733話 決意
「それで、どうやってこっちまで来ます?ゲート内で会うならそれでもいいですけど、仮に海を走ってくるなんて言うなら密入国者として会う事さえしません。ついでに言うと祭りを控えているのであまり時間は取れませんが?」
『会える確証があるならそれでいい。・・・、チャンに任せると言うのは?我が色々するよりもそれが早いと思う。』
「私としてはそれでもいいですし、祭り後の暇な時期ならゲート内でも構いません。ただ8月末は素材フェスと言う祭りもやるので、そこもそこそこ忙しいですね。」
『相わかった、チャンに任せる。ほれ・・・。』
スマホを投げる音と受け取る音が聞こえる。チャンって結構大物だけどそんな扱いしてリャンは大丈夫なのだろうか?下手するとチャンからと言うか、チャンの配下から命を狙われそう。まぁ、その程度で死ぬとは思えないけど被害はでかいよな?
寧ろリャンとチャンはなんでまた一緒に?元々軍関係者としていたからそちら方面からチャンに連絡が入った?下手に密入国されるよりはそっちの方が断然いいのだが・・・。
『もしもし?クロエ氏よかったのですか?』
「いいも何も中層まで行ったら会うとは言ってましたからね。本人が最強と言い、私はそれを認めたんですが本人がそれに納得しない。まぁ、平行線なんで会って話さないと収拾も付かないでしょう?」
『分かりました。ただリャンとクロエ氏の出会いは何があろうと両国共に感知しない。それで構いませんね?』
「構わないと言うか結局ゲート内に行くでしょうから大丈夫ですよ。コチラとしても松田さんの方に話を出すので・・・、ちょっとリャンさんに代われます?」
『それは構いませんが・・・。』
『代わった、リャンだ。』
「ゲートで会うにしても、日本にチャンさんが連れて来るにしても大人しくしておいてくださいよ?コレは約束です。下手に暴れて犯罪者となるなら会いません。家族を狙って人質を取る様な弱者なら手合わせする事さえしません。チャンさんに従い正規の手続きを踏んで挑むなら来なさい。」
『了解した。今更1ヶ月も1日も変わらない。寧ろそれを残された猶予として使おう。話は聞こえたかチャン、我はお前を守る。お前は我の最強へ挑む切符だ。みすみす逃しはしない。』
何やら電話越しにチャンが頭を抱えている様な気もするが、手綱を握る人間は必要だよな?最後に確認したのは青山だしその時は中層付近を彷徨っていた。まぁ、話した感じまともそうだし、前の様に会えないからと暴れまわる事もないだろう。
『・・・、コソッと言いますけどこのまま会わないと言うは?護衛として貰えるなら欲しいんですけど?』
「死にたいなら・・・、何度でも死ぬ覚悟があるならどうぞ?寧ろ決着が付いた後にそう言う取引をするなら飲むんじゃありません?どの道ゲートには入るでしょうし、バックアップしてくれるなら的な?」
確かにリー貰ったし中位に至ってるならリャンは欲しいよなぁ〜。単独で中位行ける中位スィーパーと言えば現状では最高戦力に等しいし。
『分かりました、その手の交渉は私がしましょう。では。』
チャンからの電話が切れてタバコをプカリ。本当に最強ってなんなんだろうな・・・。妄執の様に追い求め、誰かを傷付けて得られる称号?う〜ん・・・、やっぱり要らないモノだな。それを欲する人には価値があったとしても、俺にとっては本当に不必要でくれると言っても拒否する。だって、そんな言葉を狙って誰かに襲われるとか面倒だし。
ただ今の所は俺が最強と呼ばれるし、職的にもそうなっている。わざと負けても納得の文字はなく厄介な事に本人が勝ち負けに納得しないと終わりがない。
「本当に面倒な生き物だな・・・。」
「戻りました〜。どうかしたんですか?」
「いや?ちょっと面倒な人がいてね。」
「青山ですか?それなら文句言ってきますけど。」
「違う違う。ちょっと松田さんに連絡するよ。カオリの方は一段落?」
「ええ。お祭りの準備はかなり進んでますよ?日田杉で櫓組んだり的屋の出店も選定が終わったり。花火の方はエマも手伝ってくれるって言ってましたからね。」
「それはよかった。商工会に任せきりだけど準備は何事もなく終わりそうだね。」
「はい!施設の子供達も来ますし、無料で配る風船とかうちわも十分ですよ。あっ!そう言えば神近さんに呼ばれてるんだった、行ってきますね。」
望田が帰ってきたと思ったらまた出て行き1人。さてと、俺の方も松田に電話しておくかな。流石にギルド祭りには来ないだろうけど、リャンが日本に来るとしたら素材フェスに伴ってチャンと共にかな?
基本的にはブローカーと企業人がメインになるけど、それでも政治家が来ないとは言えない。松田が言っていたけど企業が開発する技術と言うのは国主導とは違い、研究者が自由にしている部分が多い。どうしても税金つぎ込むと優先順位が生まれ、その優先順位は生活に関わるものと戦に関わるもののウェイトが増える。
まぁ、スタンピードの事を考えると生活に関わるモノよりも戦関連が本当に増えていて、今回来る企業もゲートを進むと言う所から一般向けにしたものが多い。サイラスの杖とかそんな感じだしな。
「もしもし松田さん?」
『もしたしクロエさん?どうしました?大分ギルド祭りのお誘いですか?』
「松田さんの場合誘わなくても来たかったら来るでしょう?お祭りの話ではなくちょっとしたお願いですよ。」
『お願い?無理難題じゃないですよね?例えば宇宙人と交渉お願いとか。』
「違いますよ。中国のチャンさんから来日依頼があって、その時にリャンと言う人物を連れてくると言うならOKして欲しいんです。」
『聞かない名の人物ですが政治家や研究者ですか?対談と言う形ならセッティングまでしますけど。』
「対談ではないですね、単純に私の客人ですよ。会うと言う約束をした人物なのでチャンさんと来るなら害はないと思って下さい。」
『何やら不穏な気配がしますけど、その客人ってなにしに来るんです?』
「う〜ん・・・、私は要らないけど本人が欲しいモノを取りに来るとかですかね?渡してしまっても全然構わないんですけど、本人が『あげるよ!』に納得しないんですよねぇ〜。」
『・・・、因みに取りに来るモノは?』
「最強とか言うよく分からないものです。中国と日本、国は関係なく私とリャンさんにだけ関係ある話なので、特に気にする必要はないですよ?」
『関係ありますよ!?なに最強の称号渡そうとしてるんですか!渡したらどうなるか分かってるんですか!?』
「いや、分かってるも何も最強の称号ってどうやって渡すんです?」
『そりゃぁ・・・、クロエさんが最強と認めるとか?』
「だから、それで納得しないから困ってるし会うんですよ。多分納得しないでしょうけど、私が何発か殴られて本人が納得するなら良し。殴るんじゃなくて胸を貫いて勝ったと勝鬨を上げるならそれでも良し。」
『まさかノーガード戦法を取る気ですか?』
「それもありなんですよね。本人が無抵抗の相手を殴って最強と言うならその程度なんでしょうし。まぁ・・・、そうはならないんでしょうけどね・・・。」
やりたくもなければしたくもない。しかし、その可能性を口にしたら刈り取る。それはリャンが納得せずに家族を人質に取ること。その可能性がある以上、俺はリャンを野放しにはしないし納得して穏便に最強とならない限り、多分殺すしかない。
いつだったか赤峰に言われたな。いずれ殺す覚悟をする時が来ると。大切なものを傷付けられるくらいなら、俺は明確な殺意を持ってその願いを叩き潰す。




