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街中ダンジョン  作者: フィノ


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739話 辿る道

 薬を使い腕をグリグリと回しその感覚をリャンが確かめる。多分パフォーマンスだろうなぁ。1人で中層に行き戦っていたならそんな事をする余裕もない。腕が取れた?直ぐに繋げて動け。足がやられた?なら這いずってでも身を隠して治せ。


 今いる日本の本部長達だって行くならチームは組むし、それを押して1人で行くのは宮藤さんくらいか?それでもまだ55階層は単騎で越えようとしない。なぜか?簡単な話、死にたくないからだ。潔く死を選ぶなんてスィーパーには出来ないし、生き汚く生き残って何度でも挑む。


 そう。闘争心がある限り死なんて言う・・・、ソーツが休眠状態と定義したモノを人は受け入れられない。だから藻掻き求め国としての目標と豪語するまでに不死は理想であり、永遠の枷とも言える。全く、不自由な檻とはよく言ったものだ。


「さてと、先に言いますが手合わせであり殺し合いではない。そして、手合わせが終わり次を望むからと言って部外者を巻き込まない。コレの承諾は?」


「かまわん、勝てないと思う最強に勝てないまま挑むのは馬鹿だ。怒りを買って殺されては最強への道も潰える。終わればチャンの私兵とでもなって大人しくゲートを進み強者と戦う。ただ1つ、届くと思えば挑んでも?」


「殺し尽くせると思うならどうぞ?」


「うむ、その傲慢さが心地いい!!」


 言葉を置き去りにしたリャンは既に俺の腹に掌打を打ち込もうと迫っている。コンマ以下の世界で繰り出されるそれは、本来なら貫手でなくとも貫くには十分な威力だろう。しかし、その拳圧がある時点で届かない。既に身体は浮遊し思えばそよ風にさえ流されて、時として大質量のモンスターさえ受け止められる。


「万物は流転しこの身もまた回る。」


「やはりか?」


 リャンの手の付け根に手を添え、そのまま空中前転しながらの踵落とし。しかし、それは腕を振り上げる事で若干の猶予を生み当たり前にリャンが撤退する。ただ、そのまま逃がす訳には行かない。視界は切り替わりリャンと言う存在を認識し、あらゆる角度からためつすがめつ。


 常に退路はあり、行動を起こしてカウンターでも取らなければ明確なダメージはなく、それでいて隠密状態なら一緒の空白を生む。リャンのやはりとは自身が何がしたいを見抜かれていると言う事が分かった発言かな?


「不思議に思っていた。なぜあの時我はああも簡単に耳を打たれたのかと。確かに気は急いていた。未熟であり驕りもまたあった。だが、武術未経験者に後れを取るとは思ってもいなかった・・・。その目、我を視ているな?」


「ええ。視ない事には戦えませんからね。肌で感じ空気を読み気配を感じる。私にそんな技能はない。だからどこまでも視るんです。さて、退路を断ちましょう。隠れるなら暴きましょう。身代わりを生み出すならそれも砕きましょう。」


「カカ!それでこそ最強!これでこそ手合わせ!存分に振るわせて貰う!」


 さっきより更に早く・・・、やはり至っていたか。カウンター気味に出した煙の槍は拳に当たれば曲げられる。上下左右から出せばトロンプ・ルイユで足場を出して更に回し蹴りで打ち払う。飛ばした雷撃は投げられて明後日の方向へ。格闘家だな。


 武術家である以上、それが出ないとは思わない。だが、それが出ても選ぶかも分からない。武術とは軍事であり殺人術、格闘家とはあくまで選出。それを知ってか知らずかは分からないが、本人が自身を挑む者と言うなら選ぶしかないだろう!


「これからは理不尽の押し付け合いです。先ずは1発当ててごらんなさい?1次元に私までの長さ。2次元に魔法、3次には当然私・・・、すべてを出力。」


 距離を開ける、縦と横に無数に魔法を配置する。そして認識している空間にバイトを呼び出す。前は空間を作って操作した。その中の自由だったから。しかし、それが魔法なら扱えない事はない。魔女達が高速で俺を叩きのめすのはこの方法だから。


 物理的に離れた距離は時間には逆らえず、歩む道程には命を刈り取る魔の法が無数。敢えて受けてやる義理もなければ、わざわざ動く必要もない。なにせタイマンだからね。


 その中をリャンは突き進む。進路を変え時に下がり時に飛び壁を作り打ち壊しては魔法に拳を振い殴る。悪いが理不尽と言ったのだ。視えている限りはいくらでも追加魔法もユーモアも追加させてもらおう。


「先ずは足です。」


「くれてやる!この程度の傷くれてやる!まだ腱は切れていない!」


 太腿を大きくえぐる。直ぐに回復薬を出すが、使われる前に煙で奪う。しかし、その煙毎殴り瓶を砕いて中身に飛び込む。全ては掛けさせない。それはリャンも分かっていて、トロンプ・ルイユで支えを作りなお走る。


「ならば次は腕です。」


 肩を切断しようとしたら一撃はしかし、隠密により一瞬隠れられ迎撃出来る場所へ撤退される。直前ではないなら時間が稼げた。兵並べ放たれる無数の矢は全て的に当たるのか?答えは否か?違う。それが操作出来るのなら・・・、迎撃させないだけのピンポイントへの順次殺到が可能なら全ては当たる。


「万物は流転するか・・・、か!」


「そうです。減らなければ回り続けそれはいつの日か巡り合う。」


 リャンが俺がやった様に縦回転で魔法を躱し、その勢いのまま魔法を蹴って進んで来る。そこに計算なんてない。あるから使うと言うだけだが、蹴り落とされ魔法は他の魔法に当たり連鎖的に操作は崩れる。まぁ、当然だろう。列が乱れれば誰かに当たるのだから。


「さて、次はユーモアですよ!ほら、そこに花が!」


「この期に及んでその様なまやかしが!」


「あらぁ?今はまだ私の土俵よ?」


「!?」


「美を汚すなんてとんでもないじゃない。美とは調和であり城壁であり楽しませるモノであり・・・、何より焦がれるもの。ほら、満開のその子達は誰かしら?」



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「アレって誰なんだ?」


「さあ?魔女がユーモアならって話で出たからユーモアなんじゃない?」


 最終的に扇動したのは魔女と言う事で手合わせしろと出した。その結果魔法は消えて煙人間っぽい物が出てきた。多分、小手先の技だろう。人はなにか一点に集中すればパレイドリアが加速する。その隙は大きくて一度そうだと認識したら改変するのは難しく、一旦仕切り直して冷静になるか指摘されるかしかない。まぁ、指摘されても信じ込んでいたら中々改めないのだが・・・。多分リャンの目には親やら知人が見えてるんじゃないかな?


 それを張り倒せるか否か。実に嫌らしい攻撃でありつつ、煙人間が動くと同時に魔法を放っているので、感覚としては知り合いに襲われている感じだろう。


「ユーモアか・・・、だが悪手だろう?俺なら激昂する。」


「それは人それぞれだね。あの人って人質作戦も見てるから余計に考えるよ。もしかしたら、自分と同じ様に扇動されて連れてこられたのかもしれない。もしかしたら、本当にまやかしなのかもしれない。もしかしたら、別の何かで殴ったらまた腕を失うのかもしれない。傷の再現同様、本人の心の傷に対してダメージを与えるのは結構応える。」


「やはり悪趣味だ。」


「それで折れるならそれまでなんじゃない?立ち上がるかは別だし、真実を見抜けるかもまた別。でも、無闇矢鱈と突っ込まなかった事は評価するかな?」


「立ち止まる事が評価に値すると?」


 リャンは拳を握り締めたまま構えは解いていない。出される魔法は殴り落とすが、その歩みは遅くさっきまでの直線的で速度を求める様なモノとはうって代わり、その一歩を踏みしめる様に歩いている。


「原点に帰って見つめ直す。君達は闘争心は高いくせして臆病な所があるんだよ。今やってる事は正しいのか?とか、本当にそんな事を考えていたのか?とかね。精神的に揺らげば僕達としても力は貸しづらくなる。昔実験しただろ?武器を使ってるのにコレは弱いとか切れないなんて言い続けるやつ。アレは違うと打ち消せるからまだいい。でも、自身の根幹にかかわるなら話は別でしょ?例えば奥さんから君と離婚したいとずっと思ってたなんて言われたら・・・。」


「多分心が死ぬ。立ち直るまで時間がかかる。・・・、確かに自身の行いを振り返るのは大事だな、うん。」


 恐ろしい事を賢者が言う。そして、その可能性を否定しきれないのがまたもどかしい。他人の心の内なんて分からないし、それで別れるなんて事になったら嫌だから自分を見つめ直す。なるほど、人にも言ったが確かに立ち止まるのは大切だな。



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「あらあら、何を泣いてるのかしら?」


「我は・・・、格闘家がでなかった。」


「今はそうなんでしょう?」


「サバイバーとなり、自身を鍛え直し武術家としての矜持により拳で戦い技を得た・・・。」


「それで?」


「本当は怖かったのだ・・・。人が離れ弟子が離れ・・・、積み上げたモノが崩れ去り・・・、しかし縋るモノはそれしかない。なかったのだ・・・。しかし、我は諦められなかった。故に至り格闘家を選び・・・、更にその先を目指す!」


「あら、おめでとう隠遁者にして体術師。握り込んだ拳は開けたかしら?」

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― 新着の感想 ―
今の魔法設置が出来るならやっぱり一人でスタンピードの阻止又は大遅延が出来た疑惑が出ますな 要するに3次元上に魔法を認識出来る限り無制限無尽蔵に放てる面以上の3次元制圧が出来る訳ですよね 一人で大規模空…
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