ飛んで行っているらしい。付き合いが長いのか、たまにこうなる事があるそうだ。トリガーが何かは分からないらしいが、こうなると思考が完結するまで本人の許容を超える事態が起きない限り戻ってこないそうだ。要点だけ聞くと過集中の疑いがあると思われたが、話しかけると普通に対話する。


 風呂とハルカについて考えていたらしいが、風呂にハルカが入ってきた事で諦めたらしい。一緒に生活しているのに、彼女の肌を見るのは嫌なのだろうか?ファースト自身はインナーを作る際彼女に素肌を晒したらしいのだが・・・。風呂でも思ったが、ファーストはどういう身体の作りをしているのだろう?


 同じ人間のはずなのだが、食べた量に対して痩せすぎているし軽すぎると思う。歳は43との自己申告があったが、そういったモノも抜きにしても、触り心地、匂い、身体のバランスとこれまでに見た誰よりも素晴らしい。


「では、ここで。何かあれば私の部屋へ来るか電話してください。」


「了解しタ。定時連絡があるので、何かあればその後連絡すル。」


 ロビーで別れそれぞれの部屋へ向かう。ファーストはホテルの最上階に滞在していて、私はそれの1つ下の階となっている。安くはない額のホテルだが、費用は国か軍が持つのでどうでもいい。しかし、彼女の指導力には舌を巻く。トラップが出せなかった私がたった一回の指導でトラップが出せた。はっきり言ってコレは異常な成果だ。仮に他のメンバーが同じ事をなせるなら、この国は最先端を間違いなく走っている事になる。


 許された定時連絡法はホテルからの電話と、併用するならテレビ電話が許されている。彼女に持たされたゲーム・・・、否この場合訓練機材をテレビにセッティングしながら、子機を肩に添えて電話をする。不思議な感覚だ・・・。教場で出したトラップは目に見えないのに、どこかに設置する機会を待っているような気がする。そして、手袋を嵌めて手を撫でれば、そこに設置完了した感覚もある。


「もしもし、エマ少佐か。定時連絡だろうが、まだ初日だ大きな期待は・・・。」


「ウィルソン、トラップが出せた。」


「少佐、僕と君は仕事の付き合いで、君を缶詰にした人間でもある・・・。嘘はよせ、米軍も君も色々試した。その結果全く成果は出なかった。それがたった一日そこいらで出たと言われても、信じられると思うか?何かしらのペテンに・・・。」


「映像通話に切り替える。電話は切るな、切ればあらぬ疑いがかけられる。」


「・・・、ok、子供じゃないんだ。TVショーが始まるのをボップコーン片手に待ってるさ。」


  挿絵(By みてみん)


 スマホを壁に立てかけて映像通話を行う。スマホの横に子機を置けば疑われる事もないだろう。ウィルソンは宣言通り行儀良く待っていた。違うのは家ではなく職場の机で、背後には国防総省の職員と、片手にはドーナツを持っている事。軽口を叩くがコイツは仕事はこなす。そうでもしないと、上へはいけないし無能は首を切られる。かつて私も傷一つで仕事を失ったように。


「ウィルソン、コレはフィクションじゃない。私の腕はなにもないし、持ってもいない。確認はいいな?」


「まて、せめて上着は脱げるか?袖の短いモノにしてくれ。」


「おっと、私も興奮していたようだ。」


 着ていたジャージの上を脱ぎタンクトップ姿になる。これなら間違いようは無いだろう。スマホの前でくるりと周り念入りに腕と、手首の周りを映して見せる。元々何も持っていないのだ、疑われることはない。


「いいか?ギークども!ここは室内なので大掛かりなものは出せない。だが、これで分かるだろ?」


 手袋を嵌めていない方の手をスマホに突き出し、手袋をした手を振り下ろす。多分、この動作は必要ないが、ゲームのキャラクターの発動合図がこれだったせいでこうした方が安心感がある。なるほど、これが制服効果か。来日した当初、コスプレイヤーと心の中で罵ったが、なるほど確かに理に適っている。要はお守りなのだ。


 トラップは寸分違わず発動し、手首からトラバサミが生えた。大きさは手のひらを二周り大きくしたようなそれは、手首から左右に伸びた所を支点に、カシャンカシャンと思うように動く。

コレは任意発動出来るから操作出来るのだろう。たった1つの自己発動例だが、それは恐ろしいほどにイメージを作り上げる。


 思い返せば途中から部屋には、彼女の吸うタバコの煙が満ちていた。ひたすらのテレビから響く叫び声も何時しか途切れ、残ったのは彼女の囁く声のみ。煙の中なのにいやらしいほどイメージは作り上がり囁く声は艶めかしく耳から入り脳にこびりついた。


「少佐・・・、それは最初から出来たものではないのか。」


「違う。私はコレを出す前にファーストに近接格闘を挑んだが、軽くあしらわれた。そして、室内でトラップを使い彼女を捕捉しようとしたが、それも叶わなかった。ウィルソン、彼女を侮るな。職を使っての戦闘・・・。いや、そうでなくとも彼女を捕縛するのは難しい。」


 トラバサミの出た手を様々な角度からスマホに映して喋る。私は饒舌な方ではないが、たしかにこの成果は興奮させる。数ヶ月出来なかった事がたった一日そこいらで出来たのだ、興奮するなという方が無理で、他のトラップのイメージもゲームのおかげで存在している。


「少佐、成果はわかった。工程は!来日以降何をして出来るようになった!覚えている範囲・・・、いや!脳を振り絞ってでも思い出して訓練内容を話せ!コレは我が国に取って貴重な情報になる!お前達!仕事だ!この通話を録音して検証しろ!」


 画面の向こうで慌ただしくギャラリーが動く。ホワイトカラーのデブ共が、泡を食ったように走り回るのは傑作だ。ウィルソンの机に置いてあった定時連絡用のスマホはどこかに運ばれ、様々な機械が取り付けられたようだ。しかし、話した所で笑い話にしかならないだろう。現に私が振り返っても笑い話にしか思えない。


「来日当初、私を迎えに来たのはチヨダとファーストだった。ただし、ファーストは隠れていた。」


「隠れる?有名人だ変装の1つもするだろうし、何なら人混みに紛れ・・・。」


「違う、チヨダの横にいた・・・。魔法だ、魔法で存在を隠していた。私は話しかけられるまで、一切感知出来なかった。それ程までに巧妙に魔法で隠れていた。」


 その話にウィルソン含めギャラリーがザワつく。そうだろう、眼の前にいるのに感知できない人物が存在すれば、税関も警察も意味はなくなり全てはザルだ。彼女1人で国の機密の一切をさらけ出す事が出来る。


「それはカメラや赤外線も通用しないのか?人の目なら手品師でも欺ける。しかし、機器まで出来るならその脅威は計り知れない。個人単位でステルス出来るなら、今の科学力ではザルも一緒だ。」


「検証していないので不明だ。我が国は魔術師が少ない、検証材料不足もいいところだろう。」


「クソ!民間頼りか・・・、それは別にこちらで話し合う。それからの行動は?」


「本人確認をして禅問答だ。自身の証明は自身である事で決着がついた。その後は歓迎の食事だったが、彼女はフードファイターだった・・・。トンカツとご飯を5〜6人前は食べていた。そして、どこに入ったのかというほど体型は変わらず、その後は装備品を買いに行った・・・。」


 あれは思い出しても食べ過ぎだ・・・、今日の昼もよく食べていたが、どこに入っているのだろうか?ホットドッグの早食いチャンピオンは日本人だと聞くが、細い日本人ほどあり得ない量を食べられるものなのだろうか?


「・・・、食事量はいい。装備品とは?米軍支給の高級品では駄目だと?」


 ホテルで彼女達と飲んだ後に買った靴をして試してみたが、既製品・・・、この場合鍛冶師と装飾師の手の入ってい物とは雲泥の差。流石に銃は使えないので、ナイフで斬り付けてみたがいっさい傷は付かず、逆にナイフが刃こぼれした。履き心地もよく彼女曰くこの靴ならモンスターも蹴り殺せるらしい。というか、彼女がしたそうだ・・・。見た目とは裏腹に、彼女は中々苛烈な所がある。


「モンスターを蹴り殺せる靴。支給品で可能か?そうでなくとも、彼女から渡されたインナーをお前は知っているだろう?」


「・・・、装備品はそのレベルを求められると?」


「求められて買ってそちらにポスターと送った。」


「でかした少佐!それはいい研究材料だ、費用には目をつぶろう・・・、ポスター?」


 あれは・・・、不思議だ。同じ人物を見ているはずなのに、あのポスターの写真には恐ろしいほどに惹きつけられる。薄着で靴を履き、椅子の上に座る写真。美しい少女・・・、幻想的で儚げで、しかし、魔性を秘めた表情で見るものの心を掴み、惑わし惹きつける。望田は実際の撮影現場を見た時に声が出なかったという。それ程の魔性を秘めた写真のポスター。


「ウィルソン、そのポスターの被写体はファーストだ・・・。厳重に管理しろ。不用意に見れば魅入られるぞ。」


「与太はよしてくれマッド・ガール。高々ポスターでそんな事があるか。」


「断言する。見てもいいが、アラームでもセットしろ。魔法でもかけているのか、アレを見るとなんというか・・・、そう。目が離せない。慣れればいいのだろうが、そうなるまでは必ずそうしろ。それと、我々は職に対する認識を改める必要があるようだ。」


「・・・、ポスターの件は少佐の言うようにしよう。認識を改めるとは?」


 成るではなく至る。途中経過、自身から湧き出るモノ。難解だが、共通して言われるのはイメージ。それに参加者達は中位の先を見て動いている。


「我々は中位になればいいと考えていた、しかしファーストスクールではそれは通過点だ。成るではなく至る。散々訂正された。目指す先は上位、そして、職は自分の中から発生するそうだ。適正と言っていた。その適性の中から選ぶそうだ。最初の3つ、忘れずに覚えていた方がいい。」


「成る?至る・・・、スィーパーの感覚だろうが、指示には従ってほしい。しかし、適正か・・・、忙しくなる。我々はランダムで職が出ると思っていた。確証はあるのか、適正が求められるという。」


「ある。中位の兵藤と話した。彼曰く、なぜその職が出たかすべて言えるそうだ。そして、中位ならそれは当然だとも・・・。中位に至る条件は、切望し生涯を捧げる道を見つける事だそうだ。」


 酷く曖昧で抽象的。祈ればいいのか、願えばいいのか?分からないが、ただ、何かしらで自分に向き合う必要性がある。なぜ、狩人が出たのか・・・、そう聞かれて私はドキリとした。確かに私は狙った獲物を逃している。しかし、その獲物は今は永遠に捕まえられない・・・。なら、それを捕まえる為の手段はあるのだろうか?


「ブッディズムの考えか。我々とは中々相容れない。そんな険しい道を進まずとも、神に祈ればいいものを・・・。いや、神に祈ってもゲートは消えないのか・・・。おかげで教皇の商売はあがったりだ・・・。」


 ウィルソンが悪態をつく。必要なのは信仰心ではなく、自身に求められるモノだった。走るのもそう、軍内でがむしゃらに走り込んだが、意味はなかった。根本がズレていたから。必要なのはイメージで、身体を鍛えるのは二の次、或いは鍛えているという前提。現に走って私はバテたが魔法職2人はピンピンしていた。


「米軍内で走る訓練をしているなら、中止かイメージがいる。」


「ここでもイメージか。MARVELでも見ろというのか?」


 なるほど、ウィルソンもたまにはいい事を言う。赤兎馬はピンとこないが、スーパーヒーローならピンとくる。さながら、盾師や格闘家はハルクやキャプテン・アメリカだろうか?いや、セイントの方が・・・。


「私の今日の訓練を教えてやろうか?」


「おぉ!とうとうそこか!どんな特殊訓練だ?ファーストに手も足も格闘戦で手が出なかったんだ、タキウチでもさせられたのか?さぞ厳しい・・・。」


「走って組み手してお喋りしてゲームだ。」


「何だそれは・・・、お茶飲み友達を送った覚えはないぞ?」


「そのお茶飲みで成果が出た。アプローチの仕方を完全に見直す必要があるようだ。何にせよ、言われるのはイメージ。このトラバサミもそうだ。ひたすらゲームで罠を設置して敵を倒し、自分が罠を扱う者であるというのを、3時間ぶっ続けで横で言われ続けた。」


 逆を言えばたった3時間そこいらで、出来なかった事を出来るようにした。それは指導力の賜か、或いは催眠術にでもかけられているのか?どちらにせよ、あの濃い霧・・・、タバコの煙の中で、私は言われるがままに罠を使い攻撃した。コレは私に適正があったから?


「指導内容はそれだけか?技術や何かはないのか?それがあれば訓練に応用できる。」


 それ以外・・・、そう言えば対スィーパー用の戦術を話していたな。本当かどうか分からないが、彼女が言うからには、それの訓練もやっているのだろう。卓と雄二・・・、確か片一方はヒーローだったはずだ。中位にはあまり効果がないと言っていたが、それでも役に立つなら報告しよう。


「対スィーパー戦術は軽く教えてもらった。下位の魔術師には有効だそうだ。」


「ほう、我が国ではそこまで重要ではないが、先は分からない。どういったものだ?発動より早く攻撃するのか?それとも、発動自体を阻害するのか?」


「発動阻害だろう。ヒーローもファーストにやられたらしいが、そこはまだ話せていない。やり方は相手の心を・・・、やろうとするイメージを否定する事だそうだ。そして、その否定は相手が少しでも無理と思えば、ほころびに繋がるらしい。」


 話されている事は筋が通っている。イメージで戦うなら、それを否定する。否定の仕方が悪口というのは分からなくもないが、多分、ファーストが本気でそれをしたら立ち直れないほどのダメージを受け、今出せているこのトラバサミも出なくなるのではないだろうか?職に対する理解力を求められる事が多くあったが、それもまた考えなければならないことだろう。


 はっ!精神と時の部屋?あの煙の中はそれで、私は瞑想していた?或いは、封神演義の哪吒?確か最後は精神と時の部屋の様な所に閉じこめられていた。なら、共通するのは瞑想?ウィルソンはブッディズムと言っていたが、あれにも確かに瞑想はある。なら、やってみるべきなのか?


「悪口言ってスーパーパワーが止められるならやってみるが、それはまだ判断材料がほしい。」


「了解した。しかし、今回の訓練参加は多くの情報が引き出せる。他の情報は追って連絡する。オーバー。」


「了解した。オーバー。」


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[一言] 人間関係がある程度固まってから出てくるキャラって微妙に好きになれなかったんだけど、エマ少佐は何故か妙に好感が持てる不思議。
[一言] ポスターがどうなるのか…面白いことになって欲しい
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