746話 インド方面
「確かにラボが1番である必要はない。しかし、何を持って1番と考えるかは別だろう?総合的な技術力なのか、その分野での1番なのか?国としての役割分担が可能なら、どの国に何を研究させどう言った成果を求め、全体の方向を指し示す事も可能だろう。しかし、まだ国同士はパンゲアに成れず統括政府構想も叫ばれない。」
「当然ですね。それが叫ばれるにはまだ早いと考えますよ。なにせ今は地球から出るのかそれともゲートに潜るのか、それとも今の日常の延長線を生きるのかで考えは変わる。」
変わると言いつつも統括政府が出来たとして誰がどこまで従うのか?にかかってくる。例えばゲート搭載型S・Y・S型コロニー群で木星辺りに住んでいたとして、地球から何か指示をされてもそれに従うかと言われれば答えはNOと言うか、その場所次第で問題点も変わるから一概に従うとは言えない。
そもそもそこまでの範囲を1政府や国が管理出来るとも思えないんだよなぁ〜。マクロ的な視点で言えば、就業時間中に休憩でもないのにタバコを吸いに行く人はいるし、それを頭ごなしに駄目と言う人も少ない。はっきり言ってしまえばコレは管理者から見れば勝手な休憩だろう?
それが見えていない所で起こるのだから、限界を感じる所もあれば無理と諦める部分も出てくる。結局はバランスとどれだけ寛容になれるかかな?アルの話ではEUもまとまるし日米中露には賽を投げた。そして残るはインドアフリカか。それが世界のすべてとは言わないが、国土と国民と経済と言う物を見た時に外せない国でありつつ、ここから先急速に動き出す国とも言える。
「何処に住もうと人は人以上にはなれないさ。それはスィーパーと言いう超人になり、圧倒的な力を持とうとも変わらないしかえられない。それはクロエを見れば明らかだ。」
「どうなんでしょうね?世相もあれば新しい常識もある。時代時代で柔軟に対応するのも人間でしょう?」
「違う。それも確かに人間だが私の様に何かに括るのもまた人間だよ。・・・、自己基準。言葉としては厄介かもしれないが、それが妥当な日本語だろうか?」
「アイディンティティじゃなくていいんですか?」
「それは自己定義だからな。物差しと天秤は違うだろ?なんにせよ中位が増えれば我は強くなる。増長する訳ではないがその流れもあるだろう。」
「今の話は肝に銘じておきましょう。では。」
「ああ、また話を聞かせてくれ。」
アルと別れて考える。中位の増長か、確かにそれはあるだろう。アルは知らないがリャンは上位に王手をかけた。それはさらに先を見せるパフォーマーであり、可能性を示す者だろう。流石にチャンがその辺りはいつ表に出すかは決めるので俺は口を挟めない。しかし、松田も立ち会ったからどこかに先を越されてからと言う話もないと思う。
先に発表して先行して逃げ切る。コレが一筋縄で行けばどこもかしこも血眼になるのだろうが、一筋縄で行かないからバラける時は来るしそれを見越して動く人間もいる。俺?悪いが員数外だ。魔女達が言う様に先がないEXTRAは目標とはなれても、道程を見せる事は出来ない。
米国、EUと来てやって来たのはインド方面と言うか細々としたブース。大国程の技術力はないにしても目はギラついて下剋上上等で先を目指す国群とでも言えばいいかな?貧しさはハングリー精神を生むが、同時に貧しいからこそ世界から助けられていたと言う部分もある。よくよく金だけ出して現地民に技術を与えないと言う話があるが、今の世の中それは甘えと取られても仕方ない。
なにせ金貨が上位基軸通貨と認められてしまったので、自分達で稼げと言う風潮もあるしね。マンパワーは資金に直結するしインドとアフリカが手を組む姿勢である以上、国際社会の回答は国民を遊ばせずに働かせろとなるだろう。それが例え命の危機がある場所だとしてもだ。
そんなブースを見るがアミットはいないし、特にこちら方面での知り合いはいない。と、言うか企業人としか分からないので、それがどの程度の規模の企業なにかもよく分からない。一応パンフレットを見た限りでは有力企業としてあるのだが、どこの国で発言力があるかは別だしね。
「ファーストさん?」
「そうですが?」
「私はラヴィ・グプタ言います。以後お見知りおきを。」
多分インド人だろうけどグプタか。確か商人階級多い性でここにいるからにはそのまま商人として立ったんだろう。マハラジャが王族の称号としてあるけど、カースト廃止やらを本気で行いだしたからインド自体も結構ゴタゴタしていたが、今はEUよりも落ち着いているらしい。
まぁ、階級制度なんてものがあれば下が一番多いピラミッドになるのは必然だろうし、その下が力を持てば上は抑えるだけの力がなければ淘汰される。それこそ盛者必衰だろうな。
「ええ。すいませんが名刺は簡単に出せない事になっています。それで、ここでは何を販売してるんですか?」
「契約ですよ。」
「契約?護衛や用心棒等の?」
「それもありますけど、私達は私達の強味を活かして契約を結ぼうとしています。ファーストさんもどうです?契約不履行時には違約金もだしますよ。」
「ふむ、先ずは内容からですね。何か冊子の様な物は?」
「どうぞコチラです。」
内容を見る限りでは・・・、メインが傭兵ではなく素材調達?指定素材を限りなく素早く回収する旨が記載されているし、失敗時の違約金要項なんかも書いてある。ただ、あくまでモンスター素材がメインであって薬や設計図と言うものは一切断ると書いてある。なるほど、上手い具合にやるつもりか。
「グプタさん、貴方はそこそこ偉い人ですか?」
「さぁ?偉いと言えば偉いですけどカースト的には、ね。」
「それはお国の事柄ですよ。端的に聞きますが上は工場を目指すんですか?」
そう聞くとグプタの目が細められる。予想が当たっているならこの契約を売ると言うのはメインではなくサブだな。本気の狙いは技術力向上と自国の存在感向上。それにアフリカと言うマンパワーをプラスして盤石体制を取る感じかな?
契約して素材を取ってくる。それは今回の素材フェスで価格が安定してくれば素材価格+人件費で落とし込めるし、薬系と言うか箱の回収を除外する事で取りに行く人間にも旨味が出る。その上でインドは直で素材を買い取れるから、仲介料金不要で潤沢な素材を使い研究も行えるし、それをアフリカ側に還元すると言えば悪い話ではない。
技術力があってマンパワーのある国と、技術力は低くてもマンパワーがあって働き口を求める国がタックを組むとこう言う構図も出てくるのか。企業に属するのが全てとは言わないが、やり口的にはアフリカ側と言うか取りに行く側にデメリットは少ない。まぁ、命の危険はあるのだが・・・。
一応インドも日本式ギルドを導入しているけど、取り扱い的にはスィーパーの管理者やら警察の協力者としての側面が強く出そうだ。
「私達は素材回収サービスを売るだけですよ。日本政府が飛行ユニットの製造方法をばら撒いてからも、その前からもモンスターの素材と言うのはどこの国も欲しがりますからね。ゲートが宇宙でも使えるなら、どこでも仕事が出来てウチの企業に所属さえしてもらえれば我々としても利益が出ます。ギルドとしては目障りですか?」
「さぁ?ギルドはあくまでスィーパーのサポーターですからね。政府の組織として擁立されていれば政府から一定の資金は出るでしょう?」




