736話 話さないと始まらない
「さて・・・、例の件ですが。」
「ええ、その話でしょうね。やはり?」
「この期間中と言う事で話をまとめました。それに伴いチャン氏本人とリャンと言う方が来られますね。はっきり言いますけど今から取りやめる言う話は出来ませんか?個人的な約束と言っても反故に出来ないモノではないでしょう?」
「反故にした方が危ないですよ?まぁ、座って話しません?」
千代田は部屋を出て松田と2人。灰皿があるのでタバコをプカリ。反故にする、それは確かに理想的で本当に丸く収めるなら俺ではなくリャンが納得するかによる。それこそ『俺最強!』『その通り!アンタが最強!認める!』で納得すればいいのだが、その時期は過ぎている。と、言うかその時期もなかったか。
ゲート内で出会った時に最強を認めても納得しなかったのはリャンだし。なら、次のステップはどうすればリャンが最強を認めるか?なのだ。それこそ人は人の理想の神しか認めない様に、リャンはリャンの理想の最強しか多分受け入れない。そう、認めるのではなく受け入れる。
この違いは大きく、認めるよりも受け入れる方がはるかに難しい。なにせ嫌々だろうと認める事は出来る。しかし、受け入れると言う事は納得してしまうと言う事で、納得してしまえば反論しようにも常に自分に自問する部分が出てくる。
「反故にした方が危ない?」
「ええ。スィーパーの最大の危険性はその能力もそうですが、どれだけイメージ出来るかです。リャンと言う方はソフィアを助ける際に中国軍に同行して私に手合わせを申し出た。私が最強であるとしてね。しかし、私はその最強と言う物をリャンに渡して手合わせをしなかった。・・・、いえ。一撃で逃げ出させたという方が正しいか。」
「・・・、それって既に勝負が決まってません?それでもなお挑むと?どれくらい修行したかは分かりませんけど、簡単に追いつけるものでなければ追い越せるものでもないでしょう?」
「さぁ?下位から中位へ至って何かしらの道筋を見つけたのかもしれませんし、そもそもゲートに引き籠もってたから情報そのモノを最近得た可能性もある。私のダブルEXTRAの話って、正式に発表したのは国際会議の時ですし、それよりも前からゲートに籠もってれば不明だけど何かいい職に就いているくらいしか分かりませんからね。ただ、1つ言えるのは本人は約束を果たした。」
「約束?至る事ですか?」
「いえ、中層まで進む事です。彼の場合チームではなくて単騎なので、それ相応の実力はあると思います。」
「なるほど、単騎で中層に殴り込めるスィーパーが約束を反故にしたと暴れるのは怖い。それに・・・。」
「やるやらないは別として家族を狙う可能性もある。その場合私は彼を処断、有り体に言えばゲート内に連れ去って処理するかもしれませんし。」
最終手段として、その選択肢からは目を逸らさない。それを外して後悔するくらいなら誰に何と言われようと、その選択肢は常に残しておく。人の導き手を害する者を許す必要性はない。
「・・・、微妙なラインですが殺害予告と聞こえる。口外は控えて下さい。」
「止めはしないんですね?」
「日本国内含めゲート外でやるなら私は全力で止めます。それは勝てる勝てないではなくて、法治国家日本に住む政治家として、如何なる理由があっても私刑を認めるわけには行かないからです。それを認めてしまえば国は崩れ、法はゴミになり人は獣に・・・、獣以下に成り下がる。それは分かっているでしょう?特に貴女も貴女の家族も有名人です。」
「それが分かってるからゲート内。家族に手を出されて法で縛られない場があるならそこで対峙する。残念な事に寛容不寛容と言う話をするなら譲れない一線はそことなります。と、言っても先ずは会わないとですね。」
「会って大丈夫なんですか?内とは思いますけど先に手を出しませんよね?」
「まさか。それこそまさかですよ。ゲート外で手を出すわけないじゃないですか。」
先ずは話から。それでリャンが納得する形が分かればそれで良し、なければ仕方なし。まぁ、そこまで行き着くか行き着かないかと言う話なら、多分行き着かないかと思う。だからこそ話さないといけない。
「それを信じても?」
「差し出す材料はないですよ?」
「今の時代ほど人を信じる事の難しさを感じる事はないでしょうね。昔なら信じて裏切られてもリカバリーする道は残されていました。しかし、国際会議でも言われた様に暴走リスクと言う物を考えると国は下手をすれば個人に傅くしかない。」
「黙って仕事してれば平和である。昔から沈黙は金と言うでしょう?淡々と仕事をする人ほどお喋りよりも信頼は出来る。でも、人は相手が分からないと信用は出来ない。だから話しかけてしゃべられせて心の内を探ろうとする。少なくとも私の心の内内は昔も今も家族とあることですよ。」
「はぁ〜・・・、セッティングはします。明日来日するのでそこで対談して下さい。ただ、そこには私もチャン氏も立ち会います。口を挟む気はありませんが、最悪があるとするなら2人で対処する事になる。」
「ふむ・・・。手錠を掛ける・・・、では意味がありませんね。まぁ、ゲート外で先に手を出す事はありませんよ。それはリャンも同じです。」
「やけに断定しますね。根拠は?」
「簡単な話です。最強を目指すのに不意打ちで倒しても本人が納得しない。そして、最強を語るなら対外的な評価はなくてはならない。難しいんですよ最強って。私は目指してなくてもそう評価された。彼は目指していてもそう評価されなかった。コレがリングの上で戦う様な競技なら単純明快でいいんですけどね。」
妻とも話したし場外乱闘もやるなら落とし所も探す。本当に面倒だ最強なんてものは。誰かが貰ってくれると言うか引き取ってくれるなら熨斗付けて渡してしまいたい。と、言っても自分のやって来た事が今度は立ちはだかる。
「仮にリングの上で戦うなら相手は了承すると思います?そう提案してルールを決めて・・・、例えば頭脳戦としたとしたら?例えばチェスや将棋は盤上の格闘技とも言いますし。」
「了承してくれたら願ったり叶ったりですね。それこそコイントスで決めてもらって構いませんよ?これほど単純で公平な戦いもない。互いに目隠しでもして閉じこもって、トスする場所も不明で・・・、投げる人も最初に2人の前を通った人とでもすればいい。と、言うかその辺りは私から提案しますよ。」
「いやいや、私が言うのもなんですが流石にそれは激怒するでしょう?」
「されても提案しますよ?相手の土俵でなんで私が戦わないといけないんですか?」




