745話 EUの動き
サイラスとそんな話をして英国ブースを後にして、やって来たのはEUブース。ここだけ近未来的と言うかパワードスーツやらロボテクスーツの見本市の様になっている。まぁ、本物ではなく立体映像を使ったりR・U・Rシステムを流用して操縦体験が出来る様だ。
高槻と言うか佐沼的にはR・U・Rそのモノは何れ真似られて多方面で使われる事が考えられると言っていたけど、出土品がどこからでも出るなら何れは似た物が作られても仕方ない。一応ライセンス料金とか取ってるのかな?サーバーを自前で作れればライセンス料金払わないなんて事も言えるけどさ。
「む、クロエか。」
「おや?アルさんはコチラで参加ですか。てっきり発表会場にいると思いましたけど?」
「技術なんて物は水物で明日には新しい発見もあれば、それが世界を塗り替えもする。EUと一括りに話されているが中はどこが主導権を握り国家運営を柔軟にやるかで内ゲバばかりだ。全く、私は言語学者であって技術者でもなければ、ゲートに居着いてラボで暮らしているから国にも政治にも興味はない!」
「その割にここに呼ばれるのって変な話ですね。」
「内ゲバのせいだ。ドイツが上に立つのを嫌う者は多い、それこそ過去を引き合いに出されれば我々は黙る。それ程までに過去や言葉は残り続ける。」
「なるほど。主導権渡したくないけど技術力は高い、ならいざと言う時に黙らせるカードを残し続けてしまえばいいと。そのうち破綻しそうですね。」
「しそうではなく間違いなくする。過去を忘れずに哀悼を捧げるのは間違いではない。しかし、それがカードとして扱われ終わりなき賠償や誹謗を受け続ければ誰でも嫌になるだろう?特にこれから先長い生を謳歌するなら、だ。」
チャン達は力技とも言える歴史焼却をしようとしている。確かに忘れない事は大事なのだが、それに囚われ続ければ底は見える。まぁ、当事者じゃないからなんとも言えない部分はあるのだが、許しの時が永遠に来ないなら癇癪も起こしたくなるな。
「まぁ、そんな話を聞きに来たんじゃないですよ。最新式のパワードスーツのお披露目っぽいですけど、どんな感じです?」
「うん?飛行ユニットの製造の目処はついているらしい。問題はそれを搭載した物を売るのか?と言う部分だろう。確かに今売り抜ければ金になる。しかし、売れば売っただけ飛行ユニットを保有する国は増える。なにせ鑑定師やS鋳物師、オカルトなんかに頼めば技術を読み解くのは容易だからな。」
「まぁ、中位の鑑定術師なら遠くから目視しただけでなんとなく分かる人もいますけどね。それでも中々作れないのは加工そのものが難しいからとも言えますが・・・、来年終わり頃は飛行ユニット祭りがありそうだなぁ・・・。」
米国がS・Y・S建造したら他の国もとなる。そうなれば安価な宇宙への移動手段として宇宙適応したパワードスーツやらは注目されるし、飛行ユニットも粗悪品含めて大量に出回りだす。ばら撒いた製造方法通りに作ればそのまま規格品と言えるのだろうが、どこもコストカットには余念がないからなぁ・・・。
本当に企業国家共同体とか出てくるんじゃないの?中国じゃないけど国民は全員社員であり企業に属する者とするとか。社会主義になれるかと問われれば、企業である以上報酬格差は必ず出てくるし・・・。取りまとめ自体は難しいのだろうけど、インドとアフリカの動きを見れば現実味もおびてくる。
例えばインドを管理者側とした時にインドはマンパワーで世界中から契約を取りまくり、社員であるアフリカに仕事と報酬を渡す。ここの味噌は先に動く事。実績を積めば積むだけ契約は取りやすくなるし、安定して報酬と仕事が回ってくれば文句もそうそう出ない。当然アフリカ側からも管理者は擁立するよ?
でなければストライキと言う名のクーデターが起こるし。そもそも社員と管理者のイザコザって給料格差によるものが多いけど、他人の給料と言うか他国の給料なんて早々覗けるものでもなければ、報酬に対して納得してもらうのが管理者の腕の見せどころ。それに信頼を勝ち取ったインドならと言う話も出てくるわけで・・・。
「私はラボにいるから飛行ユニットで空にいるのが当たり前になっている。その当たり前が例えば宇宙でも慣れれば当たり前になり、地球の中でも当たり前の飛行物体と認識されれば日常になる。既にゲートがそうなっている。発生当初は相当な混乱が合った。しかし、今は街中にダンジョンゲートがあるのは当たり前で、そこに住む者もある。だからこそ過去に囚われないと言う動きは多い。」
「EUも何かやってるんですか?」
「そのEUと言う奴だ。確かに欧州連合には27の国が加盟しているが、その中でもギリシャ危機等が合った。それはなぜか?単純な話連合であって1つの国家ではないからだ。ユーロと言う共通通貨を作りつつも国別の貨幣は未だにある。それが為替レートとなり金を生みつつも足枷になっている。だが、転機は訪れ金貨は舞った。シェンゲン協定拡大により国境は脆く日本風に言えば隣の県に遊びに行くのになんで審査が必要なのか?と言う話になっている。」
「つまり国名を自治体名に変えて欧州連合国を作ると?」
「本当かは知らないが若者を中心として、その動きは大きくなっているそうだ。彼等は我々とは違い何者にも縛られない場所を知り、今の世の中の窮屈さを知り、そして最後に政治を知った。クロエ、人が変われば住みやすさもまた変わる。」
「まぁ、国なんてものは栄えたら滅んでの繰り返しですからね。その中で住みやすさを若者が求めるのは仕方ないでしょう。」
モンゴル帝国は滅んだし神聖ローマ帝国も滅んだ、オスマン帝国も滅んだし消えた王朝は数しれず。大半は内ゲバやら戦争やらで滅んで行ったのだが、今回はどうなるのだろう?と、言うか人が国に属したいかと言う部分から不明になって来る。
とある配信者がゲート内で箱投げてその距離分の土地を「俺の領土で国家だ!」と宣言していたが、広い領土に本人だけの国とかねぇ。旨みもなければ娯楽も賃金支払いもない。そう言うごっこ遊びなんだろうけど、今の国家が直面してるのは正にそれなんだよな。
下手に舵取り失敗すると国民がまるっとゲート内移住なんて事もあるだろうし、シェンゲン協定があるから他国に流れ込む事もある。まぁ、どんどん国がくっつくのは大きく見て国民がいると言う体裁保つ為でもあるのよね。
多分若者が動いてるのはそんな危機感からだろう。帰巣本能は人間にはないけれど、実家に帰ればくつろげる。出稼ぎした時の定番のセリフは?国へ帰って妻や子供や両親に会う、だ。あくまで人や家に帰りたいのであって国そのものに帰りたい訳じゃあない。
「そうとも。住めば都でゲート内でも楽園になる。国としての魅力、国家としての安定、そして何より外敵から身を守れるだけの強さ。個別に小国があるよりも1つの大きな国として協力し合うのが建設的だろう。今の政治家は誰も彼も年を取り過ぎで誰もアクティブにモノを動かそうとしない。まぁ、外見が若いだけの者なら増えたがね。」
「新しい風も良し悪しですけどね。なんにせよEUの中が動きまくってるのは分かりましたよ。で、このパワードスーツ群が主力商品になると。」
「ラボの物には負けるかもしれないが、私は1人の学者だから内情は知らない。もしかすればラボ以上の品を作っているかもしれないな。」
「それはそれで結構としか。なんでもかんでもラボが1番である必要性はないですからね。」
そうは言いつつ色々と作ってるらしいけどね。藤はマッド化したいない様だけど斎藤は変なもん作りまくってるらしい。それこそ設計図渡す前にブラックホールエンジンとか・・・、そもそもブラックホールエンジンの設計図見つけたの斎藤だったよ・・・。




