737話 明日には会うか
「それは相手が格闘家だから・・・。」
「多分そこが間違いかもしれないんですよ。相手は格闘家だから挑まれた私は格闘戦で対峙する。でも、私は格闘経験なんてものはない。やれるのは魔法であって赤峰さんと戦った時だってフィニッシュは魔法です。選出戦で上がってこいとは話しましたけど、何か1つを極めて来いとは言ってないですからねぇ。」
「それはまぁ・・・。なんにせよリャンさんとは話してもらいましょう。」
欲しいのは戦士であって格闘でもなければ、剣士でも魔術師でもなく戦える者。職に名前がありそれに就いたならその方向性に向かうのだろうが、本質的にはモンスターを倒すものであって最強やらとは関係ない。
だってそうだろう?モンスターはビームも撃てば実弾も撃つし、近寄れば斬りかかりもすれば電撃やらビームワイヤーなんかで攻撃して来る。それでなくとも分裂もすれば回復する奴もいる。それを倒し回れるスィーパーは欲しいし、強ければ強いほどスタンピードの発生リスクも減る。
まぁ、人は機械ではないしそればかりを繰り返し行う事は出来ないけど。既にゲートは生活やらにも関わってきているし、そこに住む人もいる中で常識やら考え方がどう変わるのかは分からない。ある意味リャンは新しい感覚の人間になっているかもしれないな。
そんな事を松田と話た後、会場にいる神志那と合流して先に見て回る。まだ搬入段階と言うか飾り付け段階なので当日までモノは置かれていないけど、それでも規模が規模だけに人は多い。神志那に望田とフェリエットは?と聞くと警備の打ち合わせで会場を歩き回っているらしい。
これだけ考えると、この場にいる神志那が合法的な産業スパイと思われても仕方ないが、神志那自身は会場にいる事が抑止力にもなるんだよなぁ・・・。誰かが何かを取り出して敵対的な行動を取ろうとする時、それが何なのかを看破して被害規模も分かれば、奪えるなら奪ってしまって使いこなせる。
「お久しぶりですウィルソンさん!」
「おお!クロエさんお久しぶりです。」
周りの視線は痛いが取り敢えずウィルソンとハグして仲良しアピールしておく。誰が何と言おうとウィルソンはソフィアを預かってもらっていた知人!そんな事を思っている横で神志那の目は輝きっぱなしである。話によると俺が松田と話している間に、会場を見て回りつつ企業人やら研究者先生達と話し込んでいたらしい。
「今回米国は飛行ユニットを?」
「それも含めてと言った所ですよ。S・Y・Sやら宇宙開発への視線は熱い。そして資金も有れば素材不足と言う檻もかなり薄くなった。我々としては飛行ユニットと種子島でも使用した持ち運び可能な居住スペース。後は科学的な発表に括りつつと言ったところですね。」
「クロにゃん目玉ひん剥くぜ!今回色々話聞いて回ったけど、第一回と言う事を加味しても歴史に残るぜ!」
「歴史に残る?そんな発展した技術が?」
「米国のは発表がある当日まで話さないけど、通信技術は世界的に変革期かな?今使ってる電波方式から更に高精度のモノも開発されてるし、他の国は調査船と言う名の探査機も作られてる。」
(一応、火星と木星目指すらしいよ?)
(火星はいいですけど土星ってガス惑星なんじゃ・・・。)
土星とは巨大だがガス惑星で水素とヘリウムで成り立っている。輪っかの方は隕石なんかの石で大小様々が有り、有名なのはイオとかガニメデとか?90年代の魂を有しているならガニメデをテラフォーミングして住むなんて話もあるけど、現実ではかなり難しいだろうなぁ。
先に火星に目を向けてテラフォーミングすると言う話やら月をテラフォーミングなんて話の方がまだ現実的だし、S・Y・Sの事を考えるとテラフォーミングが必要なのか?と言う話もある。ただゲート搭載コロニーが作られたとして、その中での対スタンピード戦闘は不可能と言う声もあるから戦える土地は必要なのよね・・・。
「種子島と言うか宇宙ステーション公開は起爆剤となりましたか?」
「その考えは合っているでしょう。宇宙開発は国家規模で行い、その中身も外部に漏らす事は稀で1から理論構築をしようとすれば、まだ膨大な時間がかかる。しかし、それを公に公開しノウハウはばら撒かれた。ちょうど飛行ユニットと一緒ですよ。今はまだ作られていないかもしれない。しかし、それは表面上の話でゲート内は分からない。」
「確かに1km程度の宇宙ステーションなら持ち運び可能で、明日には宇宙ステーションを設置したと言う国が現れてもおかしくないですからね・・・。」
「ドイツのパワードスーツはまさにそんな感じだったよ。無人機を打ち上げるのと人が単体で大気圏離脱する。これは過去なら無人機に軍配が上がったけど、今だったらその後の作業効率を考えると人に軍配が上がる。最悪宇宙ステーション取り出してそこに逃げ込めば生きられるし、パワードスーツが故障しても大気圏内なら早着替えでパラシュート使ったり、単体飛行可能なら飛べばいいかんね。」
「来年辺り、地球の周りはコロニーで溢れかえってそうだ。」
神志那の話もそうなのだが宇宙人が・・・、肉体のある未知の生物がいると言う話も大きいのかな?残念な事にドックの宇宙人にしてもソーツにしても人類に優しくはない。それは裏を返せば滅んでも滅ばなくてもいいと言う事で、ソーツはまだビジネスとしての付き合いがあるし魔女達も観測者として見ているが、何かあってもソーツなら我々には関係ないと言うだろうし、魔女達なら傍観者としてのスタンスも崩さないだろう。
そうなると自力でどうにか出来る手段は必要で、地球から出られないと言うのは防戦だけになるとも考えられる。それを危惧しての宇宙進出だろう。個人的には呼び込み呼びかけさえしなければ後はどうでも?
流石に宇宙から地球ぶっ壊すなんて話になれば阻止するけど、開発するだけなら止めようもないし、その先で何かと出会うと言うならそれはもう、止めようもない現実なんじゃないかな?
「宇宙防衛軍構想をクロエさんはご存じないんですか?」
「ゲームの世界の様な話ですけど、ご存知はないですね。なんですかそれ?」
「いや・・・、それなら私の口からはまだ話さないで起きます。」
「ふむ、知るべきでない話なら聞かなかった事にしましょう。元々米国は宇宙軍自体は作ろうとしてましたからね。その上で声がかからないなら政治的な話なんでしょうし。」
宇宙軍から宇宙防衛軍へ、か。何から守ると言う部分でゴタゴタしてきそうだが、ゲート関連でなければ俺には取り敢えず関係ない。宇宙人はゲート関連なのか?微妙な所で対話と言うか宇宙言語でメッセージも作れるのだろうが、少なくともそこにモンスターはいない。それにその辺りは学者の領分じゃないかな?
その後の台湾ブースやら神志那が熱を上げるドイツブース、その他のブースを見て回りその日は終了。ホテルに帰り部屋に1人。何をするでもなく酒を味わっていると1枚の封書が届けられた。
『松田です
明日チャン氏とリャン氏と会うセッティングが出来ました。
私が直接お迎えにあがります。』




