738話 それなら・・・
「さてと、何処に向かってるんです?」
「東京ギルドですよ。先に話しますがリャン氏と会うのはゲート内です。」
「分かりました、それが一番リスクが少ないですからね。
明け方に松田が現れてそのまま2人でドライブ。松田曰く『私が運転手をするなんて家族以外にはない光景ですよ?』との事。実際地位を考えても松田が運転手やるなんてそれこそ、プライベートくらいだろう。仮に接待するにしても、それは国が絡んだ政治家としての接待で周りにはSPやらもたくさんいるだろうし。
「流石にいきなり殺し合いはないと思っています。ですが、私はチャンと言う方は知っていてもリャンと言う方は知らず、そしてクロエさん。貴女の闘争心もまた、私では推し量れない。今の時代、人に関する心理学ほど爆発的に発展する学問も珍しくないでしょうね。」
「それはようやくと言う話でしょう?人は無数にいますけど誰一人として他人の心の内を知る事は出来ない。だから感情論もあるし、情状酌量と言う話で減刑や執行猶予もつく。まぁ、裁判がいつまで人対人で行われるかは分かりませんけどね。」
「大多数が人対人で時間をかけるべきと思うなら続くでしょうし、もっと簡略化して犯罪者にかける時間も惜しいと思うなら無機質な裁きとなるでしょうね。まぁ、人は他人に厳しく自分に甘い。そして、犯罪者と言う咎人には容赦しない。」
「その割にはジル・ド・レの罪の告白時に民衆は泣いたみたいですけどね。と、そろそろですか。」
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「リャン!本当に手出しはしないのでしょうね!?」
「カカ、我が手出しして勝てるのカ?不可能論を出したのはチャンだろう?」
「そう言う問題ではなく・・・、貴方は最強を目指しているのでしょう?それを踏まえた上で聞いているのです!」
目の前で白湯を飲む男。リャンは自然体で話しますが、本当に手を出さないのでしょうね?クロエ氏とやり合うと言うのは私からすればゲート内なら好きにすればいい。それこそ、ここが自己責任で成り立つとしたのはクロエ氏本人で、本人もそれを認めている。
寧ろそう言った自己責任の上で成り立つ空間がなければ、これから先世界は更に混沌としてしまう。例えば我々は核融合炉を作ろうとしていて、それもかなり完成に近い。しかし、そこには失敗もあり進まない場面もあり、一筋縄では行かなかった。
ゲート外で実験を繰り返していれば放射能を自国でばら撒いたと批判もあるでしょうが、ゲート内ならばどの様な実験を行い隠し通せれば何もなかったと言い張れる。それこそ結合体があのまま朽ちていれば今の様な事もなかったでしょう。
ただ本当に今はかなり不味い。クロエ氏本人はリャンと会う事を承諾し、約束があるとしていますがせめてもう少し落ち着いてから・・・、来年とかが良かったのでは?今回日本が開催した素材フェス。その中で1つの発表があります。
それは国際宇宙防衛軍構想。宇宙人はいる、それもとてつもない技術を持ち我々を歯牙にかける様な事もせず、宇宙の何処かから我々を観ていて気に食わなければ気まぐれに威嚇する。それに対して無策と言うのは国の重鎮と言う立場からして不味く、それは日本を含めた4カ国内でも議論された。
決定打となったのはコアでしょうか?あの時あの場で話た国は・・・、クロエ氏を除く我々はこう思ったのです。人の中から観測する宇宙人に対して隠し事は不可能であると。真に隠し事をしたければ職に就かず、地底にでも潜るしかないのでは?と。
それと同時に沸々と怒りも出て来ましたね。傍観者に徹して動こうとせず勝手にプライベートを覗く覗き魔対して我々は何が出来るのか?と。一部の職に就かない者は職と切り離された観測出来ない者として秘匿性があるのではないか?これは日本も一定数その人員を企業管理者と表向きは銘打って残し、主軸となるのはコア保有国のロシアが研究する事になりました。
当然と言えば当然で四方に八方に広がる光や波長なんて言う、どうやって防げばいいのか分からない様な物を研究するなら、それを有している国しかありません。表向きは宇宙言語と言う話になるでしょうが、本質的には我々の考えを如何にして読ませないようにするかです。
素材フェスで発表される宇宙防衛軍構想は先に米国で合った宇宙軍構想を防衛寄りにシフトチェンジし、4カ国合同で展開しつつ主軸は日米に起き我々とロシアでバックアップする体制です。これはこれからの宇宙開発にも関わる部分なので一国だけでは成り立たないでしょう。次点でインドが噛むか?と言う所もあらますが、そこは国連がまだ使える内に話をまとめるとしています。
人が宇宙に出て何を欲しがるのか?我々は大規模宇宙ステーションを作り学びました。かつてなら空気、水、食料でしたが今はゲートです。それがいればすべてが解決してしまう。この単純でありながら覆せない話は、後のゲートを中心としたコロニーで必ず問題となってくる。
指輪への貯蔵は無制限ですが有限ですからね。地球にはかなりの量のゲートがあるにしても、どの国もそれの権利は譲らない。そして、宇宙へと出した後に取り合いが発生すれば、最悪ゲートは外宇宙へまで放出される可能性もある。相手に渡すくらいならない方がいいと。
そう言った話の中でギルドは無視出来ない機関へと昇華され、クロエと言う人物は良くも悪くも無視出来ない存在となる。それは個としての能力と言う話もありますが、人側にある切り札としての側面も大きい。交渉権も去る事ながら賢者と言う部分が特に我々としては恐ろしくも魅力的ですね。
宇宙でコアは要らないからロシアへ渡すと言い、結果として我々が話し合った末にコアはロシアへ渡った。その会議のOFF中には4カ国ごった煮国家を既に・・・、いや。国を作るのに3年でゲート確保が最優先と言った時点で宇宙進出まで考えていたのではないか?
話をする、話を聞く、他人の発想や考えと言うものは時として受け入れづらく、時として魅力的に映る。彼女をどこまで信じるのかは別として、その発想力は買わせた頂きたい。
「確かに我は最強を目指す。そう、目指している。なら、最強とは何だ?相手を殺せば最強か?それは違う。相手より強かっただけだ。なら、屈服させれば最強か?それも違う。我が強く相手が弱く、竦み上がって従うだけだ。」
「なら、リャンの考える最強とはなんです?」
「違う、我は目指す・・・。」
「お待たせしました。久しぶりと言っておきましょうか、リャンさん。話し中なら待ちますよ?それと・・・、大丈夫なようですね?」
松田氏と共に現れたクロエ氏は黒いビジネススーツ姿と、これから商談をする様な出で立ちでキセルをプカリと吸った。何が大丈夫なのか?紅い瞳はリャンを一瞥するとそう言葉を放つ。私が話して引き延ばす?しかし、チラリと見たリャンは満面の笑みでクロエを見る。ただその笑顔は・・・、気配は明らかに戦う者として切り替わっている!
「中層へ行き声は消えた。故にこうして現れた。チャン達が訓練場を提供してくれたおかげで、ゲート外でのスィーパー戦も少しは慣れた。」
「なるほど。それでなら話は分かりますね?不死なる私に勝つ算段は?」
「ない!しかし、確かめてもいない!故に手合わせ願いたい。」
「勝てないのに?」
「うむ。我は最強を目指す者。故に強き者とは対峙せねばならぬ。そうでなければ我は我として生きて逝けん!」
「あ〜、分かりました。松田さん。手合わせだそうです。色々悩みましたけど最後の一線はまだ守れそうだ。」
「なに簡単に承諾してるんですか!要は殺し合いするって言ってるんでしょう!?」
「そうですクロエ氏!リャンはゲートから出て散々に我が国で暴れた危険人物です!」
「なに言ってるんですか。コレが決闘やら果たし合いなんて言うならいくらでも遺恨は残るし、どちらかが死ぬまでやるしかない。しかし、本人が手合わせと言うならこれは稽古です。さて、言っておきますが私は格闘経験なんてほとんどない。それは理解してますね?」
「うむ。理解出来る。我が目指すは最強。故に手合わせもなく最強と認められても納得せん。それに、目指すが故に強き者には教えを請う。我、拳未熟なれど、泰山砕く意志はある。」
「ふむ・・・、ここです。顔でもいいですけど、髪は気に入ってるので心臓狙いでここに1発、全力で打ち込みなさい。手合わせはそれからです。松田さんとチャンさんは離れて。出来る限り遠くへ。一応、守りはしますけど私も戦うなら結構派手なんですよ。」
「行きましょうチャンさん。」
「しかし、いいのか松田氏!このままでは!」
「死なずの者が稽古すると言うんでしょう?私は諦めました。ここでいーでーすかー!!」
「いいですよーー!!さて、どうぞ。」
「心得た!」
本人達は納得しているが何を納得した?私の横に松田氏もなんだか諦めたように見えるが何を?そう思うよりも早く、瞬きよりもなお自然に、リャンの一撃はクロエ氏の胸を・・・、穿った!
「はっ?えっ!?」
「うわっ!痛そう・・・。」
「当然です!クロエ氏は今胸を貫かれているんですよ!」
「それが?」
「それ、が?」
私の目は壊れたのだろうか?それとも何かの魔法なのだろうか?棒立ちしたクロエ氏は確かにその胸を貫かれ、貫いたリャンはその姿勢のまま動かない。私には分からないが、目指した最強がこうもあっさりと一撃を許し、それに対する憤りがあるのか?まだ舐められていると、それこそコレで貴方は最強と言われればリャンはなにも・・・。
「ぐっ・・・!」
「悪いですが身を持って知ってください。殴るより貫く方が貴方はダメージを貰う。さて、これはお返ししましょう。薬を使って繋げたら改めて手合わせです。」
貫いたはずのリャンの腕の一部が逆に消えている?貫かれたと言う事実は確かに服が破けているから合った。しかし、その先で・・・、本来ならリャンの勝利と言う結末はリャンの腕の切断と言う形で崩された。掴んでいた腕をリャンに渡し、更に薬で繋げてかかってこい?一体何なんなんだ?
「非公式の話をするならクロエさんは既にモンスターから幾度となく貫かれ、或いは食われています。それでもなお、彼女は動き出す。」




