740話 皆伝
「松田氏!松田氏!!」
「チ、チャンさん落ち着いて・・・。」
「落ち着いていられますか!今クロエ氏は言いましたよね!?隠遁者で体術師と!それってつまりダブル中位ですよね!?」
「そ、そうだと思いますよよよ?」
松田氏が変な声を上げるがそれどころではありません!狂犬的な破壊者が至り、ダブル中位となって我々の元に・・・、元に来る?確かに本人が私兵と言う言葉を口にしましたが、それは国ではなく私に仕える・・・、いえ。怖いのでパートナーとして歩むと言いましょうか。とにかく、私の言う事なら多少は聞いてくれると言う事でしょう。
リーと言う中位を手放しましたが、その先でただ中位よりも更に強力な者を得た。しかし・・・、その手綱はどう握る?はっきり言えばスィーパー、取り分け中位と言うのは本人の意思により動く部分が多い。
それは至るプロセスがそうさせる様に明確に本人が望む形が分かっているからと言う意見が多いのですが、ならリャンはどうやって暴れないと約束させる?確かにクロエ氏は他人に迷惑をかけるな話しましたけど・・・、いや。それは言葉による縛り?再戦を約束する代わりに暴れるなと言う。
「手は開いた。なら、掴むことも出来る。星掴む手は広く高く伸ばさなければならない。我が手は未だ狭く低く到底届かぬが、何れ届かせて見せよう。」
「そう。更に今手合わせを願うなら愚物だけど多少は分を弁えるのね?なら、少しでも広がって伸ばせたと思ったら来なさい?その代わり、約束を破るならすべて刈り取る。麦は踏まれて強くなるだったかしら?でも、切り取られれば終わりよねぇ?」
「カカ、恐ろしい。精々腕を磨くとしよう。チャン、帰るぞ。」
「待って下さいリャン。私はまだクロエ氏・・・、魔女ですか。そちらと話します。暇なら日本の統合基地で風呂にでも入っておいて下さい。」
「湯浴みか。ならそうさせてもらおう。先に言うが我は暴れんし殺しはせん。その誓いを破る方が恐ろしい。信じるか?」
「虎の威を借る狐ではないですが、下手に約束を破るなら私はクロエ氏にすぐさま告げ口します。その事実があるからこそ、リャンを信用して対等と言っておきましょう。」
「それもまた強さなり。ペンは剣よりも強しと言うが、我が拳よりもその言葉が早く着けば我は後悔する。その対等と言う言葉は受け入れよう。では。」
立ち去るリャンをクロエ氏はタバコを吸いつつ見送っています。戦闘の後と言えば荒れ果てた土地にクロエ氏のスーツに残された穴のみ。しかし、その穴から覗くのは白い肌で感じ血痕も残らない。クロエ氏の有する不老不死と言う物を見て、その戦闘を見て、リャンと言う本当の意味での中位を見て・・・、この方にどう勝つのか?と頭を巡らせて見ますが、先に始めた者の優位性はやはり強い。
「魔女氏は・・・、帰られたか。クロエ氏いいですか?」
「いいですよ。流石にアレを人の身体に使えば引き千切られると話していたところですが、やり方次第と言う禅問答になりかけてましたからね。」
「その問答はまぁ・・・、それよりもお聞きしたい。仮に今のクロエ氏がスタンピードそのものに単騎で挑めば勝てますか?」
「スタンピードに単騎で?さぁ?なにが出るか分からないのがスタンピードです。仮にムカデが出れば地中を走り見逃すかも知れないし、そらとぶモンスターが高速で移動すれば追う為に労力を使う。それに興味の対象が私だけならモンスターは外を向く。確かにそれを御する法もありますが・・・、困るでしょう?」
「困る?」
「ええ。たった1人でスタンピードを食い止めた。それは裏を返せばスタンピードを食い止められる怪物がいると示す事です。その怪物は人の姿をして人の言葉を話し、人と同じ様に考えて人の中にある。排斥は不可能でどう対処するかと言えば、懐柔するか見ないと言う方法しかない。でも、人はその見ない事が選択できない。なにせ見ない事の方が怖いですからね。と、長々と話しましたがスタンピードを1人で食い止めるのは無理ですよ、無理。」
「何故です?リャンとの戦いを見ればそれも可能だと思いますが?」
「決まってるじゃないですか、それをする気がないからです。先に言いますけど意地悪じゃないですよ?宇宙から地球にメッセージを送った、コアの話す波長等が分かる。そのイメージがある以上、ゲート外でその力を使えばどこまで効果範囲があるか分からないんですよ。」
チャンが単騎でスタンピード止められるか?とか聞いてきたけど、淡々と考えれば不可能ではない。しかし、次がいつの時点で発生するかでどうなるかも分からない。仮にスペースオペラが始まった時に発生すれば、文字通り7日間で発生場所まで辿り着けるかも分からない。
はっきり言ってしまえば1人にすべてを任せると言うのは、その1人が守れる範囲にしか生活圏を作らないと言う事で、それが許容出来るなら最初から人類は生活圏が交わらないまま今も小さな村で暮らしているだろう。なにせそこに大人が退けられるくらいの脅威しかいないなら、安全は確保されて土を耕して暮らせばいい。
しかし、人はそんな事出来ずに狭いからと外に出て他者と交流し、排除し時に共闘しながら生きてきた。実際ゲートが出現する前も人は人と争っていたしねぇ。
「ご自身でもご自身の能力が分かっていないと?」
「逆に聞きますけどチャンさんはチャンさんの思考限界をご存知ですか?」
「それは・・・、イメージと言う事ですか。」
「ええ。職とはイメージです。何度も何度言っていますが、思考し続ける限り職は成長し続けて力を付けさせてくれる。だからこそ、人にステータスなんて言う上限を決める様なモノは枷でしかないし、同じ事を繰り返して凝り固まるものよろしくない。発想や思考は自由な方がより羽ばたけるでしょう?」
「なるほど、分かりました。なら自由な発想の元私はクロエ氏と友好関係を続けさせてもらうとしましょう。いい贈り物をありがとうございます、所でリャンも中位でいいんですか?なにか頭に付けます?」
「ん?適当に皆伝とかでいいんじゃないですか?中位としての道程は済んで次は上位しかないですし。」
「中位:皆伝。その辺りは・・・、松田氏は秘密にしておいてもらえます?」
「ゲート内の出来事は信用に値しない。治外法権下で起こった事実を私も見ましたけど、それを外で話すのはマナー違反でしょう?政治家としてそちらの国が発表するまでは口を噤んで起きましょうかね。と、言うよりもクロエさん?ウチより先に他国に皆伝なんてしてどうするんです?勝手に皆伝になったのは仕方ないんでしょうけど。」
「自分で結論出してるじゃないですか松田さん。と、言っても本当に未知数だから分かりませんよ。なにが出来るのか、どう生きるのか?そもそも説明文のなにが消えたかも分からないんですよ?改造された言う話をするなら、私は多分理解力的なモノを底上げされてるんでしょうけど、それにしたってなにも知らなければ意味はありませんからね。」




