743話 そして森になる
先にロシアが区分けに乗り出すと思ったら中国が乗り出したか。まぁ、領土放棄やら緩衝地帯と言う名目で誰も管理しないと言うよりは・・・、マシとも言えないか。そもそもな話、松田にごった煮国家の話をしたのは管理限界と言うものがあると感じていたからである。
今の世の中を管理者会社じゃないと言う人は少ないと思う。だってそうだろう?貨幣が生まれた時点でそれに価値が生まれ、それの量によって買える物も出来る事も変わってくる。例えば貧乏なら車を買えないがお金に余裕があれば車は買える。しかし、貧乏でもローンが組めれば車は買える。
その際には当然ローン審査もあるし、利子を払うのが嫌なら貯金して一括と言う流れになるのだろうが、なんにしても働いたりしてお金を稼ぐ必要がある。しかし、ゲートが出て以降はお金の稼ぎ方も代わり誰かの会社に勤めたり、自分で事業を起こさなくてもお金は得られる様になった。
そうなるとどうなるのか?先ずは国としての税収問題。既にどの国も議論しているが、今の所は金貨払いなら釣りを出さないと言う部分でやりくり出来ている。しかし、そこもまた問題で色々抜きにして考えれば100円の物を金貨で買えば9900円の儲けとなるが、裏を返せば高額の物を売っても9900円の差額しか生まれない。
だからこそ国は企業に色々と緩和策をだして経済、取り分け製造業なんかを優遇する法を検討しているし、企業としても利益を目指す集団として基礎研究含めて大金をつぎ込むし、個人で情熱のある人は自分でゲートに入って資金を作る。
そんな中で広い国土と言うのは良くも悪くも扱いに困る場所でもあるんだよなぁ〜。ゲート内と言う自己責任空間がある以上、ゲート外での研究は法に縛られて面倒と感じる部分もあるし、精密機器を作るにしてもウイルスやら粉塵なんかを考慮すると、高額でもゲート内に研究施設を作りメンテナンスしながら長期的に運用したくなる。
実際腕のいい装飾師は建設業者からよく派遣要請が出てくるし、高額で月契約を結びたいなんて所もある。つまり、領土が広い=資源が豊富で建設現場が多く研究施設なんかもたくさん建てられると言う考えから、資源や燃料はゲート産の物を優先して使い地球にある物は貯蓄していざと言う時に備える方向に変わって来ている。
決定打とするなら俺がS・Y・Sから地球に馬で来た事だろう。いくら端が不明と言っても地球を超えてしまう事はないと思われていたセーフスペースだが、現実的に宇宙から統合基地まで来れるだけの広さがある。そうなってしまえば地球でなにかするよりもセーフスペース内で何かする方が色々と便利だし、国に属していないなら税金も払わなくていい。
それに宇宙に目を向けている国としても、企業がゲートに潜り込むよりは宇宙ならまだ税収があると思ってるんじゃないかな?国とは人である。しかし、人とは国ではない。なら人はエゴで国を離れるし不自由だと思うなら新天地も目指す。国と企業のパワーバランスを考えれば本来なら国が上のはずなのだが、資金面を考えれば企業に負けるだろうしいくら国が重圧をかけた所で逃げる先があるならさっさと逃げる。
チャンは前に自身を企業主義者と言った。それならさっさと不良債権になりそうな物は整理したいだろうし、次に価値が出るまでは寝かせておけばいい。う〜ん、三国志じゃないけど天下三分の計とか?少なくとも地球と言うか地上の魅力って住みやすいとかだし。
「どう整理するつもりです?予想だと森と言うか緑化ですけど。」
「話が早いですね。木はかってに育ち森となり、豊かな森には動物も来ます。今ならそれの価値は低いですが、先を見れば必ず『天然物』には価値が出る。今更我が祖国で食の安全を訴えても誰も見向きもしないでしょうが、100年も放置された森なら天然物と言っても誰も怒らないでしょう?それに、我が祖国は私有地を認めていない。なら、全て国有林にでもしてしまえばいい。」
「人の国の水源地買い漁ってただけあって動きが早いですね。まっ、なんにしてもその私腹が破れない事を祈りますよ。」
「ええ。長く人として生きる法も探さないといけないですからね。では。」
そう言い残しチャンは手をヒラヒラさせながら歩いていく。国家首席と言う隠れ蓑がある分動きやすいんだろうな。テレビに映るわけでもなく、一般人からすれば若い中国人にしか見えないし。未だに発表は続いているが、流石にコレは!と言うモノは今のところない。そろそろ販売ブースやらの方に移動するかな?禁煙パイポを加えていたが、そろそろタバコやらキセルも恋しいし。
そんな事を思いながら喫煙所でプカリ。流石に今のままでは邪魔になるので顔だけを隠しているが、明らかにファーストと分かって話しかけてくる人もいる。適当に話してタバコを吸い終えたら喫煙所を離れ、最初に来たのは米国ブース。
「なんと言うか・・・、スター・トレック的な?」
「おぉ!クロエ、昨日ぶりですね。」
「昨日ぶりですねウィルソンさん。で、エマはなんでまたそんな格好を?」
「そこのバカが大統領令を持ってきたからダ!」
良くも悪くもエマが着ているのは軍服でもなければスーツでもない。全身にピタリと張りたいたボディースーツと言うか、特撮やらSFで宇宙へ行くなら!と言った服を着ている。デザイナー的にはそれでいいのかと言いたいが、青と赤に星って星条旗イメージだよな?
「S・Y・Sでの浮遊ユニット宇宙実験が成功して、我が国としては宇宙軍構想も盛り上がってるんですよ。流石に浮遊ユニットを搭載した物を置くわけには行きませんが、精巧な随伴機のプラモデルなら、ね?」
「プラモの割には本物チックですね。米国の造形師も腕がいい様だ。でも、コレを米国としては売る気ですか?」
「いや、そこまで話は進んでませんよ。ですが宇宙で活動するならどこの国の物か分からんといかんでしょう?エマがアレを着てるのはこんな感じの制服がスタンダードと知らせる為ですよ。」
「なるほど・・・、着た感じどう?」
「腹立たしい事に機能面はいイ。魔法糸を使いつつ緊急時には生命維持も出来るとされていル。耐圧、耐熱、宇宙活動で必要な酸素にとナ。そう言えばコレは見せてもいいのカ?」
「ある以上構わんさ。米国でも魔術師を育成して作らせた杖です。」
「杖・・・、杖?レギュレータですよね?コレ。」
渡された杖は棒ではなくレギュレータの様な形をしている。と言うか、ご丁寧に咥えろと言わんばかりにマウスピース的な部分もある。
「そうダ。これをエアと言いつつ咥えれば呼吸が出来ル。万が一宇宙で呼吸出来ない様なイメージを持つ者が事故に合った場合でモ、コレがあれば24時間は大丈夫だそうダ。」
「息できてもヘルメットなかったら死なない?流石にコレがヘルメットになるわけじゃないんでしょ?」
「一応、そう言ったタイプもあるゾ?しかシ、ヘルメットも破損を考えると安心できなイ。そこで超純水の膜を張り一度叩ク。そうすれば過冷却で氷のヘルメットが完成すル。後は助を待つカ、自力で帰って来いと言う話ダ。」
「かなりチャレンジャーな仕様だなぁ〜・・・。実際エマだったらコレ使う?」
「レギュレータだけ貰えればそれでいいナ。わざわざ頭を冷やす必要もなイ。」
「お前が言うなエマ!大事な商品だぞ!」
「こんなクレームが来そうな商品があるカ!圧縮装置による個人携行の酸素量も増えた中でなんでコレを売ろうと思っタ!」
「・・・、バカな上に言え!俺だってこんなもん売りたかない。売りたかないが売れと言う奴もいる。実際凄いんだぞ、これ。外に出したくないくらいにはな!」
ウィルソンとエマが言い合ってる横でエアと呪文を唱え咥えてみる。確かに咥えていると言う感覚以外は普通に呼吸出来てる。噛み口も柔らかいけど下手に噛むと不味いよな?
「これっへ、れんひうしはらふふうひはなへまふ?」
「いや、普通に喋って・・・、噛んでもらって大丈夫です。」
「・・・、おお!コレなら普通に喋れますね。」
「エマの着てるスーツと合わせれば接触時には宇宙空間でも通信機なしで会話も出来ます。米国として、どこまで身軽に宇宙へ行けて活動出来て対応出来るのか?そこがコンセプトになってます。」




